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29.サプライズはノーサンキュー
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「用意がいいな」
「手際良くやらないと今日中に終わりませんからね! そもそもこんな量のものをどうやって持って行くつもりだったんですか?」
「必要なもの以外は家に置いておこうと思っていたんだ。だが途中で逃亡すると思われているのか、そう簡単には王都に帰してもらえないらしくてな……」
「家? レオンさん、家持ってるんですか?」
今までの話を聞いていると、宿暮らしのようだったが、どこかに家を買っているのだろうか。
王都を拠点にしているから帰れていないだけとか?
初耳情報に思わず手が止まってしまう。
家に置いていくつもりだったと言うからにはここからさほど遠くもないのだろう。
遠くないのならわざわざ南方まで運ばずとも、その家とやらに運びこめばいいだろう。
とりあえず服は二つのクローゼットにまとめてしまったが、そこからさらに季節ごとに分けた方が良かったかも知れない。
今から分け直すか……と振り向けば、レオンさんは衝撃的な言葉を口にした。
「ああ。数ヶ月前、ロザリアと一緒に住もうと思って学園の近くに家を買ったんだ」
「は? 私と住む?」
「ロザリアが学園に通う時にホテルから通うのは不便だろうと思って。あんまり広い家は空いてなかったんだが、まぁ二人で住むには十分な広さはある。部屋数も共有スペースを除いて2部屋ずつあるし、ウォークインクローゼットもあってだな」
「内装なんてどうでもいい! なに相談もなく家買ってるんですか!」
「サプライズでお披露目するつもりだったんだよ! もちろんホテルは前みたいにいない間も押さえておくつもりだったし、好きな時に行き来すればいいかなって」
「頭が痛い……」
思い返せば南方行きの話を聞かされた際に、私と二人暮らしをする予定だったと漏らしていたが、まさか家まで購入していたとは……。
レオンさんは想像以上に、私の入学を楽しみにしてくれていたらしい。
遅くに出来た子どもが初めて学校に入学する時の親ってこんな感じなのだろうか。
それにしてもはしゃぎすぎだが。
将来、私に子どもでも出来たらどうなってしまうのだろうか。
まず大前提として、相手がいないのだが。
「そういえばまだロザリアには鍵渡してなかったな。エドルドにも渡してあるが、基本的に好きに使ってくれて構わない。さすがに友達を呼ぶのにエドルドの家は誘いづらいだろう」
「家に呼ぶほどの友達が出来るかは分かりませんけどね」
その配慮は嬉しいが、レオンさんが王都を離れるということは、今まで二人で割り振っていた仕事を私が一挙に引き受けるということでもある。
王都を拠点としているSランク冒険者は私達以外にも数人いるらしいが、よほどのことがなければ出てくることはない。その代わり、仕事を受ける時は一気に受けていくし、緊急要請が入れば光の早さでこなしてくれる。
変わり者が多い高ランク冒険者の中でも特に変わり者が集う場所こそが王都らしい。
特殊クエストぐらいじゃなかなか動いてくれないとエドルドさんはよくぼやいている。
もちろんあまりに仕事が多すぎると判断を下されれば、無理にでも呼びつけるだろう。
それでも無理だと判断されれば、他の地方を拠点とするSランク冒険者にも仕事が割り振られることとなる。
王都から頼んだことはないが、南方のように高ランク冒険者が少ない地方からは何度か要請を受けたことがある。けれど基本的にその地方を拠点としている冒険者がこなすこととなっている。
つまり王都の特殊クエストをこなすのはほぼほぼ私一人だ。
ほとんどの魔物をワンパンで倒せるとはいえ、移動時間もかかるし、期限付きのクエストも少なくはない。単位や出席日数は卒業に関係ないらしいが、真面目に通うように言われている私ももちろん仕事優先にしなければいけない。
友達なんて出来る自信はない。
ただでさえ私のコミュニケーション能力は人並みか少し下あたり。
それに学園の生徒の9割以上が貴族の子ども達で、残り1割の平民も有名な商家や金持ちの子どもがほとんどだ。そんな中にSランク冒険者の養子という設定とはいえ、ごくごく普通の庶民でしかない私が入ったところで友達が出来るかすら怪しいものがある。
