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第3章 心が繋がる時
9.妖精眼
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だいたい1時間半ほどで授業は終わった。どうやら少し長引いたようで先生はそれを謝っていたが、メリーベルさんの質問に丁寧に答えた結果なので、サブマスは笑顔で許していた。
私も先生と目があったので、貴重なお話を聞かせてもらえたことへのお礼を言う。
「いやいや、寧ろ私の方がお話を聞きたい予感がいたします。機会があれば、ぜひ」
予感ってなんですかと尋ねたくなったが、そこは曖昧に笑って誤魔化しておくことにした。先生はこの後研究所で会議らしく、迎えの馬車に乗って帰って行った。
「それでは、ぜひ今日の感想をお聞かせください」
「ええ、今日は領地で流行り始めたお菓子もありますのよ」
メリーベルさんは午後のマナーレッスンに備えて予習をするらしく一度部屋に戻って着替えてくるとのことで、サブマスとエリーナさんに先導されて、私は庭がよく見える部屋に通された。楕円形のテーブルには、お茶の用意が整っている。
引かれた椅子に座り、何処か花の香りがする紅茶で喉を潤して…サブマスとエリーナさんは私をまじまじと見つめてきた。
「如何でしたか?」
「ええ、大変貴重なお話を聞くことができました。ありがとうございました」
「リッカさんの知識とは違いましたか?」
「ええ…」
この話をして良いのか、エリーナさんがいるので少し迷ってしまう。エリーナさんはそれを察したのか微笑んだ。
「私の事でしたら、ご心配なく。冬の事件のあらましは伺ってますわ。夫に鑑定魔法を教えてくださったのでしょう?私もお茶会などでそう言う話題が出る事もありますし、そう言う時のために大事なことは知っているつもりですわ」
「お気を遣わせてしまって…」
「うふ、そういうことは仰らないで!」
「…魔法に関して、私の知識とのズレは、確かにありました。例えば、種族の人口比などですね。私の中では、もう少しエルフやドワーフ、魔人種は多いと思っていたので…この辺りの観点からも、色々調べたいと思います。おかげさまで研究の幅が広がりそうです」
このくらいなら言っても問題ないだろう。そんなふうに考える自分の狡さに、内心でため息をつく。…でも、今大事なのはそれじゃない。
「…そして、メリーベルさんは、とても勉強熱心なのですね。10歳にもならないお嬢様があんなに熱心に勉強されているので、とても驚きました」
これは本心だ。彼女は本当に熱心だった。あのくらいの子供が1時間半も座って集中していられるのに驚いた。
「ええ、娘は特に魔法に興味があるようでして。勉強の内容は、すでに学園の2年生の分までは終えてしまっているのです。あれで初級と言われる魔法も二属性は確実に使えますしね」
「夫と同じかと思ったら、属性は水と土で、私と同じでしたのよ。花が好きだから、そうなのではないかと思っていましたけどね」
ニコニコと微笑み、視線を交わす夫婦の姿に、今から余計な問題を投げ込むようで胸が痛くなったが…フードの中に隠れている、紅花の妖精の胸の内を思うと、そうも言っていられない。
「ひとつ、質問があるのですが」
「なんでしょう?」
「妖精が見えることを示す、妖精眼という言葉はご存知ですか?」
サブマスは訝しそうに眉を寄せた。
「ええ。妖精や精霊を見ることの出来る者の目の事をそう言いますね。100年くらい前までは、その目を持つ者は王家の公娼や上級貴族に取り込まれることも多かったと記録には残っていますが…」
「現在は、どうなるのですか?」
「…その目があり、かつ魔力が高ければ王家の囲い込みは……」
「まさか…?」
2人の顔色が、目に見えて青くなった。
「はい、メリーベルさんには、何もせずとも私の連れている精霊が見えていたようです。アーバンさんですら強化を最大限使わなければ見えない状態にしているのにも関わらず…」
一息つくと、私はちょっとお行儀が悪いとは思ったが、テーブルの上にに精霊と紅花の妖精を出した。
「2ヶ月ほど前にご領地に行かれましたか?」
「ええ。私と2人で…なんでご存知なの?」
「その時に、メリーベルさんと一緒にいたい一心で、妖精が1人、乾燥した紅花に潜り込んでこちらにやって来たのだそうです。土地から離れたことで弱っていましたが、今は治癒をかけて持ち直しています」
「ええ、たしかに乾燥した紅花をサンプルとして持ち帰ってきたわ…」
エリーナさんは額に手を当てる。顔色は少し持ち直したようだが、苦悩する顔は先程までの朗らかな様子とあまりにも違うので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。精霊がふよふよと近づいていって、ぽんぽんと頭を撫でている。ギルマスも眼鏡を外して鼻の付け根をもみほぐしている。
「メリーベルさんや、この妖精が悪いというわけではないのです。ただ、土地を離れてまで着いてこようとするほど、メリーベルさんはご領地に愛着があり、妖精たちに好かれやすいということなのだと思うのです。ですので、メリーベルさんのお気持ち次第ですが…この紅花の妖精にチャンスをいただけないでしょうか?」
2人は、私をポカンと見つめている。
「それは、どういう…?」
「簡単に言いますと、魔力を使う契約です。私は、この精霊たちに名前をつけました。結果として、精霊は安定して私のそばにいてくれています。メリーベルさんが、この妖精に名付けをしてくだされば、この子は土地を離れても消えずにいられるはずなのです」
