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第4章 この手の届くところ
13.音曲と舞と隠者の勘
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イシュのダンスは、それはそれは見事だった。
細かくステップを踏み、ジャンプし、ポーズを決めたかと思えば直ぐに新しいステップを踏んでいる。軽やかだが、ステップによっては重厚さを感じさせる。コンテンポラリーダンスが1番イメージに近いかもしれない。しばらく1人で踊ると、カルミアがフワリと進み出て踊リ始める。
(これは…!)
ふいに気づいた。カルミアのダンスは、炎を模している。暖かく熱く、小さく大きく、感じるのは 『熱』だ。そして、おそらくはイシュの踊りは、風か水なのだ。
曲調が変わった気がしてハルの方を見ると、炎光のカイムとカルド、光闇ライとイリスが木の葉で作ったらしい長さも様々な笛のような物や、中心が空洞になった木を転がして来て、ハルの周りに集まっている。まるで、ちょっとした楽団だ。そして、彼らは目だけで合図して演奏を始めてしまった。
笛が三重奏になり、細かに、あるいは力強くリズムを刻む打楽器のような音が響き始める。
(ああ、すごく響いてるんだ…)
普通に考えるならば、ここは結界の中とはいえ野外だ。そして、精霊達の体格から考えて、こんなに音が響くはずがないのだ。だが、この音楽と、いつの間にか5人になった踊り手は、それぞれが自身を表現しながらも、お互いがお互いを高めていくように踊っている。
(そして…聞こえる)
カルラ曰くマナの音が、もう気のせいとは言えないほどに耳を打つのだ。それは、目の前のダンスや音楽と溶け合って、言葉にはできないほどに美しく、それでいてどこか胸を冷たい手で鷲掴みされるような緊張感をもたらすものだった。
(綺麗すぎて怖い…いや、この世界の大きさに潰されそうで怖いと言うべきか)
そこまで心の奥でつぶやいた時に、ふいに胸の奥がほんのりと暖かくなった気がした。
(セカイさん?)
手の中のカップには、ほわりと湯気をたてるコーヒー。水面には私の顔と、満天の星空までもが映っている。
(…セカイさん、レイヴァーンはとっても綺麗です。私は…)
恐ろしいと感じつつも、体に直接響くような、本当に美しい音楽とダンス。満ち足りた感覚に、顔は自然に笑顔になる。
(私は、幸せです)
胸の奥に、自然への畏怖にも似た恐怖はあるけれども、その存在は美しい。そう実感すると同時に、暖かさは私の髪や頬の上を滑るように身体を包んだ。
(セカイさん、転生させてくれてありがとう)
恐れは未だあるけれど、氷を押し付けられるような感覚は薄くなった。辺りの空気を震わせる音楽とダンスを心から楽しむくらいの余裕は出来た気がする。
音楽とダンスが最高潮に盛り上がりを見せ、お腹の底に響くような太鼓のような音を響かせて終幕となった。私と演者以外の精霊達は、心からの拍手を送った。
「みんな、本当に凄く素敵だったよ。こんな特技があったなんて知らなかった」
「特技っていうか…初めてやったんだよ」
「そうそう。楽しそうだったからやっただけだよ」
「音楽も?」
「はい!」
「マナの音のまねをしただけですのよ」
それぞれ得意げな精霊達の頭を撫でて、みんなに一つずつ精霊草を手渡した。カプリと口をつける精霊たちを眺めてほっこりしながらも、私はある可能性について考えていた。
(もし、転移点なり転移門なりを作るとして…もう充分な量の『何か』があちらへ行っているのは間違いないよね)
精霊たちが火を灯したり水を出したりする時に、こっそりと幾度か鑑定してみた所、精霊たちの魔力のうちの3%前後が、『どこかへ送られている』というのは確認している。
(これだけ精霊がいるのだもの、結構な量になるはずだけど)
仮に絵本に書かれていることを参考にするならば、主人公と共に旅をしている精霊は1人か2人、多くても3人くらいだ。それで森を彷徨ったのは10日となっている。
(あくまで絵本だからそれまでなんだけど…なんかこう、手応えはあるのに次に進んでいない気がするんだよね)
この手の勘は大切だと個人的に思っている。もちろん、勘に固執するのは違うと思うけれど。
(やってみよう。幸いなことに、材料は全部ここにあるんだから)
「ねえ、お願いがあるんだけど、いいかな?」
彼らが『おやすみの光』と読んでいる、銀色の光を灯そうとしていたところに声をかける。ファイとファーナは、私の申し出に一瞬だけキョトンとしていたが、次の瞬間笑顔で了承してくれた。
細かくステップを踏み、ジャンプし、ポーズを決めたかと思えば直ぐに新しいステップを踏んでいる。軽やかだが、ステップによっては重厚さを感じさせる。コンテンポラリーダンスが1番イメージに近いかもしれない。しばらく1人で踊ると、カルミアがフワリと進み出て踊リ始める。
(これは…!)
