愛のかたち

26

　座敷に上がりテーブルを挟んで向かい合って座ると、翔は一瞬表情を強張らせた。

「ずっと、彩華と話したかったんだ」

　翔は緊張しているような、怯えているような、そして悲しそうな目を向けている。彩華は胸が詰まって、グラスに視線を落とした。

「やり直さないか？」
「え？」

　驚いた彩華は再び翔に視線を向けた。

「俺のとこ戻って来る気ねぇか？」
「翔ちゃん、何言ってるの？　彼女……奥さんと、喧嘩でもしたの？」　
「違う」
「じゃあ、私のことからかってる？」
「違うよ」

　翔は困ったように眉根を寄せている。

「たちの悪い冗談やめてよ！　私がどんな思いであの日翔ちゃんと別れたかわからないの？　流石にこの状況でそんなこと言ってくる翔ちゃんは最低だよ！」

　今まで翔に対して、そんな言い方をしたのは初めてだった。

「違うんだ！」

　彩華は翔の言葉に耳を貸さずその場から立ち去ろうとすると、慌てて立ち上がった翔が素早く彩華の腕を掴んだ。

「違うんだって！」

　その手を振り払って座敷の上がり口に脱いだパンプスに手を伸ばす。

「――彩ちゃん待って！」

　突然目の前に健太が立ち塞がった。

「翔っ！　お前、何もたもたしてんだよ。こんな時に言葉選んでんじゃねーよ」

　突然健太が血相を変えて怒鳴った。

「健……ちゃん？」
「彩ちゃん、待ってやって。こいつの話聞いてやってほしいんだ」

　健太に諭され、彩華は席に戻った。