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第6章 転生隠者の望む暮らし
6.歓迎会と思考の海
しおりを挟むブラドは土と水の属性を、アナイナは土の属性を持っているようだ。それなりに話を聞いて、一区切りしたところで帰宅した。今日は2人の歓迎会をしたいと言うと、みんな大騒ぎだった。主役2人がぽかんとしていて、やっと素の顔を見ることができた気がする。
歓迎会とは言っても、テーブルいっぱいにお菓子やらジュースやらを出すだけなのだが、特に何かをしなくとも、自然とわいわい盛り上がり始めた。
新しい精霊たちは早速みんなにもみくちゃにされている。楽しそうで何よりだ。適当に出したお菓子とジュースやお茶でくつろいだり、サイズが合わないけれど、テーブルゲームもいくつか出して置いたのだが、最初だけ使い方を教えたところ、それぞれが楽しそうに遊んでいる。
私はそれらを眺めながら、2人が話していたことを頭の中で思い返していた。
(概ね予想通りだったかな……いや、酷かったかも……)
手元のメモに目を落とした。魔の森では、どうやら最近沼地が増えているらしいと言うことなので見に行ったのだが、沼地というのは、整地の異変が起きた時の状態に酷似していたのだ。以前は普通の沼地だったらしいのだが、ここ数年明らかにおかしい湿地が増えたのだと言う。
(聖地に起きたあれよりは、だいぶ薄いと言うか……マナの濃度が薄いんだけど……)
紋様の解析をしていて、良くないことに1つ気付いたのだ。
(瘴気だよね、あれ…)
沼地から立ち登るのは、ほぼ無色透明だが、明らかに高濃度の瘴気だったのだ。
とりあえずサンプルとして透明な瘴気そのものを結界で包んで瓶に仕舞いこみ、辺りの調査をしてから、精霊王達と一緒に、聖地での異変への対処法を試してみた所、ごく普通の沼地の姿に変化した。周りの木が大きくなった事と、なんとなく水源が発生した気もするが、それは精霊王達のおかげだろうと思う。
(……透明な瘴気ってなんだろう)
サンプルを採りに行ったはずが、謎が増えてしまった。
(まあ、とりあえず書くだけ書く……後はギルマス達に駄目出ししてもらおう)
来週末あたりで、依頼を受けて3ヶ月になる。進捗状況を報告した方が良いだろう。
「我が主人よ」
ブラドが近寄ってきて、優雅に一礼した。
「このような場を作ってくださり、ありがとうございます。妹も、楽しそうです」
「よかった。ブラドも楽しんでる?」
「はい。主人様も、よろしければ……」
すっとグラスが浮いて来た。浮遊魔法だ。
「ブランデー…ブラドも飲めるの?」
「主人よ、精霊は本人にとって毒でなければ、なんでも摂取できます」
「一緒に飲もうか」
「ありがとうございます」
ブラドの分のコップは、土の形成術で作ったタンブラーだ。アナイナがあっという間にみんなの分も…なんと私の分のマグカップまで作ってくれた。とても良い作りで、表面は土の質感を残しつつ、内側はツルンとしていた。明日からのコーヒーカップにしようと決めている。
「乾杯」
グラスを掲げると、中の大きな氷が鳴った。ブラドは恭しく一礼する。
「今後のことは、しばらく過ごしてから決めてね」
「今すぐでも宜しゅうございますか?」
「気が早いね」
「主人様のお人柄……そして魔力の質の虜でございますので」
思わずくすくすと笑ってしまった。
「ごめんごめん、悪い意味じゃないの」
ブラドが顔を顰めたので、慌てて謝った。
「ブラドみたいなタイプの人が今までいなかったから、新鮮なの」
「お気に召しませんか?」
「ううん。逆よ。と言うよりは、好きに過ごして欲しいと言うか……」
窓枠の端にかかる月が、ふと視界に入った。
「ブラドが不快だと思うことはしてほしくないと言うか、ね」
ブラドの頭を思わず撫でてしまった。
「貴方にとって嫌なことがあったら、遠慮なく言ってね」
「お気遣いありがとう存じます」
「うん。しばらくは、質問に答えてもらうことが多いだろうから、その時はよろしくね」
「なんなりとお申し付けください」
思ったより柔らかい髪を自分でササっと撫でつけて、ブラドはチーズの盛り合わせを取り出した。
「空間収納、使えるのね」
「主人様の眷属になりましたので」
隙のない感じは、あくまで自然だ。
「あああの、主人様」
アナイナがチョコレートをお皿に入れて持ってきた。
「ここここ、こちらもどうぞ。お酒に合うかと思います」
「ありがとう、アナイナ」
お礼を言うと、ぴくっと跳ねてモジモジしている。
「わわ、わたし…あの……」
「なあに?」
「名をいただく前に、『はやくして』って催促したみたいになったの…」
「ああ、あれね」
「ち、違うんです!早く名前欲しいなって思っちゃったのが、聞こえてたみたいで!」
「分かってるし、気にしてないよ。これからよろしくね」
「は、はいっ!」
アナイナは、ヘアアレンジ大好き組の精霊達に呼ばれて、そちらへ走って…いや飛んで行った。
「騒がしい妹で……」
ブラドに首を振る。可愛い妹で、いいと思う。
「知りたいことが増えて困るな」
「と、申されますと?」
「例えば、カルラ達には兄弟の概念がないけど、貴方達にはあるわけで…そう言うところとか。論文…って言いたくないから言ってなかったけど……論文を先に仕上げないといけないのに、そう言う新しい謎が増えるばっかりだな、って思って」
カラリと氷が鳴った。
「楽しそうですね」
ブラドが口角を上げて言った。意外と精悍な笑顔だった。
「うん。楽しんでるよ」
「主様ー!」
カルラが元気にやって来た。金平糖の小瓶を抱えている。
「主様もどうぞ!」
「ありがとう」
「ブラドもどうぞ」
「……いただきます」
トゲトゲの形を繁々と眺めるブラドに、カルラが金平糖の作り方を説明している。以前、カルラの金平糖愛に応えて、みんなで作ってみたことがあるのだ。
「なるほど、砂糖の結晶……」
ブラドの呟きに、私はなんとなく空き瓶に、転移と結界で無理やり摂取した瘴気のことを思い出した。そして、聖地の異変…マナの泥土と、瘴気のことも。
(不純物だらけのマナを循環させて残った不純物は、宝石の原石が出来やすくなった)
魔の森の瘴気が含まれた湿地の、マナの循環を良くしてみたところ、水源が生まれて、その周りに妙にキラキラする石があった。シャーレに入れてアイテムボックスに突っ込んだそれを取り出して眺める。
(たぶん、金……?)
だいぶ昔のことらしいが、魔の森の川からは砂金が、森の中の洞窟からは金の鉱脈が出たことがあるらしい。
(魔力の澱は、結晶化すると宝石や砂金になる……?)
そして、そのバランスが崩れると……?
「主様?」
「カルラ殿、僭越ながら主人様の思考の邪魔は良くないかと……」
「たしかに……でも、ブラド、主様ほっとくとご飯も食べないんですよ!」
「なるほど、思考の海に漕ぎ出されるのですね」
「漕ぎ出したら帰ってこないよねー」
いつの間にか増えていた精霊達のツッコミに苦笑しつつ、楽しい夜が更けていった。
(あ。でも……海って言うのは、良いかもしれない)
心のメモに、海、と大きく書いてグルグルと丸で囲った。
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