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第4章 この手の届くところ
5.波打つ紋様の謎
しおりを挟む波打つ紋様に触れる。それは、今までに無い感覚を指先にもたらした。
(痺れ…じゃない。振動…?)
自分が思い切り叩いた音叉になったような振動だった。しかし、それすら一瞬で、次の瞬間耳の鼓膜など無いかのように、まるで直接骨を揺らすかのような声が聞こえた。
……もうこれ以上は…○×△※□…
(…駄目だ、後半が聞こえない……)
ラジオのノイズのように乱れた音から、やっと前半のほうは聞き取れたが、後半の方は聞き取れない。高く低く直接自身に響く音は、思っていたよりもとても強烈に耳障りだった。ふいに強烈な頭痛を感じて紋様から手を離した。
(妨害されてる感じじゃ無い…これは、私が解析できるほどの技術が無いってことなのかしら)
「主様、主様!」
こめかみを揉みほぐしている私に、精霊達が群がるように近寄って来て頭を撫でてくれた。一生懸命治癒をかけてくれる。頭痛自体は紋様から手を離した時点で消えていたのだが、こうして気遣って貰うとその残滓も浄化されていくようだった。
「みんなありがとう。もう大丈夫よ」
休憩にすると宣言して、自分には濃いコーヒーを、精霊達には精霊草を出した。最近エリーナさんに教えるついでに自分でも土壌改良と成長促進効果のある土属性の『植物成長術』を改良がてら畑と周辺にかけてみたところ、この精霊草にも効果があったようで最近は毎日私の掌いっぱいに収穫されているらしく…精霊達にとっては良いおやつになっている。
「主様も食べてください!だいぶ魔力を使われてたように見えましたよ!」
「そう?ありがとう。いただきます」
手渡された精霊草を口に入れると、その心地よい甘さと清涼感がじんわりと身体に染み渡るようだった。思っていたより疲れていたのだろうか。
「精霊王様の声は聞こえたんですか?」
カルラの問いに首を振って答える。
「……最初の方しか聞こえなかったの。後半がどうしても聞き取れなくて」
ちょっと悔しい。そんな風に思えて、自分でも可笑しくて苦笑してしまった。
「あんまり悠長に調べてもいいような感じでも無いけど…ちょっとだけ調べてみようかな」
「前半はなんと?」
「『もうこれ以上は…』」
「良い言葉が続く感じではありませんね」
「精霊王様、まだ代替わりじゃない感じでしたわ」
「でも、なんだか力が弱かったよ」
水風精霊ペアのイシュとハルが、精霊草にかぷりと口をつけた。
「精霊王の代替わりって、どんなイメージなのかわかる?」
「もちろん、本来はとても嬉しいことですよ」
私の問いに、カルラは明るい口調で答えた。
「任務を降りる精霊王はどうなるの?」
「それぞれの元の精霊に戻ります」
ふうん、と言いかけて止まった。
「それぞれ元の精霊に戻る?それって…精霊王って、精霊の集合体だったりするの?」
「はい」
そんなの常識、といった風にカルラが答える。私は慌ててノートを取り出して…その日は深夜まで精霊達を質問攻めにしてしまった。
◇◇◇
次の日、私は椅子の背に背中を預けて、もう何度目かになる伸びをした。
朝から幾度か幻映の映像に触れて言葉を全て聞き取ろうと試行錯誤してみたが、まだ上手くいかない。何度も頭痛を感じたくはないので、今は幻映に関する本を探している所だったが、見つからない。
「この幻映自体は、20年以内に作られたはずなのだから、経年劣化とは関係なさそうだし」
ちなみに結晶魔石を使った精霊王の試練だとかそういう話はいくつか出てきたが、どれも伝承や絵本といったものが多かった。
(そもそも、精霊と意思の疎通が出来るのに、その集合体の精霊王の願いやピンチを伝えるのが結晶魔石っていうのは…どうも非効率過ぎる気がするんだけど)
駄目だ、どうも思考がまとまらない。そもそも情報が少なすぎる。
「元データ自体が壊れている…とか?」
ふと机の上の猪から出た『森の幻影』に目が行った。もう一度詳細鑑定を試みる。
ーーーーーー
結晶魔石〈森の幻映〉
純度 91.27パーセント
素体 巨大牙猪(※変異種)(雄128歳)魔侵度189%※
討伐者 リッカ
所持者 リッカ
ーーーーーー
紋様を立ち上げるように大きく広げる。波打つことはない。隣に『幻映』の紋様を並べる。やはり、こちらはゆらゆらと波打っている。
(どうしてこんなに揺れてるんだろう)
そのまま、アイテムボックスの中にある鑑定術の本を漁ってみる。
「あれ?」
今まで見たことのない本のタイトルが目に付いた。
「鑑定術…上級Ⅱ巻…?」
慌てて鑑定術(上)を探す。あった。慌てて開くと、その横にもう1つ画面が出る。ディスプレイが2つある。
「タブ表示みたいな感じ…みたいね」
(どういうこと…)
努めて気にしないことにしていたが、このアイテムボックスは時々妙に仕様が変わる気がする。
(いやいや、今はそれに構ってる時じゃない…)
せめて、とノートに今日の日付とアイテムボックスの変化について書き留めておく。
(後で絶対に調べる…絶対に)
そして私は鑑定術(上)II巻の画面に触れた。
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