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30.待望のスキルを取得しました
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早めの夕食後に王都行きの馬車に乗ったまでは良かった。
この調子なら朝一とはいかずとも、昼前には王都に到着出来るだろうと踏んでいた。
朝ご飯はとりあえず抜きの方向で。
メリンダとしてエドルドさんに挨拶に行く前に適当に軽食を摘まむのもいいかもしれない。睡魔は……我慢しよう。
馬車の中でガクガクと舟をこぐのは確実だけど、ただでさえ直前になって南方行きを決めているのだ。
これ以上エドルドさんに迷惑をかけたくはなかった。
だが王都へと急く私の心とは裏腹に、途中の山道を魔物に塞がれてしまった。
コボルドなどの低級魔物数体ならば馬車付きの護衛でどうにかなったのだが、遭遇したのはゆうに10体は越えるゴブリン。
ゴブリンも低級魔物ではあるものの、量が問題だ。馬車の前に繰り出しただけでこれだけ居るとなると、近くに巣を作っている可能性も高い。そうなってしまえば護衛ではどうしようも出来ない。
あくまで彼らの仕事は山賊や少数魔物の討伐なのだ。
もしもここで10体討伐したところで山を越える前、特に狭い道で襲われでもしたらたまったものではない。
このままでは山を越えられないと判断した馬車は一度手前の村まで戻り、そこから馬車協会に連絡し、協会からギルドへと依頼を出す。ごくごく当然の対応であると言える。
馬車に乗る者はこのような事態に遭遇した場合、距離分の運賃+多少の手間賃を引いた額が返却され、下ろされてしまう。
つまり私は山間部の小さな村で下ろされてしまったのだ。
不運にも魔物達が陣取った山は馬車がよく通る道だ。
各地から王都へ向かう最短ルートであるその道は、人の行き来はもちろん流通でも重宝される。
他に道がない訳でもないが、ここから第二の最短ルートを通るとすれば、王都に着くまで最低でも三日はかかる。
最低でも、だ。
商会や貴族を乗せた馬車がそこに集まれば到着はもっと遅くなる。ちなみに優先順位はもちろんお貴族様が一番で、二番目に商業馬車、そして最後に一般馬車だ。
依頼を受けた冒険者がクエスト受注証明を見せれば道を譲ってくれるので、世知辛い世の中という訳でもなく、順当とも言える。
ここでレオンさんが居れば状況は変わっただろう。
Sランク冒険者として超有名なレオンさんは当たり前のように馬車協会にも顔が利くのだ。彼が片付けてくると言えば、ギルドに話を通すのが後回しになっても構わない。
もちろん後処理をするのはエドルドさんだ。
私と出会う前から困っている人を見ると考えるよりも先に助けてしまうらしく、もう慣れているとのことだ。その関係でレオンさんは異常なまでに顔が広いのだ。
そんなレオンさんと数年一緒にいた私はといえば、そこまで顔が知られていない。
いや、レオンさんと一緒にいる冒険者とか娘としてなら知られているだろう。けれどそれはレオンさんがいてこそであって、彼がいない私はお弁当の外のバラン。知っている人もいるかもしれないが、知っていたところで見向きもされない。
同じSランク冒険者でありながら、それすら知られているかは怪しいところだ。
そんな状況で『Sランク冒険者 ロザリア』に目を付けたお貴族様ってなんなんだろう……。
アンテナが広く、情報収集に余念がないのか、グルメマスターへの執着がそうさせるのか。
おそらく後者なのだろう。
グルメマスター怖っ!ーーって、今はまだ見ぬグルメマスターに恐れを抱いている場合じゃなかった。
状況を打破するのが先決だ。
私が取れる選択は主に5つ。
1.遠回りする馬車を捕まえて乗る。
2.クエストを受けた冒険者が魔物を一掃してくれるのを待つ。
3.南方の領まで行ってレオンさんに応援を頼む。
4.これを機に『転移』スキルを取得して、隣の山まで飛ぶ。
5.こっそり山に行って魔物を倒す。
