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第25話:それでも私は貴族令嬢だから
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ブラッド様の温もりを感じた瞬間、不安だった気持ちや苦しみが少しずつ癒える様な、そんな気持ちになった。
この気持ちは一体何だろう。ただ、ひとつ言えることは、この温もりが私に安らぎを与えてくれるという事だ。
「ブラッド様、しばらく会わない間に、すっかり大人になってしまわれたのですね。昔は弟みたいだったのに」
お母様が異国出身という事で、リューズ王国で随分と辛い思いをしていたブラッド様。そんな彼が、こんなに立派になるだなんて…て、なんだか私、お母様みたいね。
「アントアーネ、もう俺は、君に守られてばかりの頼りない男ではないよ。君があの時与えてくれた友人たちに支えられて、今は立派な侯爵令息をしているよ。武術も極めていて、今でもアントニオ殿に負けないほど強くなったよ」
「まあ、あの時仲良くなった方たちと、今も仲良しなのですね。ブラッド様、ひとつ訂正させてください。私が与えた友人達ではありませんわ。あなた様が築き上げた友人達でしょう。
どうかご友人たちを、大切にしてくださいね。私の様に…いいえ、何でもありませんわ」
私にもかつて、友人たちがいた。そんな彼女たちも、ラドル様の嘘をすっかり信じ切ってしまい、私から離れて行ってしまったのだ…
「アントアーネ、そんなに悲しそうな顔をしないで。そうそう、アントアーネ、覚えているかい?君がリューズ王国で仲良くなった令嬢たち。今でも君に会いたがっているよ。ねえ、アントアーネ。リューズ王国においで。
こんな国にいても、辛いだけだよ。リューズ王国には、君を大切に思ってくれる友人たちが沢山いる。母上だっている。誰も君を傷つけたりはない。だからどうか、リューズ王国に来てほしい」
私を真っすぐ見つめるブラッド様。
「ありがとうございます。ですが私は、この国の貴族で、学生の身です。ですから…」
「分かっているよ、この国の貴族は、貴族学院を卒業する義務があるという事を。だから卒業したら、リューズ王国にこればいい。君が不自由しない様に、住む場所もしっかり準備をするから。もう君が傷つく姿を、見たくないのだよ」
「ブラッド様…」
悲しそうな顔のブラッド様の瞳が、私の胸を突き刺す。ブラッド様は昔から優しかった。私が怪我をしたときも、一番に飛んできて手当てをしてくれた。虫を怖がる私を見て、自分も虫が苦手なのに、必死に追い払おうとしてくれた事もあった。
幼い頃、ずっと私がブラッド様を守っていた気になっていたけれど、今になって思うと、実は私の方が、ブラッド様に守られていたのかもしれない…
彼は本当に優しい人だ。きっと私が傷つき苦しんでいる事を知って、飛んできてくれたのだろう。もしかしたら、私が以前ブラッド様を助けた事を、今でも気にしているのかもしれない。
「ありがとうございます、ブラッド様。ですが私は平気ですわ。私はサルビア王国の伯爵令嬢なのです。貴族たるもの、どんなに辛くてもどんと構えていないと。それに私は何も悪い事をしていません。
だからこそ、逃げ出したくはないのです。それに、私がリューズ王国に行ったらきっと、あなたにも迷惑がかかるわ。だから…」
「どうして君がリューズ王国に来たら、俺に迷惑がかかるのだい?アントアーネ、君が貴族として誇りを持っている事は分かった。でも、こんなにも酷い扱いをされているのだよ。それなのに、どうして?それに一度は、リューズ王国に来ることを了承してくれていたではないか」
一度は了承した?
