私を陥れる様な婚約者はいりません!彼と幸せになりますから邪魔しないで下さい

Karamimi

文字の大きさ
26 / 57

第26話:束の間の安らぎ

しおりを挟む
「婚約者?君は一体何を言っているのだい?俺には婚約者なんていないよ」

「えっ?でも、ブラッド様はもう15歳だし。それにとても魅力的なのに…」

 あり得ないわ、こんなにも素敵なのに、どうしてまだ婚約者がいないのかしら。それに彼は、侯爵令息だ。もう婚約者がいても、おかしくはないのに。

「アントアーネから見て、俺は魅力的かい?それは嬉しいな。もしかして俺のいもしない婚約者に、遠慮したのかい?本当にアントアーネは可愛いな」

 そう言って笑ったブラッド様。本当に婚約者がいないのかしら?もしかして私が遠慮しない様に、気を使っているのかしら?

「熱もしっかり下がったね。良かった。汗をかいているみたいだから、着替えた方がいい。それにシーツも取り替えてもらおう。食事も食べないとね。この3日間、水以外口にしていないだろう。

 すぐに食べやすいものを準備してもらおう」

 ベッドから抜け出したブラッド様が、テキパキと使用人に指示を出していく。さらに

「はい、アントアーネ、口を開けて」

「子供ではありませんから、1人で食べられますわ」

 なぜか食事を私に食べさせ始めたのだ。

「夫人の話では、最近食欲もなく、ほとんど何も食べていなかったと聞いたよ。ただでさえ今君の体は弱っているのだから、しっかり食べないとね」

 そう言って食べさせてくれるのだ。さらに夜も

「また怖い夢を見ると大変だから、俺が寝るまで傍にいるよ。こうやって手を繋いでいれば、怖くないだろう」

「私は子供ではないのです。手を握ってもらわなくても、1人で寝られますわ」

 ぷっくりと頬を膨らませ、ブラッド様に訴えた。そんな私を見て、ブラッド様が笑った。

「はいはい、分かっているよ。でも、俺が心配ないんだよ。この3日間、君は何度も涙を流しながらうなされていたからね。それに俺がこうやって手を握ったり抱きしめると、どうやら落ち着くみたいだし」

「わ…私は別に、あなたに抱きしめられて落ち着く訳では…」

「はいはい、さあ、寝ようね」

 ガバリとベッドから起き上がった私を、再び寝かしつけるブラッド様。完全に子ども扱いだ。でも、なぜだろう。彼の手を握っていると、確かに落ち着くし安心する。それになんだか、心も穏やかだ。

 こんな風に穏やかな気持ちになるのは、いつぶりだろう。

 そっと目を閉じる。手から温もりがしっかり伝わってくる。

「ねえ、ブラッド様。覚えていますか。昔もこうやって手を繋いで一緒に寝ましたね」

「そうだったね、確か森にピクニックに行った時、君が勝手に森の中に入っていくから迷子になっちゃって。大きな毒蛇に襲われそうになったのだったね。幸いすぐに護衛が来てくれて助かったけれど」

「ええ、そうでしたわね。ブラッド様も蛇が苦手なのに、私を庇おうとして…恐怖で寝るのが怖いと泣く私の手を握って、ブラッド様が一緒に寝てくれたのでしたね。あなたのお陰であの日、悪夢を見ずに済みましたわ」

「それは俺も同じだよ。君の温もりを感じられたから、怖い夢を見ずに済んだんだ。ただ、未だに蛇は苦手だけれどね」

「私もですわ。イラストを見るのも無理ですわ」



 そう言って2人で笑った。

「さあ、もう寝よう」

「ええ、おやすみなさい」

 ゆっくり瞼を閉じる。手から伝わる温もり…この温もりがあれば、きっとあの悪夢は見ないだろう。正直最近、眠るのが怖かった。でも今は、何も怖くない。

 きっとブラッド様のお陰だろう。

 その日は悪夢を見ることなく、穏やかな気持ちで眠りについた。

 翌日
「アントアーネ、今日は天気がいいから一緒にお茶をしよう」

 体調が回復した私を、お茶に誘ってくれたブラッド様。早速2人でお茶を楽しむ。

「アントアーネはこのお菓子が好きだったよね。たくさん食べて」

「ありがとうございます、ブラッド様は、こちらのお菓子でしたよね」

「俺の好きなお菓子を、覚えていてくれたのかい?嬉しいな」

 そう言ってお菓子を頬張るブラッド様。その姿が、なんだか愛おしい。こんな時間が、ずっと続いてくれたら…

 ついそんな事を考えてしまう。

 でも彼は、リューズ王国の侯爵令息だ。近々リューズ王国に帰ってしまうだろう。そう考えると、胸がチクリと痛んだ。

 分かっている、この幸せな時間は、ずっと続く事はない。それでも今は、この幸せな時間を噛みしめたい。

 この楽しい時間があれば、きっと私は生きていけるはずだ。

 だからせめて今だけは、この幸せな時間を噛みしめていたい。今だけは、嫌な事を忘れて、楽しみたい。

 そう願いながら、ブラッド様との時間を楽しんだのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

婚約破棄した王子が見初めた男爵令嬢に王妃教育をさせる様です

Mr.後困る
恋愛
婚約破棄したハワード王子は新しく見初めたメイ男爵令嬢に 王妃教育を施す様に自らの母に頼むのだが・・・

婚約解消したはずなのに、元婚約者が嫉妬心剥き出しで怖いのですが……

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のフローラと侯爵令息のカルロス。二人は恋愛感情から婚約をしたのだったが……。 カルロスは隣国の侯爵令嬢と婚約をするとのことで、フローラに別れて欲しいと告げる。 国益を考えれば確かに頷ける行為だ。フローラはカルロスとの婚約解消を受け入れることにした。 さて、悲しみのフローラは幼馴染のグラン伯爵令息と婚約を考える仲になっていくのだが……。 なぜかカルロスの妨害が入るのだった……えっ、どういうこと? フローラとグランは全く意味が分からず対処する羽目になってしまう。 「お願いだから、邪魔しないでもらえませんか?」

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

未来予知できる王太子妃は断罪返しを開始します

もるだ
恋愛
未来で起こる出来事が分かるクラーラは、王宮で開催されるパーティーの会場で大好きな婚約者──ルーカス王太子殿下から謀反を企てたと断罪される。王太子妃を狙うマリアに嵌められたと予知したクラーラは、断罪返しを開始する!

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

処理中です...