1と2は何日かかるか具体的な予測は立てられないが、確実ではある。同じ馬車に乗り合わせていた人達はこれを選択する。
3は明日には確実に通れるようになるだろうが、代わりにまたレオンさんを引き剥がすのに苦労することになる。最悪の場合、娘には自分がいないと駄目だから! とか理由を付けて王都に帰ろうとする。他の人に多大な迷惑をかけると同時に、確実に子離れが失速する。
残る4と5だが、これは複合が可能だ。
5なんてお金は手に入らないが、リスクは物凄く低い。4は石から脱出出来なくなるかも? というリスクはあるが、それはまだ取得もしていない段階でびびっているだけだ。
レベルを10まで上げてから使えば大丈夫なんじゃないか? という気持ちもある。
それにギルドに依頼が出されるなら最悪、洞窟の壁に埋まったところですぐに救出される可能性が高い。それに自力で脱出する方法はいくつかある。ストームでどうにか出来ればいいが、案外『測定不能』になった筋力ならもがくだけで脱出出来るかもしれない。
あくまで予想でしかなくて、試すのは完全に賭けだ。
でもここで転移が使えればこれからの『武者修行中のロザリア』と『冒険者兼学生のメリンダ』の両立生活がグッと楽になる。同時に私のお尻の負担も減る。今まで以上にお金を貯めることも出来るだろうし、結構な頻度でレオンさんの様子を見に行くことが出来る。
良いことづくしだ。
途端に今までびびっていたのが馬鹿みたいに思えてくる。
早速村から出て森へ向かう。
そして周りに人がいないのを確認してから、ポイント交換一覧を開いて『転移』を取得した。表示された詳しい説明を読んでみれば転移場所は登録制のようだ。レベルが上がるごとに登録可能数が増えるらしい。
制限はあるものの、石に挟まる心配はないーーと。
ちなみに登録方法は『転移場所登録』と念じながら、何かを触ると名前登録をするための画面が出てくるようだ。表示されるキーボードを使って20文字以内で名前を打ち込めば登録完了。登録可能数の上限に達すれば古いものから消されてしまうらしいが、手動で削除が可能らしい。また制限はあるものの、お気に入り登録機能もあるようだ。
かゆいところに手の届く親切スキルだったらしい。
知ってたらもっと早く取ってた! と言いたいところだが、転移出来るのは使用者のみ。ソロ向きスキルだった。
今が取得にちょうどいいタイミングだったらしい。
山の魔物グッジョブ!
これからバッサバッサ切り捨てるけど、ドロップ品と魔石は有効活用するから許してね!
矢印をタップしまくって、レベルを10まで上げてから、早速この場所を『真ん中の村』で登録する。
転移と念じてコマンド欄を開けば『真ん中の村』の文字が刻まれていた。
数歩離れてから文字をタップすれば先ほど立っていた場所に移動していた。まだいくつか試す必要はあるが、簡単な動作は問題なさそうだ。
時間がある時に木の上や室内の転移も試してみよう。
けれど今はとりあえず魔物討伐が先だ。
山まで徒歩で向かわねばならないのが面倒ではあるものの、馬は借りたところで乗れないのだ。ましてや馬車を出して貰う訳にもいかない。
ストームで自分を持ち上げられたらいいのにな~なんて楽をすることばかり考えながら、山道を上った。
巣穴の破壊とゴブリンの殲滅自体はいつも通り。
ワンパンを繰り返し、最後にファイヤーボールを最大出力でぶっ放すだけ。
やることは何も変わらない。
チートな私がこれくらいで疲労感を感じるはずがないのに、ドッと疲れが押し寄せる。
身体の疲労ではない。
ただレオンさんが隣にいるのが当たり前になりすぎていて、当たり前のように投げた言葉の返事がゴブリンの鳴き声だけであったことが精神的に堪えただけ。
どうやら私もレオンさんのことを笑えないようだ。
これはさすがにヤバい……。
転移使って、定期的に様子見に行こうとか考えている場合じゃない。
朝日が差し込む無人の山道で一人、頭を抱えながらうなり声を上げる。
これからは少し距離置かないと……。
思春期の女の子ってそういうものだし!