いじめとかないといいな~。
物理攻撃されたところでダメージなんてほぼ感じないし、机に花を置かれても退かせばいいだけだ。落書きされても魔法でどうにか処理出来るし、教科書や物が傷つけられてもやはり魔法を使えば復活可能だ。
だが厄介なのはレオンさんの存在だ。
虐められているなんて情報が耳に入れば飛んできそうだな……。
どうせ友達が出来る見込みもないし、なるべく目立たず過ごそう。
認識阻害とまでいかずとも、認識しにくくなるようなステルス系のスキルはあったはずだ。あれを取得してかけておけばいいだろう。
着々と私の脳内で灰色の学園生活計画が構成されていく。
「ああ、それとブラッカー家は学生の不純異性交遊を禁止しているから! ギリギリ手を握ったデートまでは見逃すがそれ以上は駄目だからな!」
「なんの心配してるんですか……」
手を握ったデートってそんなもの学園入学前の子どもでもしていると思うが、どうせその予定すらないのだ。
ここはあえて突っ込まないでおこう。
「若い男女が集まれば何が起きるかわからないじゃないか!」
「じゃあなんでそんな所に通わせようとしてるんですか……」
「ああ、やっぱり行きたくなくなってきた……。帰ってきた時にロザリアが不良少女になってたらと考えると胃が……」
「なりませんって! ぐだぐだ言ってないでしっかり働いてください。ほら、クローゼットは収納しましたから。後は何入れるんですか? 教えてくれないと困りますよ」
行きたくないと駄々をこねるレオンさんを引きずって、収納と買い物を済ませる。
南方への馬車でも「ギックリ腰に効く薬を錬金術で作れないのか?」だの「Aランク冒険者をどこかからスカウトしてくればいい」だの諦めの悪いことばかりを口にしていた。
腰痛に効く薬やシップを錬金術で作るって手があったな、と気づいたが、これを逃すとレオンさんの子離れの機会がなくなりそうだ。この機会を逃すほど私も馬鹿ではない。
ただでさえレオンさんは私に隠れてメリンダ人形を隠れて持って行こうとしたのだから。
いつの間にか荷物に髪染めが入っていたことに気づいて良かった……。
レオンさんが手に持った大きめの鞄から身体を折り曲げたメリンダ人形が出てきた時には、口から心臓が飛び出るかと思ったほどだ。余計なことは腹底に押し込めて、宥める作戦に移行する。
「定期的に顔見せに来ますから」
「本当か?」
「本当です。こっちのクエストもボードに張られていることはレオンさんも知っているでしょう?」
「そうだが……」
南方のギルドに着いてからもぶつぶつ言い続けるレオンさんを引き離すのには苦労したが、私には伝家の宝刀があった。
「レオンさん。あんまり文句言うと私、本当に武者修行に出ますよ?」
「ちゃんと学園には通わないと!」
「私がちゃんと通うんですから、レオンさんもちゃんとお仕事してくださいね?」
「……せめてメリンダ人形持ってくれば良かった」
まだまだ納得いかないようだが、私が学園に通うことに乗り気ではないことを一番よく知っているのはレオンさんだ。ここで無理を言えば本当に武者修行に出ていくと思ってくれたのだろう。それでも少しでも私の滞在時間を延ばすためか、滞在用にと用意された家の整理をだらだらと行う。
いつもならしゃんとして! と言いたいところだが、気落ちしているレオンさんがあまりにも不憫だった。
「荷ほどきが終わったら一緒にご飯行きましょう? 今日は私が奢りますから」
「ああ……」
しょんぼりとしていたレオンさんだったが、食事を終える頃には少しだけ機嫌が戻っていた。
……私が馬車に乗り込む直前にまた駄々をこねていたが、そちらは足蹴りを一発喰らわせて終了である。
「手際良くやらないと今日中に終わりませんからね! そもそもこんな量のものをどうやって持って行くつもりだったんですか?」
「必要なもの以外は家に置いておこうと思っていたんだ。だが途中で逃亡すると思われているのか、そう簡単には王都に帰してもらえないらしくてな……」
「家? レオンさん、家持ってるんですか?」
今までの話を聞いていると、宿暮らしのようだったが、どこかに家を買っているのだろうか。
王都を拠点にしているから帰れていないだけとか?
