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第4章 この手の届くところ
12.彷徨の旋律
しおりを挟む違和感に気付いた…というよりははっきりと自覚したのは、更に3日ほど経った頃だった。陽が落ちる時間になり、精霊達に促されて適当な場所で今日も火をおこす準備を始めた時だった。
(音が聞こえる…いや、歌?音楽?)
精霊達のお喋りや、色々な物を持ち運んだり水を出してもらったり、一緒に薪を組んで火を灯してもらったり、敷物を引いてもらったりという、そういう動作音と一緒に全く違う音が聞こえるのだ。
「ごめん、ちょっと止まって…」
声をかけると、精霊達は作業とお喋りをぴたりと止めた。すると、音は聞こえなくなった。
(どういうこと? 精霊達から音が聞こえるって…)
ごめんね、なんでもなかったと声をかけると、また精霊達は騒がしく仕事を始めた。小さな鍋に湯を沸かし、先日作った干し肉や野菜やキノコを入れてスープを作っている時も、爆ぜる薪にキャッキャと歓声を上げる時も、バックグラウンドで何かの音楽が流れるように、音が耳の中に流れ込んでくるようだった。
「主様? どうかなさったのですか?」
カルラが私の肩に舞い降りる様に近づいて来た。背中の羽がはためくように動くとシャラリと何かが鳴った気がしたので、そう問いかけると、カルラは首を傾げた。やはり私の気のせいなのだろうかと思いかけた時、カルラがポンと手を叩いて言った。
「ああ、この辺りはマナが濃いので、羽が当たった時の音かもしれませんね」
(えええええ⁉︎)
マナ=魔力の素という考えで良かったはずだ。空気の中にも溶け込んでいるというそれは、当たって音がするようなものだっただろうか。
(いや、いちおう魔力を練って物理的に干渉できるものに変えるわけだから…)
どうしても前世日本での基本的な感覚で物事を考えてしまっているが、ここは異世界だ。アイテムボックスの本には書いていなかったが、もしかしたらレイヴァーンではそれが常識なのだろうか。とりあえずメモ帳を取り出して書き込んでおいた。
焚き火の上のスープはちょうど良い具合に仕上がったそうで、大きなマグカップほどの器によそってもらったものを受け取った。その時にもチリチリと小さな鈴のような音が聞こえた気がした。
「主様、あったかい?」
「むしろ熱い?だよー」
「美味しいですか?」
口々に訪ねてくる子達にお礼を言ってスープを口に運んだ。こんな短時間に作った物とは思えないほど、スープに優しい味が溶け込んでいる。そのスープを混ぜる時でさえ耳の底に何かの旋律が流れこんでくるような気がして、気を引き締めた。何故かその音に身を委ねたい衝動に駆られたのだ。しかし、本能的な恐怖がそれを引き止める。
(何故だろう。この音というか、旋律が怖い…?怖いというか、これは知らないことへの怖さなのかな)
音自体は、美しく、不思議な音だと思う。メロディと言い切るには足りない要素が多いのだが、おそらくはこれは連綿と続くなにかの旋律だ。それだけは解る。
(多分、前世でもそんなに深く音楽に関わってはいないだろうな…うまく聞き取れないのがもどかしい…)
高く、遠く、近くで聞こえる音楽に耳を傾けながら、それでも心の半分では未だ聖地に到達できない焦りをどうすることもできなくて、静かに息をついた。
「主様?」
「え?」
声のした方に顔を向けると、カルラがちょいちょいと火の方を指差した。焚き火の前の明るいスペースに、水と風の精霊のイシュと炎と光の精霊のカルミアが立っている。草のような物を口元に当てて早いテンポの音楽を奏でているのは、イシュと同じく水風の精霊のハルだ。音楽が始まるとほぼ同時に、イシュが踊り始めた。
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