彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi

文字の大きさ
15 / 27

第15話:困った事になりました

しおりを挟む
「もしかしてあなた様は…エディ?」

6年前、領地に療養する前に会った男の子。とても綺麗な顔をしていたが、確か彼は平民だったが…

「そうだよ、アンリ。やっと思い出してくれたんだね。僕がエディだよ。僕はあの日から、君の事を忘れた事なんて一度もなかった。貴族学院に入学してきたアンリは、あの時とちっとも変っていなくて、本当に嬉しかったんだ。少し遠回りをしてしまったけれど、これからはずっと一緒だよ!」

そう言うと、私の方に真っすぐ歩いて来たと思ったら、そのまま私を抱きしめようとした。ただ、グレイズに直前で引っ張られたので、抱きしめられる事はなかったが…

「グレイズ、アンリはもう、君の婚約者ではなくなるんだよ。だから、気安く触るのは止めてくれるかい?僕、こう見えて意外と嫉妬深いんだよ」

「マッキーノ侯爵令息様こそ、アンリは私の婚約者です。正式な書類も提出しております。それに、婚約してすぐに解消、さらに別の貴族と婚約を結び直せば、アンリの評判は地の果てまで落ちてしまいます。ただでさえアンリは、あなた様に一方的に付きまとった事で、評判があまり良くないのです。どうかアンリの事は、諦めて下さい。お願いします」

グレイズがエディソン様に頭を下げた。

「エディソン様、私はあなた様に嫌われ、ハイエナ令嬢といわれておりました。両親や兄にまで迷惑を掛けてしまい、落ち込んでいた時に私を助けてくれたのが、グレイズです。私ははっきり言って、考えずに行動するし、周りの事も考えられないし、家族にも迷惑を掛けるし、どうしようもない令嬢です。そんなどうしようもない私を、少しだけまともな人間にしてくれたグレイズを、私は心の底から愛しております。それにエディソン様に対しても、もう好意を抱いておりません。どうか私の事は、諦めて下さい。お願いします」

グレイズの隣で、私も頭を下げた。

「アンリ…ごめんね、僕がちょっと冷たくしすぎたせいで、君の心が病んでしまっていたのだね。病んでいた時、優しくされたら嬉しいし、そっちになびくのもわかるよ。でも、僕は諦めるつもりはないよ。大丈夫、君が嫁いで来たら、僕がたっぷり甘やかしてあげるから安心して欲しい。もう二度と、寂しい思いはさせないからね」

そう言ってほほ笑んでいるエディソン様。その微笑を見た瞬間、背筋が凍り付くような感覚に襲われる。怖い…この人、何を言っているの?

「エディソン、今日のところはもう帰ろう。アンリ嬢、君にはエディソンが酷い事をしてしまって申し訳なかった。でもエディソンは、君をあしらい続けた事を、とても後悔していてね。どうかやり直すチャンスを与えてやって欲しいと、私は考えているのだよ。まあ、親バカと言われたらそれまでなのだが。それからグレイズ殿、近いうちにお宅にも伺うつもりだから、ご両親によろしく伝えてくれ。それでは失礼する」

「アンリ、必ず君を迎えに来るからね。グレイズ、君たちの婚約は白紙に戻る予定なんだ。アンリにこれ以上触れないでくれよ。それじゃあ、アンリ。出来るだけ早く迎えに来るから、いい子で待っていてね」

スッと私の顔に触れると、そのまま侯爵様と一緒に、エディソン様も部屋から出ていく。お父様とお母様も、慌てて後を追って部屋から出て行った。きっと2人の見送りに行ったのだろう。

本来なら私も行くべきなのだろうが、その場から動けない。

「アンリ、大丈夫か?顔色が悪いぞ」

グレイズが心配そうに、私の顔を覗き込んできた。そして、さっきエディソン様が触れた顔に、そっと手を当てる。グレイズの温かい手、さっきとは打って変わって、安心する。

「グレイズ、私、この後どうなるのかしら?このままエディソン様と結婚させられるのかしら?あんなにも私の事を無下にしていたのに…それも私の悲しむ顔を見て楽しんでいたなんて…そんな人の元に、嫁ぎたくはないわ…」

「大丈夫だ!俺たちは既に婚約しているし…きっと大丈夫だから、泣くなよ」

涙が次から次へと溢れ出る私を、グレイズが抱きしめてくれた。グレイズの腕の中は、やっぱり落ち着く。数時間前まで、確かに私は幸せの絶頂にいた。でも今は…

しばらくすると、お父様とお母様が、今度はグレイズの両親を連れて戻ってきた。グレイズの両親も、浮かない顔をしている。とりあえず、皆で席に着いた。

「…アンリ、グレイズ、悪いが2人の婚約は、解消しようと思っている…」

「お父様、何をおっしゃっているのですか?」

「どうだよ、おじさん、俺たちは正式に婚約を結んだんだぞ!第一、マッキーノ侯爵令息はずっとアンリに冷たかったじゃないか!それなのに、今更あんな事を言うなんて」

「2人の気持ちは十分わかる。でも…マッキーノ侯爵夫人は、現国王陛下の従兄妹だ。マッキーノ侯爵自体も、陛下と仲が良いし…侯爵家に歯向かう訳にはいかないんだ…」

辛そうに呟くお父様。

「そんな…イヤですわ。だってエディソン様は、ずっと私をあしらっていたではないですか!確かに私は1年半もの間、エディソン様に恋をしておりました。でも、その恋はもう諦め、今は前を向いて進んでいるのです。それなのに…」

「アンリ、大丈夫だ…おじさん、アンリはもう、マッキーノ侯爵令息を好きではない。それどころか、アンリが悲しむ姿を見たかったという不純な理由から、ずっとアンリをあしらっていたマッキーノ侯爵令息に、嫌悪感すら抱いているんだ。大体、あんな歪んだ感情の持ち主の元に嫁いだら、きっとアンリは苦労する。自分の娘が苦労してもいいのかよ!」

グレイズが必死にお父様に訴えてくれている。私もすがる様な気持ちで、お父様を見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

あなた方が後悔しても私にはどうでもいいことです

風見ゆうみ
恋愛
チャルブッレ辺境伯家の次女である私――リファーラは幼い頃から家族に嫌われ、森の奥で一人で暮らしていた。 私を目の敵にする姉は、私の婚約者や家族と結託して、大勢の前で婚約を破棄を宣言し私を笑いものにしようとした。 しかし、姉たちの考えなどお見通しである。 婚約の破棄は大歓迎。ですが、恥ずかしい思いをするのは、私ではありませんので。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...