初耳情報に思わず手が止まってしまう。
家に置いていくつもりだったと言うからにはここからさほど遠くもないのだろう。
遠くないのならわざわざ南方まで運ばずとも、その家とやらに運びこめばいいだろう。
とりあえず服は二つのクローゼットにまとめてしまったが、そこからさらに季節ごとに分けた方が良かったかも知れない。
今から分け直すか……と振り向けば、レオンさんは衝撃的な言葉を口にした。
「ああ。数ヶ月前、ロザリアと一緒に住もうと思って学園の近くに家を買ったんだ」
「は? 私と住む?」
「ロザリアが学園に通う時にホテルから通うのは不便だろうと思って。あんまり広い家は空いてなかったんだが、まぁ二人で住むには十分な広さはある。部屋数も共有スペースを除いて2部屋ずつあるし、ウォークインクローゼットもあってだな」
「内装なんてどうでもいい! なに相談もなく家買ってるんですか!」
「サプライズでお披露目するつもりだったんだよ! もちろんホテルは前みたいにいない間も押さえておくつもりだったし、好きな時に行き来すればいいかなって」
「頭が痛い……」
思い返せば南方行きの話を聞かされた際に、私と二人暮らしをする予定だったと漏らしていたが、まさか家まで購入していたとは……。
レオンさんは想像以上に、私の入学を楽しみにしてくれていたらしい。
遅くに出来た子どもが初めて学校に入学する時の親ってこんな感じなのだろうか。
それにしてもはしゃぎすぎだが。
将来、私に子どもでも出来たらどうなってしまうのだろうか。
まず大前提として、相手がいないのだが。
「そういえばまだロザリアには鍵渡してなかったな。エドルドにも渡してあるが、基本的に好きに使ってくれて構わない。さすがに友達を呼ぶのにエドルドの家は誘いづらいだろう」
「家に呼ぶほどの友達が出来るかは分かりませんけどね」
その配慮は嬉しいが、レオンさんが王都を離れるということは、今まで二人で割り振っていた仕事を私が一挙に引き受けるということでもある。
王都を拠点としているSランク冒険者は私達以外にも数人いるらしいが、よほどのことがなければ出てくることはない。その代わり、仕事を受ける時は一気に受けていくし、緊急要請が入れば光の早さでこなしてくれる。
変わり者が多い高ランク冒険者の中でも特に変わり者が集う場所こそが王都らしい。
特殊クエストぐらいじゃなかなか動いてくれないとエドルドさんはよくぼやいている。
もちろんあまりに仕事が多すぎると判断を下されれば、無理にでも呼びつけるだろう。
それでも無理だと判断されれば、他の地方を拠点とするSランク冒険者にも仕事が割り振られることとなる。
王都から頼んだことはないが、南方のように高ランク冒険者が少ない地方からは何度か要請を受けたことがある。けれど基本的にその地方を拠点としている冒険者がこなすこととなっている。
つまり王都の特殊クエストをこなすのはほぼほぼ私一人だ。
ほとんどの魔物をワンパンで倒せるとはいえ、移動時間もかかるし、期限付きのクエストも少なくはない。単位や出席日数は卒業に関係ないらしいが、真面目に通うように言われている私ももちろん仕事優先にしなければいけない。
友達なんて出来る自信はない。
ただでさえ私のコミュニケーション能力は人並みか少し下あたり。
それに学園の生徒の9割以上が貴族の子ども達で、残り1割の平民も有名な商家や金持ちの子どもがほとんどだ。そんな中にSランク冒険者の養子という設定とはいえ、ごくごく普通の庶民でしかない私が入ったところで友達が出来るかすら怪しいものがある。
いじめとかないといいな~。
