31 / 73
第31話:あなたはなんて事を~サミュエル視点~
しおりを挟む
その後、キャリーヌと兄上が正式に婚約を結んだ。もう二度と、僕とキャリーヌが結ばれることはない。
でも…
あの日、貴族たちの圧に耐えながら、最後まで抵抗を続けてくれたキャリーヌ。僕はそれが嬉しかった。だからこそ、キャリーヌの幸せの為に、僕は身を引く決意が出来た。
キャリーヌ自身も、僕に申し訳ないと思っているのか、あまり話しかけてこなくなったのだ。正直寂しいが、仕方がない事。
それでも僕は、キャリーヌが心配で、陰ながらキャリーヌを見守り続けた。次期王妃になる事が決まったキャリーヌは、王妃教育も必死にこなし、慈善活動にも精力的に参加していた。
兄上との仲も良好の様だ。
ただ、キャリーヌが兄上に見せる優しい微笑を見ると、なんだか胸が張り裂けそうになる。でも僕は、キャリーヌを見守ると決めたのだ。どんなに辛くても、キャリーヌが幸せならそれでいい。そう思っていた。
そんな日々が7年ほど続いたある日、ディステル王国から王女が視察に来たのだ。ディステル王国は最近我が国が貿易を始めた国。国力もあり、我が国の2倍以上の領土を持っている事も有り、出来る限り良好な関係を築いておきたいと考えている国の1つだ。
ただ、視察にやって来た王女が、とんでもない女だったのだ。あろう事か、兄上を誘惑し始めたのだ。キャリーヌに自分と婚約してくれなければ、王太子を辞めるとまで言った兄上だ。さすがに王女の誘惑には乗らないだろう。
そう思っていた。ちなみにあの王女、何を思ったのか、僕にも誘惑を掛けて来たのだ。もちろん、断ったが…なんて尻軽な女なんだろう。
ただ、あんなにキャリーヌを愛していると豪語していた兄上だったが、美しいラミア殿下に惹かれている様だ。兄上の目は節穴なのか?ラミア殿下はかなり我が儘で、使用人たちが苦労している。さらに貴族令嬢たちにも悪態をついている様で、貴族たちからも苦情が来ているというのに…
出来るだけ穏便に、なおかつうまくラミア殿下を帰国させようと、父上も母上もあの手この手を使っていたが、中々うまくいかない。その上、兄上がラミア殿下の帰国を、猛烈に反対しだしたのだ。
そんな中、両親がどうしても外せない公務の為、国をしばらく開ける事になったのだ。一応王太子でもある兄上に、決定権が与えられることになった。
ただ…
「サミュエル、ジェイデンは少し抜けているところがある。それに、ラミア殿下の事も気がかりだ。もしジェイデンが間違った方向に進んだら、すぐに教えてくれ。それから、これをお前に預けておく。この書状には“全ての権限をサミュエルに与える”という文面が書かれている。ただ、この書状を使う前に、必ず私に相談して欲しい」
父上も何か思う事があったのだろう。僕に書状を渡してきたのだ。さらに、通信機も一緒に預けられた。
「わかりました、兄上が何かしでかさない様に、僕が監視します。それから、ラミア殿下の件、なんとか帰国させられないのでしょうか?」
「ラミア殿下にはそれとなく話をしているのだが“まだやる事が終わっていないから帰れない。ディステル王国の国王でもある兄からも、もう少しお世話になれと言われている”の、一点張りで…とにかく、ディステル王国ともめ事を起こしたくはないから…」
そう言って父上が頭を抱えてしまったのだ。そしてそのまま、両親は視察に出かけてしまった。
両親が視察に出掛けた翌日。
「サミュエル殿下、大変です。王太子殿下が…」
血相を変えて僕の元にやって来たのは、専属執事だ。一体何があったというのだ?