ふいに気づいた。カルミアのダンスは、炎を模している。暖かく熱く、小さく大きく、感じるのは 『熱』だ。そして、おそらくはイシュの踊りは、風か水なのだ。
曲調が変わった気がしてハルの方を見ると、炎光のカイムとカルド、光闇ライとイリスが木の葉で作ったらしい長さも様々な笛のような物や、中心が空洞になった木を転がして来て、ハルの周りに集まっている。まるで、ちょっとした楽団だ。そして、彼らは目だけで合図して演奏を始めてしまった。
笛が三重奏になり、細かに、あるいは力強くリズムを刻む打楽器のような音が響き始める。
(ああ、すごく響いてるんだ…)
普通に考えるならば、ここは結界の中とはいえ野外だ。そして、精霊達の体格から考えて、こんなに音が響くはずがないのだ。だが、この音楽と、いつの間にか5人になった踊り手は、それぞれが自身を表現しながらも、お互いがお互いを高めていくように踊っている。
(そして…聞こえる)
カルラ曰くマナの音が、もう気のせいとは言えないほどに耳を打つのだ。それは、目の前のダンスや音楽と溶け合って、言葉にはできないほどに美しく、それでいてどこか胸を冷たい手で鷲掴みされるような緊張感をもたらすものだった。
(綺麗すぎて怖い…いや、この世界の大きさに潰されそうで怖いと言うべきか)
そこまで心の奥でつぶやいた時に、ふいに胸の奥がほんのりと暖かくなった気がした。
(セカイさん?)
手の中のカップには、ほわりと湯気をたてるコーヒー。水面には私の顔と、満天の星空までもが映っている。
(…セカイさん、レイヴァーンはとっても綺麗です。私は…)
恐ろしいと感じつつも、体に直接響くような、本当に美しい音楽とダンス。満ち足りた感覚に、顔は自然に笑顔になる。
(私は、幸せです)
胸の奥に、自然への畏怖にも似た恐怖はあるけれども、その存在は美しい。そう実感すると同時に、暖かさは私の髪や頬の上を滑るように身体を包んだ。
(セカイさん、転生させてくれてありがとう)
恐れは未だあるけれど、氷を押し付けられるような感覚は薄くなった。辺りの空気を震わせる音楽とダンスを心から楽しむくらいの余裕は出来た気がする。
音楽とダンスが最高潮に盛り上がりを見せ、お腹の底に響くような太鼓のような音を響かせて終幕となった。私と演者以外の精霊達は、心からの拍手を送った。
「みんな、本当に凄く素敵だったよ。こんな特技があったなんて知らなかった」
「特技っていうか…初めてやったんだよ」
「そうそう。楽しそうだったからやっただけだよ」
「音楽も?」
「はい!」
「マナの音のまねをしただけですのよ」
それぞれ得意げな精霊達の頭を撫でて、みんなに一つずつ精霊草を手渡した。カプリと口をつける精霊たちを眺めてほっこりしながらも、私はある可能性について考えていた。
(もし、転移点なり転移門なりを作るとして…もう充分な量の『何か』があちらへ行っているのは間違いないよね)
精霊たちが火を灯したり水を出したりする時に、こっそりと幾度か鑑定してみた所、精霊たちの魔力のうちの3%前後が、『どこかへ送られている』というのは確認している。
(これだけ精霊がいるのだもの、結構な量になるはずだけど)
仮に絵本に書かれていることを参考にするならば、主人公と共に旅をしている精霊は1人か2人、多くても3人くらいだ。それで森を彷徨ったのは10日となっている。
(あくまで絵本だからそれまでなんだけど…なんかこう、手応えはあるのに次に進んでいない気がするんだよね)
この手の勘は大切だと個人的に思っている。もちろん、勘に固執するのは違うと思うけれど。
(やってみよう。幸いなことに、材料は全部ここにあるんだから)
「ねえ、お願いがあるんだけど、いいかな?」
彼らが『おやすみの光』と読んでいる、銀色の光を灯そうとしていたところに声をかける。ファイとファーナは、私の申し出に一瞬だけキョトンとしていたが、次の瞬間笑顔で了承してくれた。
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