物理攻撃されたところでダメージなんてほぼ感じないし、机に花を置かれても退かせばいいだけだ。落書きされても魔法でどうにか処理出来るし、教科書や物が傷つけられてもやはり魔法を使えば復活可能だ。
だが厄介なのはレオンさんの存在だ。
虐められているなんて情報が耳に入れば飛んできそうだな……。
どうせ友達が出来る見込みもないし、なるべく目立たず過ごそう。
認識阻害とまでいかずとも、認識しにくくなるようなステルス系のスキルはあったはずだ。あれを取得してかけておけばいいだろう。
着々と私の脳内で灰色の学園生活計画が構成されていく。
「ああ、それとブラッカー家は学生の不純異性交遊を禁止しているから! ギリギリ手を握ったデートまでは見逃すがそれ以上は駄目だからな!」
「なんの心配してるんですか……」
手を握ったデートってそんなもの学園入学前の子どもでもしていると思うが、どうせその予定すらないのだ。
ここはあえて突っ込まないでおこう。
「若い男女が集まれば何が起きるかわからないじゃないか!」
「じゃあなんでそんな所に通わせようとしてるんですか……」
「ああ、やっぱり行きたくなくなってきた……。帰ってきた時にロザリアが不良少女になってたらと考えると胃が……」
「なりませんって! ぐだぐだ言ってないでしっかり働いてください。ほら、クローゼットは収納しましたから。後は何入れるんですか? 教えてくれないと困りますよ」
行きたくないと駄々をこねるレオンさんを引きずって、収納と買い物を済ませる。
南方への馬車でも「ギックリ腰に効く薬を錬金術で作れないのか?」だの「Aランク冒険者をどこかからスカウトしてくればいい」だの諦めの悪いことばかりを口にしていた。
腰痛に効く薬やシップを錬金術で作るって手があったな、と気づいたが、これを逃すとレオンさんの子離れの機会がなくなりそうだ。この機会を逃すほど私も馬鹿ではない。
ただでさえレオンさんは私に隠れてメリンダ人形を隠れて持って行こうとしたのだから。
いつの間にか荷物に髪染めが入っていたことに気づいて良かった……。
レオンさんが手に持った大きめの鞄から身体を折り曲げたメリンダ人形が出てきた時には、口から心臓が飛び出るかと思ったほどだ。余計なことは腹底に押し込めて、宥める作戦に移行する。
「定期的に顔見せに来ますから」
「本当か?」
「本当です。こっちのクエストもボードに張られていることはレオンさんも知っているでしょう?」
「そうだが……」
南方のギルドに着いてからもぶつぶつ言い続けるレオンさんを引き離すのには苦労したが、私には伝家の宝刀があった。
「レオンさん。あんまり文句言うと私、本当に武者修行に出ますよ?」
「ちゃんと学園には通わないと!」
「私がちゃんと通うんですから、レオンさんもちゃんとお仕事してくださいね?」
「……せめてメリンダ人形持ってくれば良かった」
まだまだ納得いかないようだが、私が学園に通うことに乗り気ではないことを一番よく知っているのはレオンさんだ。ここで無理を言えば本当に武者修行に出ていくと思ってくれたのだろう。それでも少しでも私の滞在時間を延ばすためか、滞在用にと用意された家の整理をだらだらと行う。
いつもならしゃんとして! と言いたいところだが、気落ちしているレオンさんがあまりにも不憫だった。
「荷ほどきが終わったら一緒にご飯行きましょう? 今日は私が奢りますから」
「ああ……」
しょんぼりとしていたレオンさんだったが、食事を終える頃には少しだけ機嫌が戻っていた。
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