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【挿話②】異母妹キャロラインside
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【――4年前――】
「いやよ! わたし、絶対に老いぼれ貴族の愛人なんかにならないからね!?」
父の書斎に呼び出されたわたしは、両親の前で声を荒らげた。
おろおろしてわたしを見つめる母と、表情一つ変えない父。父はまるで死刑宣告をする裁判官のような口調でわたしに告げた。
「キャロライン、これは決定事項だ。オルドー家は今、破産するか否かの瀬戸際にある。この家の娘として、お前は自分の責任を果たせ」
「冗談じゃないわ!」
怒りに我を忘れたわたしは、机の上の書類を巻き散らし、花瓶や調度品を投げ捨てた。普通なら侍従や事務官が止めに入るような騒ぎだったけれど、この屋敷にはもう、そんな人手さえ残されていない。
オルドー子爵家は、まさに財政破綻寸前なのだ。
原因は父の投資の失敗だった。新大陸の鉱山採掘権を購入したけれど、それがまったくのクズ山で赤字を垂れ流し続けている。
莫大な借金を背負った父は、借金相手のひとりである老貴族から「返済を免除する代わりに娘を寄こせ」と持ち掛けられた。その老貴族はわたしを召し抱える支度金まで用意していたらしく、父は迷わず頷いてしまったのである。
「私の命令に背く権利など、お前にはない!」
「どうしてわたしが借金のかたに売られなきゃいけないの? 全部お父様が悪いのに!」
わたしが食って掛かると、父は歯をギリギリと軋らせて、真っ赤な顔で怒鳴りつけてきた。
「うるさい! 私ではなく、お前とダミアンのせいだろう!」
「なんですって!?」
「お前たちがもっとまともにしていれば、私は事業の吟味に専念できた。事業選びを誤ったのは、お前が頼りないからだ。――病気になったのが、エルダではなくお前だったら良かったのに」
吐き捨てるような父の言葉に、わたしは絶句してしまった。
「お前よりもエルダのほうが優秀だった。当主としての才覚も、人間としての器もお前より遥かに上だ。ダミアンのことだって、エルダであれば火遊びがひどくなる前に見抜けていたに違いない」
「…………!!」
最低の父親だ。こんな男、わたしの味方にはならない。だったら、せめて母だけでも――と、わたしは縋るように母へ視線を向けた。しかし、母は幼児をなだめるような口調でこんなことを言ってきた。
「ほら、キャロライン。そんなに怖い顔をしないで。あの方はたしかにご高齢だけれど、とってもお金持ちなのよ? 今よりずっと贅沢に暮らせるし、上手く取り入れば正妻になれるかもしれないじゃない」
「……お、お母様」
信じられない……母までわたしを売るつもりなんて。
「いやよ――そんなの、絶対いや!」
泣き叫ぶわたしに、父母はまったく耳を貸さなかった。
「あなたはまだ若くて美しいから、優しく迎えてくださると思うの。ダミアンさんといた頃より幸せになれるはずよ。だから……ね?」
「キャロライン。先方の気が変わる前に準備をしろ」
「そんな……」
わたしは絶望してその場にしゃがみこんでいた。
「エルダがいれば、……エルダさえここに居れば、代わりに売れたのに!!」
修道院に入っていた異母姉のエルダが、数年前にいばら病で昏睡状態に陥ったことは風の噂で聞いている。そしてなぜかアルシュバーン侯爵に引き取られて、延命治療を受けているらしい。
――腹が立つ。あの女が生きてここにいれば、身代わりにできたのに!
「…………いや。いやよ、もう。こんな人生、嫌――!!」
夫に浮気され、実家は借金漬けで、挙句の果てには老いぼれジジイの愛人にされるなんて。どうしてわたしの人生は、こんなことになってしまったの……!?
「いやよ! わたし、絶対に老いぼれ貴族の愛人なんかにならないからね!?」
父の書斎に呼び出されたわたしは、両親の前で声を荒らげた。
おろおろしてわたしを見つめる母と、表情一つ変えない父。父はまるで死刑宣告をする裁判官のような口調でわたしに告げた。
「キャロライン、これは決定事項だ。オルドー家は今、破産するか否かの瀬戸際にある。この家の娘として、お前は自分の責任を果たせ」
「冗談じゃないわ!」
怒りに我を忘れたわたしは、机の上の書類を巻き散らし、花瓶や調度品を投げ捨てた。普通なら侍従や事務官が止めに入るような騒ぎだったけれど、この屋敷にはもう、そんな人手さえ残されていない。
オルドー子爵家は、まさに財政破綻寸前なのだ。
原因は父の投資の失敗だった。新大陸の鉱山採掘権を購入したけれど、それがまったくのクズ山で赤字を垂れ流し続けている。
莫大な借金を背負った父は、借金相手のひとりである老貴族から「返済を免除する代わりに娘を寄こせ」と持ち掛けられた。その老貴族はわたしを召し抱える支度金まで用意していたらしく、父は迷わず頷いてしまったのである。
「私の命令に背く権利など、お前にはない!」
「どうしてわたしが借金のかたに売られなきゃいけないの? 全部お父様が悪いのに!」
わたしが食って掛かると、父は歯をギリギリと軋らせて、真っ赤な顔で怒鳴りつけてきた。
「うるさい! 私ではなく、お前とダミアンのせいだろう!」
「なんですって!?」
「お前たちがもっとまともにしていれば、私は事業の吟味に専念できた。事業選びを誤ったのは、お前が頼りないからだ。――病気になったのが、エルダではなくお前だったら良かったのに」
吐き捨てるような父の言葉に、わたしは絶句してしまった。
「お前よりもエルダのほうが優秀だった。当主としての才覚も、人間としての器もお前より遥かに上だ。ダミアンのことだって、エルダであれば火遊びがひどくなる前に見抜けていたに違いない」
「…………!!」
最低の父親だ。こんな男、わたしの味方にはならない。だったら、せめて母だけでも――と、わたしは縋るように母へ視線を向けた。しかし、母は幼児をなだめるような口調でこんなことを言ってきた。
「ほら、キャロライン。そんなに怖い顔をしないで。あの方はたしかにご高齢だけれど、とってもお金持ちなのよ? 今よりずっと贅沢に暮らせるし、上手く取り入れば正妻になれるかもしれないじゃない」
「……お、お母様」
信じられない……母までわたしを売るつもりなんて。
「いやよ――そんなの、絶対いや!」
泣き叫ぶわたしに、父母はまったく耳を貸さなかった。
「あなたはまだ若くて美しいから、優しく迎えてくださると思うの。ダミアンさんといた頃より幸せになれるはずよ。だから……ね?」
「キャロライン。先方の気が変わる前に準備をしろ」
「そんな……」
わたしは絶望してその場にしゃがみこんでいた。
「エルダがいれば、……エルダさえここに居れば、代わりに売れたのに!!」
修道院に入っていた異母姉のエルダが、数年前にいばら病で昏睡状態に陥ったことは風の噂で聞いている。そしてなぜかアルシュバーン侯爵に引き取られて、延命治療を受けているらしい。
――腹が立つ。あの女が生きてここにいれば、身代わりにできたのに!
「…………いや。いやよ、もう。こんな人生、嫌――!!」
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