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第6章 転生隠者の望む暮らし
閑話 辺境都市バルガ冒険者支部にて〜悩ましい進捗状況
しおりを挟む「これは……」
順番に隠者の論文を読み終え…アーバンは途中で投げ出したが…ルドヴィックは驚愕のあまり、多分3周くらいは読み返している。
「これは不味いな……」
辺境伯は今日はどうしても外せない用があるらしく、明日この論文を持っていくことになっている。
———その内容が、彼等の価値観の中では、大問題だった。
まず、自分たちが魔法を使うたびに、少量ずつではあるが、澱のような毒素を生み出しているという事。
その毒素は今まで魔の森を含む自然の循環の中で無毒化されていたと推測されるという事。
毒素が地上で一番濃く集まるのは、現在は魔の森であり、黒い土や木は、浄化の能力が高い。
昨今、魔の森に毒素を過分に含む湿地が増えたり、魔物の異常死が増えているのは、そのバランスが崩れていると推測できるという事。
バランスが崩れた事により、魔力の行使に異常を来した事例が報告されており、体内に入った毒素が原因かと思われるということ。
毒素は、体内に入ると非常にゆっくりとしか排出されず、大量に摂りこむと体に大きな影響をもたらし、健康に問題を生じたり、魔法が使えなくなる可能性もある事。
これらのことから推測するに、魔の森の生育状況、レイヴァーン南部で報告されている海底の遺跡の状況などから、レイヴァーンでは幾度か意図的かどうかは不明だが災厄が起こり、おそらく魔法の術式はガラリと変わってきた可能性がある。いくつかの失伝魔法と呼ばれるものは、その災厄の際に失われた可能性が高い。
同じ理由で、最近精霊と妖精の出現が激減しており、精霊魔法の行使が難しいのは、毒素の循環異常の為と拡大解釈も出来るのではないだろうか。
長い目でみるのならば、魔の森の面積をこれ以上減らすべきではない。
同じ理由で、魔木燃料に関しては、浄化前の毒を含んでいる可能性があるため、燃やした際の検証を深めるべきである。
———簡単に説明すると、現在はこのような具合に纏められている。
「これ、うまく色々抜いてコレなんだよな?」
「そう言ってたよな」
「確かに精霊や聖地に関することはほぼ抜けています。精霊王に関しては一文字も書いてありませんよ」
「いやさぁ…たしかにそうかもしれんが、これ、魔法、いや世界の歴史の認識がかわるぞ……?」
「ええ。興味深いですね。非常に興味深い……」
ジェイガンは元平民であり、高等教育を受けていないために論文なんて物にはほぼ縁がない。アーバンも同様だ。
「隠者様、これを基本にして、もっと簡素化するか、もっと詳しく分厚くするかの二択だとか言ってたな」
「そうですね」
「だな」
「これ、もっと色々抜くとか……」
ルドヴィックが眉間に皺を寄せた。
「……何を言うんですか」
「悪い悪い!忘れてくれ!」
「私たちが目を背けたら、子や孫の代に彼等が苦しむかもしれないんですよ」
「けどよ……なんかこう、実感できないと言うか」
「私たちが見えないだけで、その可能性があるのなら、今のうちに手を打つべきなんですよ」
ルドヴィックはルドヴィックで、論文の内容をできる限り頭に叩き込んでいた。
「これを今発表すれば、もしかしなくとも、私たちやリッカさんの命の危険があるかもしれません」
「えええ……」
「それは嫌だぞ」
ジェイガンとアーバンの言葉を受けて、ルドヴィックは心の中で嘆息して口を開いた。
「ただし『今すぐ発表するなら』です」
「……これを仕上げてもらって、すぐ発表することは無いってことか?」
「あくまで、私の推測ですが…これを仕上げたら、まずは国王陛下と限られた人がこの論文の検証に入るでしょう。そして、おそらくある程度準備が終わった段階で、魔導国家や帝国の上層部に情報を持っていって話し合われるでしょうね」
「……うわぁ…貴族って…」
「ま、面倒だな」
身も蓋もないジェイガンに冷ややかな視線を向けて、ルドヴィックはさらに続ける。
「魔導列車は、魔導国家の国策です。おそらく失敗するわけにいかないほど予算を注ぎ込んでいるでしょうし……きな臭い噂もあります」
ジェイガンはますます渋面になった。
「あー……まあ、交渉のカードにするだろうってことだな?」
「おそらく、国王陛下ならそうされるでしょう。そうなると、おそらく論文として世の中に出る迄には、5年はかかる可能性があるんですよ」
「5年か……そうなると、色々考えることも多いわな。ルドはそろそろ子爵を継げって言われてるんだったな」
「……ええ」
「そうなりゃ、俺もお役御免でちょうど良い時期だよな」
「俺も、子供向けに道場とかやるかな」
3人は顔を見合わせて笑った。
「これが最後の大仕事になるかもしれねぇな。時限式の爆発魔法みたいな大仕事だけどな。ま、何にしても、明日閣下に見せてからだな」
論文を大切に金庫にしまってから、3人はギルドを出た。
翌日、論文を読んだ辺境伯も、念のためにもう2回読んだ後頭を抱えて悩み出し、簡素化するか詳しくするかの議論が全く進まなかったのは、また別の話である。
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