「目指せ 親離れ」
拳を突き上げ、三年間の学生生活の目標を宣言する。
山道で身を隠して、アイテム倉庫から懐かしのテントを取り出す。ここしばらく使っていなかったのだが、用意の方法は身体が覚えている。人目に付きにくく、洞窟から離れた位置に、ちゃちゃっとテントを立てて、寝袋と簡易結界を設置。そしてーー寝た。
我慢しようと思っていたが、無理だった。
想定外のことが起きたんだから仕方ないよね。
仮眠だけ。
2~3時間寝るだけと言い訳をして、ゆっくりとまぶたを閉じるのだった。
この調子なら朝一とはいかずとも、昼前には王都に到着出来るだろうと踏んでいた。
朝ご飯はとりあえず抜きの方向で。
メリンダとしてエドルドさんに挨拶に行く前に適当に軽食を摘まむのもいいかもしれない。睡魔は……我慢しよう。
馬車の中でガクガクと舟をこぐのは確実だけど、ただでさえ直前になって南方行きを決めているのだ。
これ以上エドルドさんに迷惑をかけたくはなかった。
だが王都へと急く私の心とは裏腹に、途中の山道を魔物に塞がれてしまった。
コボルドなどの低級魔物数体ならば馬車付きの護衛でどうにかなったのだが、遭遇したのはゆうに10体は越えるゴブリン。
ゴブリンも低級魔物ではあるものの、量が問題だ。馬車の前に繰り出しただけでこれだけ居るとなると、近くに巣を作っている可能性も高い。そうなってしまえば護衛ではどうしようも出来ない。
あくまで彼らの仕事は山賊や少数魔物の討伐なのだ。
もしもここで10体討伐したところで山を越える前、特に狭い道で襲われでもしたらたまったものではない。
このままでは山を越えられないと判断した馬車は一度手前の村まで戻り、そこから馬車協会に連絡し、協会からギルドへと依頼を出す。ごくごく当然の対応であると言える。
馬車に乗る者はこのような事態に遭遇した場合、距離分の運賃+多少の手間賃を引いた額が返却され、下ろされてしまう。
つまり私は山間部の小さな村で下ろされてしまったのだ。
不運にも魔物達が陣取った山は馬車がよく通る道だ。
各地から王都へ向かう最短ルートであるその道は、人の行き来はもちろん流通でも重宝される。
他に道がない訳でもないが、ここから第二の最短ルートを通るとすれば、王都に着くまで最低でも三日はかかる。
最低でも、だ。
商会や貴族を乗せた馬車がそこに集まれば到着はもっと遅くなる。ちなみに優先順位はもちろんお貴族様が一番で、二番目に商業馬車、そして最後に一般馬車だ。
依頼を受けた冒険者がクエスト受注証明を見せれば道を譲ってくれるので、世知辛い世の中という訳でもなく、順当とも言える。
ここでレオンさんが居れば状況は変わっただろう。
Sランク冒険者として超有名なレオンさんは当たり前のように馬車協会にも顔が利くのだ。彼が片付けてくると言えば、ギルドに話を通すのが後回しになっても構わない。
もちろん後処理をするのはエドルドさんだ。
私と出会う前から困っている人を見ると考えるよりも先に助けてしまうらしく、もう慣れているとのことだ。その関係でレオンさんは異常なまでに顔が広いのだ。
そんなレオンさんと数年一緒にいた私はといえば、そこまで顔が知られていない。
いや、レオンさんと一緒にいる冒険者とか娘としてなら知られているだろう。けれどそれはレオンさんがいてこそであって、彼がいない私はお弁当の外のバラン。知っている人もいるかもしれないが、知っていたところで見向きもされない。
同じSランク冒険者でありながら、それすら知られているかは怪しいところだ。
そんな状況で『Sランク冒険者 ロザリア』に目を付けたお貴族様ってなんなんだろう……。
アンテナが広く、情報収集に余念がないのか、グルメマスターへの執着がそうさせるのか。
おそらく後者なのだろう。
グルメマスター怖っ!ーーって、今はまだ見ぬグルメマスターに恐れを抱いている場合じゃなかった。
状況を打破するのが先決だ。
私が取れる選択は主に5つ。
1.遠回りする馬車を捕まえて乗る。
2.クエストを受けた冒険者が魔物を一掃してくれるのを待つ。
3.南方の領まで行ってレオンさんに応援を頼む。
4.これを機に『転移』スキルを取得して、隣の山まで飛ぶ。
5.こっそり山に行って魔物を倒す。
1と2は何日かかるか具体的な予測は立てられないが、確実ではある。同じ馬車に乗り合わせていた人達はこれを選択する。
