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第4章 この手の届くところ
10.地図にない場所
しおりを挟む聖地に人間を入れるには、精霊たちが先導して、森の奥や海の上、または険しい山を進んで1日から3ヶ月ほど経つと、聖地に入る為の門に着く。
それが、精霊達の言う「人間を聖地に連れて行く方法」だった。
(しかも、期間がすごく……まちまち過ぎる)
「その道程の途中でなにかやらないといけない決まり事は無いかな?どんな細かい…いいえ、何気無いことでも良いのだけど」
精霊達はみんなポカンとしている。おそらく本当に心当たりはないのだろう。
「例えば、毎朝決まった時間に魔力を放出するとか…決まった木があったら魔法で成長を促進させるとか、火を付ける時のおまじないとか…」
「ああ、そういう感じのならひとつあるよ~」
水闇の精霊ファイがおっとりと言った。
「寝る前のね、おやすみの光を灯す時は、精霊王様にも届きます様にって、自然にそうなるよ」
「精霊王に、届きます様に…他の魔法を使う時は?」
「僕はおやすみの光の他はそうならないな~」
何気ないといえば何気ない、一見関係ない様にも見えたが、それを言うなら『おまじない』という自分のワードだって苦し紛れにぽんと出た様な、関係ない言葉だった。しかし。
「そう言えば…私は、お湯を沸かす時はそんな風になりますね。この暖かさが精霊王様にも届くといいな、って」
「僕はランプに魔法を流すときにそんな感じかな」
「私達は、飲み水を魔法で生み出す時にはそう思います」
次々に精霊達から『精霊王に届く様に』とつい心に思う時の条件が出されて来る。どれも、どちらかと言えば普段の生活に密接に関係している魔法を使う時…つまり、人間に近い生活をする者と一緒にいる時に使う頻度が多くなると思われる魔法…この場合は正式には精霊魔法となるだろう…が多い。本来、精霊達は基本的に飲み食いは不要だ。このような生活に密接する魔法は使わなくても生きていけるのだ。
(もしかしたら…)
精霊達の「聖地への連れて行き方」は感覚的なものだった。それはそれは、おとぎ話に近いような、まさに超常現象と言っていい。だが、私はあくまでそれは何らかの魔法的な…儀式的な何かを行って何処かの転移点へ導いているのではないだろうかという仮説を立てていた。
(お湯を沸かす時、生活用水を出す時、ランプを灯す時、誰かの安眠を願う時…に、一定量の魔力が精霊王に…もとい聖地につながる…いや、聖地への転移点を自動で描くための魔力をためているとか…?)
精霊達の口ぶりから、聖地はあくまでこのレイヴァーンの何処かにあるというのは間違いなさそうなのだが…
(どうしよう。あまり長く調べている時間はないよね…)
もし、最短1日森を彷徨えば聖地に行けるのならば、こうして場所を調べて転移を試みるよりは、前者の方が早いのかもしれない。助けてと言い残して崩れるように消えた風の精霊王の映像が眼裏に浮かぶ。他の人に情報提供を求めようかとも考えたが、精霊に関する事象は、長年教師をやっていたという人でも実際に見たことはない、聞いたことだけだと言っていた。あまり世の中には出回っていない情報だろうというは、容易に想像がつく。
(精霊魔法の研究がされているという、魔導国家に行ってみる…?)
しかし、魔導国家にも精霊魔法の使い手は数人、しかも大切に守られた環境で保護され、研究に協力しているということだったはずだ。見ず知らずの自分がいきなり訪ねて行っても良いことがあるとは到底思えなかった。
(ギルド経由で連絡を取ってもらったりして正式に情報提供を求めるとか…)
こんな、この世界でも絵本に書かれるような事象が起きているなど、信じてもらえるのだろうか。
「よし」
顔を上げた私を、精霊達が不思議そうに見る。
「明日はガルダに行って、ギルマス達やアーバンさんにちょっと聞いてみる。そして、今日から3日以内に場所の特定が出来なかったら…あなた達に先導をお願いして森を歩いてみよう」
森を歩くにしても、最悪私なら転移で家に戻れるのだ。最低限の荷物は用意するが、空間収納がない者よりは楽なはずだ。私はそう自分に言い聞かせて、時間を確認する。もう深夜と言っても良い時間だ。
「ちゃんと歯を磨いて、もう寝るよ」
いつもどおりの元気な返事が聞こえて、その事に1番ホッとした。
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