ああ、熱を出して倒れた時か。確かにあの時は弱気になって、ついリューズ王国に行きたいと言ってしまった。
でも…
そっとブラッド様を見つめた。改めて見ると、彼はとてもカッコいい。それにもう15歳だ。きっと婚約者がいるだろう。もし私がリューズ王国に行ったらきっと、彼は私に気を使い、私の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれるだろう。
そうなったら、彼の婚約者はどうなるのだろう。きっと傷つき、悲しむだろう。私は誰かを傷つけたくはない。
そっとブラッド様から離れた。
「あの時は、熱で少し弱気になっていただけですわ。私、これでもとても強いのですよ。あいつらになんと言われようと、平気です。ブラッド様、どうかリューズ王国にお帰り下さい。きっとあなたの婚約者も、あなたの帰りを待っておりますわ」
私を心配してくれるのは嬉しい。でも、これ以上迷惑はかけたくはないのだ。
この気持ちは一体何だろう。ただ、ひとつ言えることは、この温もりが私に安らぎを与えてくれるという事だ。
「ブラッド様、しばらく会わない間に、すっかり大人になってしまわれたのですね。昔は弟みたいだったのに」
お母様が異国出身という事で、リューズ王国で随分と辛い思いをしていたブラッド様。そんな彼が、こんなに立派になるだなんて…て、なんだか私、お母様みたいね。
「アントアーネ、もう俺は、君に守られてばかりの頼りない男ではないよ。君があの時与えてくれた友人たちに支えられて、今は立派な侯爵令息をしているよ。武術も極めていて、今でもアントニオ殿に負けないほど強くなったよ」
「まあ、あの時仲良くなった方たちと、今も仲良しなのですね。ブラッド様、ひとつ訂正させてください。私が与えた友人達ではありませんわ。あなた様が築き上げた友人達でしょう。
どうかご友人たちを、大切にしてくださいね。私の様に…いいえ、何でもありませんわ」
私にもかつて、友人たちがいた。そんな彼女たちも、ラドル様の嘘をすっかり信じ切ってしまい、私から離れて行ってしまったのだ…
「アントアーネ、そんなに悲しそうな顔をしないで。そうそう、アントアーネ、覚えているかい?君がリューズ王国で仲良くなった令嬢たち。今でも君に会いたがっているよ。ねえ、アントアーネ。リューズ王国においで。
こんな国にいても、辛いだけだよ。リューズ王国には、君を大切に思ってくれる友人たちが沢山いる。母上だっている。誰も君を傷つけたりはない。だからどうか、リューズ王国に来てほしい」
私を真っすぐ見つめるブラッド様。
「ありがとうございます。ですが私は、この国の貴族で、学生の身です。ですから…」
「分かっているよ、この国の貴族は、貴族学院を卒業する義務があるという事を。だから卒業したら、リューズ王国にこればいい。君が不自由しない様に、住む場所もしっかり準備をするから。もう君が傷つく姿を、見たくないのだよ」
「ブラッド様…」
悲しそうな顔のブラッド様の瞳が、私の胸を突き刺す。ブラッド様は昔から優しかった。私が怪我をしたときも、一番に飛んできて手当てをしてくれた。虫を怖がる私を見て、自分も虫が苦手なのに、必死に追い払おうとしてくれた事もあった。
幼い頃、ずっと私がブラッド様を守っていた気になっていたけれど、今になって思うと、実は私の方が、ブラッド様に守られていたのかもしれない…
彼は本当に優しい人だ。きっと私が傷つき苦しんでいる事を知って、飛んできてくれたのだろう。もしかしたら、私が以前ブラッド様を助けた事を、今でも気にしているのかもしれない。
「ありがとうございます、ブラッド様。ですが私は平気ですわ。私はサルビア王国の伯爵令嬢なのです。貴族たるもの、どんなに辛くてもどんと構えていないと。それに私は何も悪い事をしていません。
だからこそ、逃げ出したくはないのです。それに、私がリューズ王国に行ったらきっと、あなたにも迷惑がかかるわ。だから…」
「どうして君がリューズ王国に来たら、俺に迷惑がかかるのだい?アントアーネ、君が貴族として誇りを持っている事は分かった。でも、こんなにも酷い扱いをされているのだよ。それなのに、どうして?それに一度は、リューズ王国に来ることを了承してくれていたではないか」
一度は了承した?
ああ、熱を出して倒れた時か。確かにあの時は弱気になって、ついリューズ王国に行きたいと言ってしまった。
でも…
そっとブラッド様を見つめた。改めて見ると、彼はとてもカッコいい。それにもう15歳だ。きっと婚約者がいるだろう。もし私がリューズ王国に行ったらきっと、彼は私に気を使い、私の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれるだろう。
そうなったら、彼の婚約者はどうなるのだろう。きっと傷つき、悲しむだろう。私は誰かを傷つけたくはない。
そっとブラッド様から離れた。
「あの時は、熱で少し弱気になっていただけですわ。私、これでもとても強いのですよ。あいつらになんと言われようと、平気です。ブラッド様、どうかリューズ王国にお帰り下さい。きっとあなたの婚約者も、あなたの帰りを待っておりますわ」
私を心配してくれるのは嬉しい。でも、これ以上迷惑はかけたくはないのだ。
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