29歳のいばら姫~10年寝ていたら年下侯爵に甘く執着されて逃げられません

越智屋ノマ

文字の大きさ
29 / 35

【26】告白①

しおりを挟む
「ん…………。よく寝た」
朝の気配に誘われて、私は目覚めた。

なんとなく目が重たくて、ちょっと浮腫んでいる気がする……きっと、昨日の誕生日パーティで大泣きしたからだと思う。

「本当にすてきなお誕生日だったわ……」
まるで夢のような1日だった。本当に全部、レイのおかげだ。

私はサイドテーブルに置いてある3つの小箱を手に取った。どれもレイからのプレゼントで、私にとっては一生ものの思い出だ。

「ありがとう。レイ……最高のお誕生日を、本当に、ありがとう」

でも、お誕生日はもう終わった。だから私は思い出を胸に、前へと進まなければならない。
「……さて。自立に向けて、がんばらなくちゃ」
気を引き締めるために、私は両手で自分の頬をぱしんと叩いた。


やがて、ノックの後にアニスが入室してきた。
「おはようございます、エルダ様。昨日のお疲れは残っていませんか?」
「おはよう、アニス。昨日はありがとう。おかげさまで、とても元気よ」

朝の身支度を手伝ってもらってから、アニスと一緒に庭に出た。朝食前の日課として、天気の良い日は外に出て朝の空気を吸うことになっているのだ。

ガーデンチェアに腰を下ろすと、私はアニスに頼みごとをした。
「悪いけれど、新聞を持ってきてもらっても良いかしら」
「分かりました」
アニスがもってきてくれた今朝の朝刊を受け取ると、私は早速一面記事から目を通し始めた。

「新聞なんて珍しいですね、エルダ様」
「ええ。これからは外の世界にも目を向けなくちゃと思って」
「?」

だって私は、じきに侯爵邸から出ることになるんだから。10年の間にすっかり世間から置いてけぼりになっているし、しっかり情報収集していかないと。

(政治欄と経済情報、上流階級の動向と……。それに、求人欄も気になるわ)

世間では今、どんな職種が女性に向けて開かれているのだろう? 住所不定無職独身の29歳という絶妙に微妙な自分の境遇を思うと凹むけれど、あえて前向きに仕事探しをしていきたい。私がじっくりと求人欄を読み込んでいると、アニスが声を掛けてきた。

「エルダ様、どうして求人なんて見てるんですか?」
「ここを出たあとの働き口を調べておきたくて」
「!!?」

なぜかアニスは愕然とした顔になり、手に持っていた荷物をどさっと地面に落っことした。

「どうしたの? アニス」
「こ、ここを……出たあとって、エルダ様がですか?」
「ええ。そろそろ真剣に、身の振り方を考えないとね」
「んなっ…………な、何でですか!?」
「それはそうでしょう? 読み書きも炊事洗濯もできるし、どこかのお屋敷の家庭教師か使用人になれたらいいと思うんだけれど。……でも、身元がちゃんとしていない私では、お屋敷勤めは難しいかしら。だったら飲食店や宿屋も良いの。アニス、もし私が働けそうな就職先を知っていたら……」

「~~~~~~~っ!? ちょ、ちょっと失礼します!!」
アニスは激しくうろたえて、屋敷に駆け込んでいった。
「……どうしたのかしら。アニスったら」

程なくして、ラファエル様が血相を変えて現れた。いつものゆったりした雰囲気とは違って、ひどく焦った感じだ。
「エルダ!」

「――おはようございます、ラファエル様」
居住まいを正してそう言うと、彼は寂しげな顔になった。――なぜ『レイ』と呼んでくれないのですか、とでも言いたそうな顔だ。

でも昨日が特別だっただけで、本当は『ラファエル様』と呼ぶのが正しい。

「……エルダ。アニスから聞きました。どうして、屋敷を出ようなどと考えるのですか?」
彼はガーデンテーブルの新聞を一瞥してから、固い声でそう問いかけてきた。
「いつまでもラファエル様にご迷惑をかける訳にはいきませんから。いい加減、自立の準備を始めないと」
「迷惑ではありません」

ぐい。と、両肩を掴まれた。思わず逃げようとしたけれど、強い力で逃げられない。

「私がいつ迷惑だと言いましたか? ……『迷惑だ』と思わせる素振りを見せたことがありましたか?」
「…………」
「いつだって、エルダに居てほしいと伝えてきたはずです。いつまでも私のそばに居てください」

怖いくらいの真剣な瞳で、私をまっすぐ見つめてくる。そんなに、見つめないでほしかった。

「……ラファエル様は本当に優しいですね。子供時代のことに恩義を感じて命を救ってくれて、いつも優しくしてくれて。……私は親代りとして誇らしいです。でも、これ以上は流石に甘えられません」

私が淡く笑って言うと、彼は顔をひきつらせた。
「ずるいですね、あなたは。子どもの頃には戻れないと言いながら、いつまでも私を子ども扱いしてくる」

「そんなことはありませんよ、ラファエル様はすばらしい大人になってくださいました。おかげで私もこんなに元気になれましたし。探せば働き口も見つかると思いますし、仕事を始めて少しずつでもお金をお返――」
「いらない」
言葉の途中で、鋭く遮られた。
「そんなものいらない。あなたがいてくれるだけで良いんだ。なぜ私から逃げたがるんですか?」
「……ラファエル様こそ、どうしてそんなに私にかまうんです?」
「まだ分からないんですか」

彼は苦しげに息をつき、やがて、声を絞り出した。

「愛しいからに決まっている」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜

桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。 白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。 それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。 言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。 エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。 地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。 しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。 突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。 社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。 そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。 喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。 それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……? ⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

処理中です...