3は明日には確実に通れるようになるだろうが、代わりにまたレオンさんを引き剥がすのに苦労することになる。最悪の場合、娘には自分がいないと駄目だから! とか理由を付けて王都に帰ろうとする。他の人に多大な迷惑をかけると同時に、確実に子離れが失速する。
残る4と5だが、これは複合が可能だ。
5なんてお金は手に入らないが、リスクは物凄く低い。4は石から脱出出来なくなるかも? というリスクはあるが、それはまだ取得もしていない段階でびびっているだけだ。
レベルを10まで上げてから使えば大丈夫なんじゃないか? という気持ちもある。
それにギルドに依頼が出されるなら最悪、洞窟の壁に埋まったところですぐに救出される可能性が高い。それに自力で脱出する方法はいくつかある。ストームでどうにか出来ればいいが、案外『測定不能』になった筋力ならもがくだけで脱出出来るかもしれない。
あくまで予想でしかなくて、試すのは完全に賭けだ。
でもここで転移が使えればこれからの『武者修行中のロザリア』と『冒険者兼学生のメリンダ』の両立生活がグッと楽になる。同時に私のお尻の負担も減る。今まで以上にお金を貯めることも出来るだろうし、結構な頻度でレオンさんの様子を見に行くことが出来る。
良いことづくしだ。
途端に今までびびっていたのが馬鹿みたいに思えてくる。
早速村から出て森へ向かう。
そして周りに人がいないのを確認してから、ポイント交換一覧を開いて『転移』を取得した。表示された詳しい説明を読んでみれば転移場所は登録制のようだ。レベルが上がるごとに登録可能数が増えるらしい。
制限はあるものの、石に挟まる心配はないーーと。
ちなみに登録方法は『転移場所登録』と念じながら、何かを触ると名前登録をするための画面が出てくるようだ。表示されるキーボードを使って20文字以内で名前を打ち込めば登録完了。登録可能数の上限に達すれば古いものから消されてしまうらしいが、手動で削除が可能らしい。また制限はあるものの、お気に入り登録機能もあるようだ。
かゆいところに手の届く親切スキルだったらしい。
知ってたらもっと早く取ってた! と言いたいところだが、転移出来るのは使用者のみ。ソロ向きスキルだった。
今が取得にちょうどいいタイミングだったらしい。
山の魔物グッジョブ!
これからバッサバッサ切り捨てるけど、ドロップ品と魔石は有効活用するから許してね!
矢印をタップしまくって、レベルを10まで上げてから、早速この場所を『真ん中の村』で登録する。
転移と念じてコマンド欄を開けば『真ん中の村』の文字が刻まれていた。
数歩離れてから文字をタップすれば先ほど立っていた場所に移動していた。まだいくつか試す必要はあるが、簡単な動作は問題なさそうだ。
時間がある時に木の上や室内の転移も試してみよう。
けれど今はとりあえず魔物討伐が先だ。
山まで徒歩で向かわねばならないのが面倒ではあるものの、馬は借りたところで乗れないのだ。ましてや馬車を出して貰う訳にもいかない。
ストームで自分を持ち上げられたらいいのにな~なんて楽をすることばかり考えながら、山道を上った。
巣穴の破壊とゴブリンの殲滅自体はいつも通り。
ワンパンを繰り返し、最後にファイヤーボールを最大出力でぶっ放すだけ。
やることは何も変わらない。
チートな私がこれくらいで疲労感を感じるはずがないのに、ドッと疲れが押し寄せる。
身体の疲労ではない。
ただレオンさんが隣にいるのが当たり前になりすぎていて、当たり前のように投げた言葉の返事がゴブリンの鳴き声だけであったことが精神的に堪えただけ。
どうやら私もレオンさんのことを笑えないようだ。
これはさすがにヤバい……。
転移使って、定期的に様子見に行こうとか考えている場合じゃない。
朝日が差し込む無人の山道で一人、頭を抱えながらうなり声を上げる。
これからは少し距離置かないと……。
思春期の女の子ってそういうものだし!
「目指せ 親離れ」
拳を突き上げ、三年間の学生生活の目標を宣言する。
山道で身を隠して、アイテム倉庫から懐かしのテントを取り出す。ここしばらく使っていなかったのだが、用意の方法は身体が覚えている。人目に付きにくく、洞窟から離れた位置に、ちゃちゃっとテントを立てて、寝袋と簡易結界を設置。そしてーー寝た。
我慢しようと思っていたが、無理だった。
想定外のことが起きたんだから仕方ないよね。
仮眠だけ。
2~3時間寝るだけと言い訳をして、ゆっくりとまぶたを閉じるのだった。
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