「それには、途方もない魔力が要るのでは…」
「何もせずに名付ければ、そうなる可能性は高いです」
ここからが、今回1番大事なところ…だと思う。メリーベルさんに負担をかけずに名付けをして、この妖精も助ける方法だ。
私も先生と目があったので、貴重なお話を聞かせてもらえたことへのお礼を言う。
「いやいや、寧ろ私の方がお話を聞きたい予感がいたします。機会があれば、ぜひ」
予感ってなんですかと尋ねたくなったが、そこは曖昧に笑って誤魔化しておくことにした。先生はこの後研究所で会議らしく、迎えの馬車に乗って帰って行った。
「それでは、ぜひ今日の感想をお聞かせください」
「ええ、今日は領地で流行り始めたお菓子もありますのよ」
メリーベルさんは午後のマナーレッスンに備えて予習をするらしく一度部屋に戻って着替えてくるとのことで、サブマスとエリーナさんに先導されて、私は庭がよく見える部屋に通された。楕円形のテーブルには、お茶の用意が整っている。
引かれた椅子に座り、何処か花の香りがする紅茶で喉を潤して…サブマスとエリーナさんは私をまじまじと見つめてきた。
「如何でしたか?」
「ええ、大変貴重なお話を聞くことができました。ありがとうございました」
「リッカさんの知識とは違いましたか?」
「ええ…」
この話をして良いのか、エリーナさんがいるので少し迷ってしまう。エリーナさんはそれを察したのか微笑んだ。
「私の事でしたら、ご心配なく。冬の事件のあらましは伺ってますわ。夫に鑑定魔法を教えてくださったのでしょう?私もお茶会などでそう言う話題が出る事もありますし、そう言う時のために大事なことは知っているつもりですわ」
「お気を遣わせてしまって…」
「うふ、そういうことは仰らないで!」
「…魔法に関して、私の知識とのズレは、確かにありました。例えば、種族の人口比などですね。私の中では、もう少しエルフやドワーフ、魔人種は多いと思っていたので…この辺りの観点からも、色々調べたいと思います。おかげさまで研究の幅が広がりそうです」
このくらいなら言っても問題ないだろう。そんなふうに考える自分の狡さに、内心でため息をつく。…でも、今大事なのはそれじゃない。
「…そして、メリーベルさんは、とても勉強熱心なのですね。10歳にもならないお嬢様があんなに熱心に勉強されているので、とても驚きました」
これは本心だ。彼女は本当に熱心だった。あのくらいの子供が1時間半も座って集中していられるのに驚いた。
「ええ、娘は特に魔法に興味があるようでして。勉強の内容は、すでに学園の2年生の分までは終えてしまっているのです。あれで初級と言われる魔法も二属性は確実に使えますしね」
「夫と同じかと思ったら、属性は水と土で、私と同じでしたのよ。花が好きだから、そうなのではないかと思っていましたけどね」
ニコニコと微笑み、視線を交わす夫婦の姿に、今から余計な問題を投げ込むようで胸が痛くなったが…フードの中に隠れている、紅花の妖精の胸の内を思うと、そうも言っていられない。
「ひとつ、質問があるのですが」
「なんでしょう?」
「妖精が見えることを示す、妖精眼という言葉はご存知ですか?」
サブマスは訝しそうに眉を寄せた。
「ええ。妖精や精霊を見ることの出来る者の目の事をそう言いますね。100年くらい前までは、その目を持つ者は王家の公娼や上級貴族に取り込まれることも多かったと記録には残っていますが…」
「現在は、どうなるのですか?」
「…その目があり、かつ魔力が高ければ王家の囲い込みは……」
「まさか…?」
2人の顔色が、目に見えて青くなった。
「はい、メリーベルさんには、何もせずとも私の連れている精霊が見えていたようです。アーバンさんですら強化を最大限使わなければ見えない状態にしているのにも関わらず…」
一息つくと、私はちょっとお行儀が悪いとは思ったが、テーブルの上にに精霊と紅花の妖精を出した。
「2ヶ月ほど前にご領地に行かれましたか?」
「ええ。私と2人で…なんでご存知なの?」
「その時に、メリーベルさんと一緒にいたい一心で、妖精が1人、乾燥した紅花に潜り込んでこちらにやって来たのだそうです。土地から離れたことで弱っていましたが、今は治癒をかけて持ち直しています」
「ええ、たしかに乾燥した紅花をサンプルとして持ち帰ってきたわ…」
エリーナさんは額に手を当てる。顔色は少し持ち直したようだが、苦悩する顔は先程までの朗らかな様子とあまりにも違うので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。精霊がふよふよと近づいていって、ぽんぽんと頭を撫でている。ギルマスも眼鏡を外して鼻の付け根をもみほぐしている。
「メリーベルさんや、この妖精が悪いというわけではないのです。ただ、土地を離れてまで着いてこようとするほど、メリーベルさんはご領地に愛着があり、妖精たちに好かれやすいということなのだと思うのです。ですので、メリーベルさんのお気持ち次第ですが…この紅花の妖精にチャンスをいただけないでしょうか?」
2人は、私をポカンと見つめている。
「それは、どういう…?」
「簡単に言いますと、魔力を使う契約です。私は、この精霊たちに名前をつけました。結果として、精霊は安定して私のそばにいてくれています。メリーベルさんが、この妖精に名付けをしてくだされば、この子は土地を離れても消えずにいられるはずなのです」
「それには、途方もない魔力が要るのでは…」
「何もせずに名付ければ、そうなる可能性は高いです」
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