27 / 31
27
しおりを挟む
「何の話?」
俯いたままでなかなか話さない翔に彩華が尋ねた。
「俺の子供じゃなかったんだ」
翔がボソッと言った。
「え、どういうこと?」
「正直言うと、あの日のことはあんまり覚えてなかったんだ。かなり酔ってて記憶が途切れ途切れで。ホテルに行ったことは覚えてたんだけど……」
「でも、その……彼女と関係を持ったんでしょ?」
自分で聞いておきながら、耳を塞ぎたくなった。
「それが……わからなかったんだ」
「え? わからなかったって、どういうこと?」
「翌月に彼女から電話があって、子供が出来たって言われたんだ。あの時の子だって言うから、頭の中が真っ白になって……」
翔が溜め息を零した。
知りもしないその状況が頭に浮かんで、彩華は胸が苦しくなった。
「彼女、俺が客との付き合いで行ったクラブの子だったんだけど、酒が全く飲めない子でさぁ。でも、金が必要でそこで働いてるって言ってたんだ」
彩華は頷きながら黙って聞いていた。
「後から考えれば、そりゃ飲めないはずなんだ。彼女、その時すでに妊娠してたんだ」
「――えぇっ!?」
声を上げた後、彩華は二の句が継げなかった。
「その時彼女、別れた彼氏が作った借金の返済があるからとか言ってて、その話を俺真剣に聞いててさぁ。どんどん酒勧められて、気付いたらベロベロで」
「それで、ホテル行ったんだ」
「いや、違うんだ。俺、こんな状態で家帰れないから、近くのビジネスホテルで休んでから帰るって言って店を出たんだ。そしたら何故か彼女がついてきて。心配してくれてんのかと思って、ホテルに着いてから『大丈夫だから』って伝えて彼女には帰るように言ったんだ。それで俺そのまま寝ちゃったんだよ。でも、目が覚めたらまだ彼女がいて。それっぽいこと言われて……」
「そんなの――」
「おかしいけど……絶対に何もないと思ってたけど……、覚えてないだけに知らないとは言えなかったんだ」
翔が嘘を言っているとは思えなかった。
「翔ちゃん、騙されたの?」
言ってから、この言葉は恐らくプライドの高い翔が一番言われたくない言葉だろうと思った。
翔は何ともいえない表情で頷きながら、「そうだ」と言った。
「それ、いつわかったの?」
「彩華と別れて少し経った頃だよ。ずっと不審に思ってはいたんだ」
「どうして?」
「俺、彩華との不妊治療中に色々勉強したからさぁ、どう考えても二ヶ月くらい早く産まれたんだ。でも、早産とも言われてなくて、子供が小さく生まれた訳でもなくて。それがずっと引っ掛かっててどうしても納得いかなくて、聞いたんだ」
鼓動が速くなるのを感じていた。
「そしたら彼女、別れた彼氏の子供だって言ったんだ。俺、子供が出来たって言われた時以上の衝撃受けて、言葉を失ったよ。その時初めて騙されたって気付いたんだ」
「そんな……」
「結局、彼女は子供の父親と復縁したんだ」
彩華は言葉を失った。
自分達は、それが原因で十年間の結婚生活にピリオドを打ったというのに。半年経っても未だ吹っ切ることが出来ない翔への想いを抱えて、こんなにも苦しんでいたというのに。
さまざまな気持ちが溢れ出し、知らぬ間に涙が頬を伝っていた。
俯いたままでなかなか話さない翔に彩華が尋ねた。
「俺の子供じゃなかったんだ」
翔がボソッと言った。
「え、どういうこと?」
「正直言うと、あの日のことはあんまり覚えてなかったんだ。かなり酔ってて記憶が途切れ途切れで。ホテルに行ったことは覚えてたんだけど……」
「でも、その……彼女と関係を持ったんでしょ?」
自分で聞いておきながら、耳を塞ぎたくなった。
「それが……わからなかったんだ」
「え? わからなかったって、どういうこと?」
「翌月に彼女から電話があって、子供が出来たって言われたんだ。あの時の子だって言うから、頭の中が真っ白になって……」
翔が溜め息を零した。
知りもしないその状況が頭に浮かんで、彩華は胸が苦しくなった。
「彼女、俺が客との付き合いで行ったクラブの子だったんだけど、酒が全く飲めない子でさぁ。でも、金が必要でそこで働いてるって言ってたんだ」
彩華は頷きながら黙って聞いていた。
「後から考えれば、そりゃ飲めないはずなんだ。彼女、その時すでに妊娠してたんだ」
「――えぇっ!?」
声を上げた後、彩華は二の句が継げなかった。
「その時彼女、別れた彼氏が作った借金の返済があるからとか言ってて、その話を俺真剣に聞いててさぁ。どんどん酒勧められて、気付いたらベロベロで」
「それで、ホテル行ったんだ」
「いや、違うんだ。俺、こんな状態で家帰れないから、近くのビジネスホテルで休んでから帰るって言って店を出たんだ。そしたら何故か彼女がついてきて。心配してくれてんのかと思って、ホテルに着いてから『大丈夫だから』って伝えて彼女には帰るように言ったんだ。それで俺そのまま寝ちゃったんだよ。でも、目が覚めたらまだ彼女がいて。それっぽいこと言われて……」
「そんなの――」
「おかしいけど……絶対に何もないと思ってたけど……、覚えてないだけに知らないとは言えなかったんだ」
翔が嘘を言っているとは思えなかった。
「翔ちゃん、騙されたの?」
言ってから、この言葉は恐らくプライドの高い翔が一番言われたくない言葉だろうと思った。
翔は何ともいえない表情で頷きながら、「そうだ」と言った。
「それ、いつわかったの?」
「彩華と別れて少し経った頃だよ。ずっと不審に思ってはいたんだ」
「どうして?」
「俺、彩華との不妊治療中に色々勉強したからさぁ、どう考えても二ヶ月くらい早く産まれたんだ。でも、早産とも言われてなくて、子供が小さく生まれた訳でもなくて。それがずっと引っ掛かっててどうしても納得いかなくて、聞いたんだ」
鼓動が速くなるのを感じていた。
「そしたら彼女、別れた彼氏の子供だって言ったんだ。俺、子供が出来たって言われた時以上の衝撃受けて、言葉を失ったよ。その時初めて騙されたって気付いたんだ」
「そんな……」
「結局、彼女は子供の父親と復縁したんだ」
彩華は言葉を失った。
自分達は、それが原因で十年間の結婚生活にピリオドを打ったというのに。半年経っても未だ吹っ切ることが出来ない翔への想いを抱えて、こんなにも苦しんでいたというのに。
さまざまな気持ちが溢れ出し、知らぬ間に涙が頬を伝っていた。
1
あなたにおすすめの小説
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。
Short stories
美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……?
切なくて、泣ける短編です。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】
けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~
のafter storyです。
よろしくお願い致しますm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる