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【11】あなたと私の花園
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再発発作から目覚めて以降、私の体調はとても安定していた。再発発作を起こすこともなく、数日後にはリハビリが再開された。心身ともに健やかで、順調に月日が過ぎていった――。
昏睡から目覚めて、今日で3か月。季節はめぐって、春になった。
陽気が良いので、最近は中庭でもリハビリを行わせてもらっている。リボンで束ねて一纏めにした髪が、春風になびいて気持ちいい。
芽吹き始めた木々を身近に感じながら、胸いっぱいに外気を吸い込むと、それだけで体が軽くなる。ぽかぽかした日差しの中、私はラファエル様に見守られながらゆっくりと歩行練習を続けていた。
「シスター・エルダ。少し、休憩を挟みましょう」
「分かりました」
私の手をラファエル様が優しく取って、長椅子へ導いてくれた。
「すっかり足の運びが安定してきましたね。とても綺麗ですよ」
彼は笑顔で言いながら、用意してあった果実水をカップに注いで、私に差し出してくれた。
「ありがとうございます、ラファエル様!」
最近では、少しなら杖なしでも自力で歩けるようになってきた。褒められたのと冷たい果実水の美味しさとで、私は大きな笑みを浮かべた。
「ドクター・ピーナも、あなたの回復ぶりにはいつも驚いていますよ。『この調子なら、あと二か月くらいで街を歩くこともできるはず』と言っていました」
「本当ですか!?」
思わず、声が弾んでいた。
目覚めてからずっと、私はこのアルシュバーン侯爵邸で暮らしてきた。敷地の外に思いを巡らせると、やはりワクワクしてくる。
「嬉しいです! 夢だったらどうしよう……!」
幸せを噛みしめながら、私はそうつぶやいていた。
「夢、ですか?」
ラファエル様が小さく首をかしげる。
「ええ。毎日充実しているから、たまに『本当は、全部夢だったりして……』って思ってしまうんですよ。出来過ぎた夢だな……って」
「大丈夫、これは夢なんかじゃありませんよ。夢よりもっとリアルで、素晴らしい場所にご案内します」
「?」
「少し散歩しましょう。実は、前からあなたに見せたかった場所があるんです」
ラファエル様はすっと立ち上がると、私を抱き上げて車椅子に乗せた。
……どこに行くんだろう?
ラファエル様が連れていってくれたのは、侯爵邸の奥庭だった。奥庭の一画は高い柵で囲われていて、門扉が施錠されている。開錠して扉を開くと、車椅子から再び私を抱き上げた。
「ここから先は段差があって、車椅子では危ないので」
そう言って、扉の中へと入っていく。
「わぁ……」
私は、思わず声を漏らしていた。
扉の先は、野草でいっぱいの花園だった。
空高く伸びるルピナスと、鐘型の花を風にそよがせる可憐なカンパニュラ。
足元にはタイムやカモミールなどの背の低いハーブが茂り、花々が織りなす景色は夢のように美しい。だが、夢よりずっと瑞々しかった。
「ここに咲いている花、私の大好きな花ばかりだわ……!!」
ラファエル様がまだ『レイ』だったころ、彼と一緒によく花を摘んだ。まだ花の名を知らない彼に、ひとつひとつの花の名前を教えてあげていた。
……ハッとして、私は彼の顔を見つめた。
紫の瞳が、優しく私を見つめ返してくれている。「気づきましたか?」と、穏やかな声でラファエル様は囁いた。
「シスター・エルダが目覚めてくれたら、その日が来たらと願い続けて、あなたの好きな花だけ集めた花園を作っておいたんです」
「――!」
……そんなことを、言わないで欲しかった。
だって、ドキドキしてしまうから。みっともなく顔が緩んでしまうから、
(……い、いえ。これは別にときめいているとか、そういうのじゃないから。ただ、嬉しいだけ。落ち着きなさい、エルダ……いい年して、みっともない)
私は努めて平静な声で、微笑しながらラファエル様に「ありがとうございます」とお礼を言った。
「シスター・エルダ。少しだけ、一緒に歩きませんか」
彼は、そっと私を地面に下ろした。
逞しい腕が差し出され、私は胸の高鳴りに戸惑いながらその腕に捕まった。一歩、また一歩とゆっくりながらも歩を進め、パーゴラにふたり並んで腰掛ける。
「いつかあなたが目覚めたら、ここで一緒に花を見るのが私の夢でした。季節が巡り、冬が訪れ花が枯れ、それでも次の春には再び芽吹く。今年こそはあなたと見たい、あなたと見たいと願って待ち望んでいました。……ようやく、叶った。これでようやく、私は前に進めます」
どこか決意のこもった声で、気持ちを絞り出すような声音を彼は紡いでいった。
「――エルダ、と」
「……え?」
「これからは『シスター』ではなく、ただ、エルダと呼んでもいいですか? 私はあなたを名前で呼びたい」
昏睡から目覚めて、今日で3か月。季節はめぐって、春になった。
陽気が良いので、最近は中庭でもリハビリを行わせてもらっている。リボンで束ねて一纏めにした髪が、春風になびいて気持ちいい。
芽吹き始めた木々を身近に感じながら、胸いっぱいに外気を吸い込むと、それだけで体が軽くなる。ぽかぽかした日差しの中、私はラファエル様に見守られながらゆっくりと歩行練習を続けていた。
「シスター・エルダ。少し、休憩を挟みましょう」
「分かりました」
私の手をラファエル様が優しく取って、長椅子へ導いてくれた。
「すっかり足の運びが安定してきましたね。とても綺麗ですよ」
彼は笑顔で言いながら、用意してあった果実水をカップに注いで、私に差し出してくれた。
「ありがとうございます、ラファエル様!」
最近では、少しなら杖なしでも自力で歩けるようになってきた。褒められたのと冷たい果実水の美味しさとで、私は大きな笑みを浮かべた。
「ドクター・ピーナも、あなたの回復ぶりにはいつも驚いていますよ。『この調子なら、あと二か月くらいで街を歩くこともできるはず』と言っていました」
「本当ですか!?」
思わず、声が弾んでいた。
目覚めてからずっと、私はこのアルシュバーン侯爵邸で暮らしてきた。敷地の外に思いを巡らせると、やはりワクワクしてくる。
「嬉しいです! 夢だったらどうしよう……!」
幸せを噛みしめながら、私はそうつぶやいていた。
「夢、ですか?」
ラファエル様が小さく首をかしげる。
「ええ。毎日充実しているから、たまに『本当は、全部夢だったりして……』って思ってしまうんですよ。出来過ぎた夢だな……って」
「大丈夫、これは夢なんかじゃありませんよ。夢よりもっとリアルで、素晴らしい場所にご案内します」
「?」
「少し散歩しましょう。実は、前からあなたに見せたかった場所があるんです」
ラファエル様はすっと立ち上がると、私を抱き上げて車椅子に乗せた。
……どこに行くんだろう?
ラファエル様が連れていってくれたのは、侯爵邸の奥庭だった。奥庭の一画は高い柵で囲われていて、門扉が施錠されている。開錠して扉を開くと、車椅子から再び私を抱き上げた。
「ここから先は段差があって、車椅子では危ないので」
そう言って、扉の中へと入っていく。
「わぁ……」
私は、思わず声を漏らしていた。
扉の先は、野草でいっぱいの花園だった。
空高く伸びるルピナスと、鐘型の花を風にそよがせる可憐なカンパニュラ。
足元にはタイムやカモミールなどの背の低いハーブが茂り、花々が織りなす景色は夢のように美しい。だが、夢よりずっと瑞々しかった。
「ここに咲いている花、私の大好きな花ばかりだわ……!!」
ラファエル様がまだ『レイ』だったころ、彼と一緒によく花を摘んだ。まだ花の名を知らない彼に、ひとつひとつの花の名前を教えてあげていた。
……ハッとして、私は彼の顔を見つめた。
紫の瞳が、優しく私を見つめ返してくれている。「気づきましたか?」と、穏やかな声でラファエル様は囁いた。
「シスター・エルダが目覚めてくれたら、その日が来たらと願い続けて、あなたの好きな花だけ集めた花園を作っておいたんです」
「――!」
……そんなことを、言わないで欲しかった。
だって、ドキドキしてしまうから。みっともなく顔が緩んでしまうから、
(……い、いえ。これは別にときめいているとか、そういうのじゃないから。ただ、嬉しいだけ。落ち着きなさい、エルダ……いい年して、みっともない)
私は努めて平静な声で、微笑しながらラファエル様に「ありがとうございます」とお礼を言った。
「シスター・エルダ。少しだけ、一緒に歩きませんか」
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逞しい腕が差し出され、私は胸の高鳴りに戸惑いながらその腕に捕まった。一歩、また一歩とゆっくりながらも歩を進め、パーゴラにふたり並んで腰掛ける。
「いつかあなたが目覚めたら、ここで一緒に花を見るのが私の夢でした。季節が巡り、冬が訪れ花が枯れ、それでも次の春には再び芽吹く。今年こそはあなたと見たい、あなたと見たいと願って待ち望んでいました。……ようやく、叶った。これでようやく、私は前に進めます」
どこか決意のこもった声で、気持ちを絞り出すような声音を彼は紡いでいった。
「――エルダ、と」
「……え?」
「これからは『シスター』ではなく、ただ、エルダと呼んでもいいですか? 私はあなたを名前で呼びたい」
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