「実は先ほど、王太子殿下とキャリーヌ嬢の婚約が白紙に戻り、さらにキャリーヌ嬢が投獄されました」
「キャリーヌが投獄されただって?一体何があったんだい?」
意味が分からない。一体キャリーヌが何をしたというのだ。
執事の話だと、ラミア殿下と結婚したい兄上は、キャリーヌとの婚約を白紙に戻したい旨を、キャリーヌとマディスン公爵に迫り、婚約解消に至った事。さらに兄上がキャリーヌも傍に置きたいという我が儘な理由で、側妃になれと迫り、拒否したキャリーヌが投獄されてしまったとの事だ。
「そんなふざけた理由で、キャリーヌを!今すぐキャリーヌを牢から出せ…いいや、まずはマディスン公爵と話をしないと。それから、大至急父上に通信を入れてくれ」
何の罪もないキャリーヌを、あんな薄暗い地下牢に閉じ込めるだなんて!いくら実の兄でも、絶対に許せない。
怒りに震える中、さらに驚くべき情報が入って来たのだ。
「大変です、王太子殿下に抗議をしたマディスン公爵まで投獄されました。さらにマディスン公爵家を家宅捜索するそうで、今準備を進めているとの事です」
「一体どういう事だ。マディスン公爵まで投獄だって?そもそも何を家宅捜索するというのだ?何の罪もない公爵たちを、自分の思い通りにならないからと言って投獄なんてすれば、大問題だぞ。とにかく、すぐにマディスン公爵の居る場所に向かう。案内してくれ」
兄上は本当に何を考えているのだろうか?王家を潰すつもりなのか?とにかく、マディスン公爵に会わないと。そんな思いで、急いで公爵の元へと向かったのだった。
でも…
あの日、貴族たちの圧に耐えながら、最後まで抵抗を続けてくれたキャリーヌ。僕はそれが嬉しかった。だからこそ、キャリーヌの幸せの為に、僕は身を引く決意が出来た。
キャリーヌ自身も、僕に申し訳ないと思っているのか、あまり話しかけてこなくなったのだ。正直寂しいが、仕方がない事。
それでも僕は、キャリーヌが心配で、陰ながらキャリーヌを見守り続けた。次期王妃になる事が決まったキャリーヌは、王妃教育も必死にこなし、慈善活動にも精力的に参加していた。
兄上との仲も良好の様だ。
ただ、キャリーヌが兄上に見せる優しい微笑を見ると、なんだか胸が張り裂けそうになる。でも僕は、キャリーヌを見守ると決めたのだ。どんなに辛くても、キャリーヌが幸せならそれでいい。そう思っていた。
そんな日々が7年ほど続いたある日、ディステル王国から王女が視察に来たのだ。ディステル王国は最近我が国が貿易を始めた国。国力もあり、我が国の2倍以上の領土を持っている事も有り、出来る限り良好な関係を築いておきたいと考えている国の1つだ。
ただ、視察にやって来た王女が、とんでもない女だったのだ。あろう事か、兄上を誘惑し始めたのだ。キャリーヌに自分と婚約してくれなければ、王太子を辞めるとまで言った兄上だ。さすがに王女の誘惑には乗らないだろう。
そう思っていた。ちなみにあの王女、何を思ったのか、僕にも誘惑を掛けて来たのだ。もちろん、断ったが…なんて尻軽な女なんだろう。
ただ、あんなにキャリーヌを愛していると豪語していた兄上だったが、美しいラミア殿下に惹かれている様だ。兄上の目は節穴なのか?ラミア殿下はかなり我が儘で、使用人たちが苦労している。さらに貴族令嬢たちにも悪態をついている様で、貴族たちからも苦情が来ているというのに…
出来るだけ穏便に、なおかつうまくラミア殿下を帰国させようと、父上も母上もあの手この手を使っていたが、中々うまくいかない。その上、兄上がラミア殿下の帰国を、猛烈に反対しだしたのだ。
そんな中、両親がどうしても外せない公務の為、国をしばらく開ける事になったのだ。一応王太子でもある兄上に、決定権が与えられることになった。
ただ…
「サミュエル、ジェイデンは少し抜けているところがある。それに、ラミア殿下の事も気がかりだ。もしジェイデンが間違った方向に進んだら、すぐに教えてくれ。それから、これをお前に預けておく。この書状には“全ての権限をサミュエルに与える”という文面が書かれている。ただ、この書状を使う前に、必ず私に相談して欲しい」
父上も何か思う事があったのだろう。僕に書状を渡してきたのだ。さらに、通信機も一緒に預けられた。
「わかりました、兄上が何かしでかさない様に、僕が監視します。それから、ラミア殿下の件、なんとか帰国させられないのでしょうか?」
「ラミア殿下にはそれとなく話をしているのだが“まだやる事が終わっていないから帰れない。ディステル王国の国王でもある兄からも、もう少しお世話になれと言われている”の、一点張りで…とにかく、ディステル王国ともめ事を起こしたくはないから…」
そう言って父上が頭を抱えてしまったのだ。そしてそのまま、両親は視察に出かけてしまった。
両親が視察に出掛けた翌日。
「サミュエル殿下、大変です。王太子殿下が…」
血相を変えて僕の元にやって来たのは、専属執事だ。一体何があったというのだ?
