悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

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15.Sランク冒険者の義務

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「満足したか? 話、進めていいか?」
「あ、はい」
「構いませんよ」

 お菓子を食べている途中に自己紹介してくれた男性はレオンさんというらしい。
 予想通り、Sランク冒険者さんだ。

 自分の分のお菓子をがっちりとキープしていたエドルドさん曰く、今現在、この国のギルドで最もアクティブに依頼を受けているSランク冒険者らしい。
 つまりギルドにとってはとても有り難いお方ということなのだがーー。

「私、昼過ぎから城での会議に出席しなければいけないので手短にお願いします」
「そういうことは先に言えよ!」

 エドルドさんの彼に対する扱いがひどく雑だ。
 私の扱いも模範的なギルドの職員の対応ではないと思うが、レオンさんに対してのものの方が打ち解けているというか?

「イエスかノーの二択なんだから10分もあれば終わるでしょう」
「すぐ終わると思うならこっち優先してくれても良かっただろう!? いくら遅れて来たからって酷くないか? せめて食べながら話を聞いてくれてもいいじゃないか……」
「仕方ないですね……。美味しいお菓子をもらった分くらいは働きますよ」

 はぁとため息を吐いたエドルドさんはカップにお茶を注いだ後で、面倒臭そうに説明を開始した。

「レオンは私が知る限り、パーティーを組むなら一番安全な冒険者でもあります」
「エドルドさんまでパーティーを組めって言うんですか?」
「いえ、個人的にはどちらでも構いません。ただSランク冒険者なので金は持ってますし、今日のように予約殺到スイーツを手に入れるだけの人脈も持ち合わせています」
「それは少し魅力的ですね……」

 勧めたいのか、勧めたくないのか。
 スイーツを話に混ぜ込んでくるだけ、レオンさんを立てているのだろう。
 義理を立てているだけで、私には強い相棒がいると思い込んでいるエドルドさんにとって、私がどんな返事をしてもあまり大差はないのだろう。

 紅茶のカップを手に取り、少しだけ口をつける。
 するとエドルドさんの瞳は色が変わった。お菓子を前にした付き添い役から一転して、職員さんモードに入ったのだ。

「また彼と組んでSランク依頼をこなし続ければ後1年もせずにSランクに昇格することが出来るでしょう。Sランク冒険者になれば一部クエストの参加が義務づけられますが、国から様々な保証が受けられます」
「お嬢ちゃんが近々受けられる保証の中で一番大きなものは『学園に通う義務』だろうな」
「教育を受ける義務……ですか?」
「厳密にいえば卒業義務だな。Sランク冒険者の多くが引退後、国の重役に就くことになる。その際、同僚や部下となる者にはプライドの高い貴族がいる。もちろん冒険者を力で成り上がった野蛮人だと差別する貴族もな。彼らをある程度黙らせるための学歴だ。自分と同じ学園を卒業していると分かれば表沙汰には野蛮人と非難できないからな」

 家を継ぐことのない貴族の令息が、家のコネで重役に就くのは前世で読んだ本の中でもよく見かける話だった。

 この世界では教育とお金の関わりが濃いからこそ、学歴を有している時点である程度の立場の確立が出来るのだろう。

 学園に通わせることが出来る若い冒険者を早く囲って恩を売ることにより、国への利益に繋げるーーと。

 冒険者職を退いた後の地位が保証されているなら冒険者側の利益も大きいし、悪い話ではないのだろう。
 だがそれは一般的な冒険者にとっての話だ。

「私はあまり魅力には感じませんね」
「貴族の他に学園に通えるのは商家の子どもを筆頭とした金持ちの子どもか、国に認められた奨学生だけだ。一般市民の子どもが通える機会などほとんどない。知識はあるだけで自分の力になる。それも独学ではなく、専門家に教えを乞う機会があるのなら手にする他ないだろう」
「はぁ……」

 なんか勉強熱心なお父さんみたい。
 レオンさんの熱意に若干引きながらも、彼の言いたいことはしっかりと理解している。

 この世界と前世では『教育』の立ち位置がまるで違う。
 当たり前のように高校まで通わせてくれる日本とは異なり、ここでは学があるのはお金を持った親の元に産まれた子どもか、類い希なる才能を持ち合わせた一握りの人間だけが知識を得ることが出来る。
 王都を筆頭に大都市には図書館が建てられているようだが、利用出来る者はやはり入館料を払える者に限られる。資料の転写にはまた別料金がかかるとか……。それだけこの世界の知識はお金と直結しているのだ。
 知識があれば良い職にも就けるし、お金を騙くらかされることもないのだろう。

 だが私には前世の知識がある。
 簡単な計算ならソラで出来るし、言語チートが初期搭載されているのか言葉の壁に躓くこともない。聞き取りと発声だけでなく、筆記も可能なのは確認済み。

 細かいことはガイドで調べるなり、交換可能な書物で知識を仕入れればいい話だ。
 やはり私には学園に通う利点というものが見えてこない。

 むしろ在学期間中の収入がゴッソリ減ってしまう。

 そんなことになれば私の豪遊生活が崩れ、ホテルと食事のランクを落とさざるを得ないだろう。

 え、絶対嫌!
 でもどうやって断ろう……。

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