「実は先ほど、王太子殿下とキャリーヌ嬢の婚約が白紙に戻り、さらにキャリーヌ嬢が投獄されました」
「キャリーヌが投獄されただって?一体何があったんだい?」
意味が分からない。一体キャリーヌが何をしたというのだ。
執事の話だと、ラミア殿下と結婚したい兄上は、キャリーヌとの婚約を白紙に戻したい旨を、キャリーヌとマディスン公爵に迫り、婚約解消に至った事。さらに兄上がキャリーヌも傍に置きたいという我が儘な理由で、側妃になれと迫り、拒否したキャリーヌが投獄されてしまったとの事だ。
「そんなふざけた理由で、キャリーヌを!今すぐキャリーヌを牢から出せ…いいや、まずはマディスン公爵と話をしないと。それから、大至急父上に通信を入れてくれ」
何の罪もないキャリーヌを、あんな薄暗い地下牢に閉じ込めるだなんて!いくら実の兄でも、絶対に許せない。
怒りに震える中、さらに驚くべき情報が入って来たのだ。
「大変です、王太子殿下に抗議をしたマディスン公爵まで投獄されました。さらにマディスン公爵家を家宅捜索するそうで、今準備を進めているとの事です」
「一体どういう事だ。マディスン公爵まで投獄だって?そもそも何を家宅捜索するというのだ?何の罪もない公爵たちを、自分の思い通りにならないからと言って投獄なんてすれば、大問題だぞ。とにかく、すぐにマディスン公爵の居る場所に向かう。案内してくれ」
兄上は本当に何を考えているのだろうか?王家を潰すつもりなのか?とにかく、マディスン公爵に会わないと。そんな思いで、急いで公爵の元へと向かったのだった。
1,978
あなたにおすすめの小説
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
ワガママを繰り返してきた次女は
柚木ゆず
恋愛
姉のヌイグルミの方が可愛いから欲しい、姉の誕生日プレゼントの方がいいから交換して、姉の婚約者を好きになったから代わりに婚約させて欲しい。ロートスアール子爵家の次女アネッサは、幼い頃からワガママを口にしてきました。
そんなアネッサを両親は毎回注意してきましたが聞く耳を持つことはなく、ついにアネッサは自分勝手に我慢の限界を迎えてしまいます。
『わたくしは酷く傷つきました! しばらく何もしたくないから療養をさせてもらいますわ! 認められないならこのお屋敷を出ていきますわよ!!』
その結果そんなことを言い出してしまい、この発言によってアネッサの日常は大きく変化してゆくこととなるのでした。
※現在体調不良による影響で(すべてにしっかりとお返事をさせていただく余裕がないため)、最新のお話以外の感想欄を閉じさせていただいております。
※11月23日、本編完結。後日、本編では描き切れなかったエピソードを番外編として投稿させていただく予定でございます。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?
柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」
「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」
新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。
わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。
こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。
イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。
ですが――。
やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。
「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」
わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。
…………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。
なにか、裏がありますね。
お姉様、今度は貴方の恋人をもらいますわ。何でも奪っていく妹はそう言っていますが、その方は私の恋人ではありませんよ?
柚木ゆず
恋愛
「すでに気付いているんですのよ。わたくしやお父様やお母様に隠れて、交際を行っていることに」
「ダーファルズ伯爵家のエドモン様は、雄々しく素敵な御方。お顔も財力も最上級な方で、興味を持ちましたの。好きに、なってしまいましたの」
私のものを何でも欲しがる、妹のニネット。今度は物ではなく人を欲しがり始め、エドモン様をもらうと言い出しました。
確かに私は、家族に隠れて交際を行っているのですが――。その方は、私にしつこく言い寄ってきていた人。恋人はエドモン様ではなく、エズラル侯爵家のフレデリク様なのです。
どうやらニネットは大きな勘違いをしているらしく、自身を溺愛するお父様とお母様の力を借りて、そんなエドモン様にアプローチをしてゆくみたいです。
10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。
けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。
悪夢はそれで終わらなかった。
ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。
嵌められてしまった。
その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。
裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。
※他サイト様でも公開中です。
2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。
本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる