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第16話:この気持ちは一体…
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「ジャンヌ、また怪我をして。捻挫がなおるまでは、稽古は禁止だ。いいな、分かったな」
「ちょっと、近いわよ。この程度の傷、どうってことないわ。しっかり固定してもらっているし。それにやっと竹刀を握れる様になったのに、また休めだなんて嫌よ」
「無理をして万が一悪化したらどうするつもりだ!本当にジャンヌは、いつからそんな無理をするような人間になったんだ」
「あら、昔からよ。でも昔は、こんなに頻繁に怪我をしなかったわね。この4年で私の体は、随分と軟になってしまったみたい。もっと鍛えないと」
「いい加減にしろ!とにかく稽古は禁止…」
「禁止禁止って。お医者様は、無理をしなければ稽古に参加してもいいとおっしゃっていたのよ。それに、私が稽古を休んだら、きっと副隊長も気にするわ。お願い、グラディオン。稽古に参加させて。絶対に無理はしないから」
必死に頭を下げてお願いした。
「分かったよ…でも、絶対に無理はするなよ」
「ありがとう。グラディオン隊長」
「やめろ、お前に隊長と言われると、変な感じがする」
私が急に隊長と呼んだものだから、顔を赤くしているわ。グラディオンって、可愛いところもあるのね。
「さあ、そろそろ練習に戻るぞ。いいか、くれぐれも無理をするなよ」
「分かっているわよ」
2人で稽古場に戻り、再び稽古を再開させる。足をしっかり固定してもらっているお陰か、痛みも感じない。医務室に行ってよかったわ。それにしても本当にグラディオンは、よく周りを見ているのね。
ふとグラディオンの方を見ると、バッチリ目があった。もう、どうしてまた私を見ているのかしら?そんなに私が勝手な事をしないか心配なのかしら。
よく考えてみれば、グラディオンは昔からそうだった。いつも私の事を心配して…私が意地悪な先輩を叩きのめすときも、いつも心配そうに見つめていたな…たまに怪我をすると飛んできてくれて。時に私を庇ってくれた事もあった。
懐かしいわ。あの頃と何も変わっていないのね。私の楽しかった日々には、いつもグラディオンがいた。そして今も…
何だろう、グラディオンの事を考えると、胸の奥が熱いもので包まれる様な、そんな不思議な気持ちになるのは…今までこんな気持ちになった事なんてなかったのに…
「ジャンヌ、何をボーっとしているのだ。そんなんじゃあまた、怪我をするぞ。練習に集中しろ」
すかさずグラディオンに怒られてしまった。本当によく見ているわね。
「ごめんなさい、気を付けるわ」
今はとにかく、練習に集中しないと。
足の治療を受けたおかげで、無事全ての稽古をこなすことが出来た。
練習後、竹刀を握れる様になったし、1人で自主練をするため、稽古場に残っていると
「ジャンヌ、今日からまた自主練か?お前は足を怪我しているのだから、今日はもう帰れ。無理は良くないと、医者にも言われているだろう?」
やって来たのは、グラディオンだ。
「あら、少しくらいなら大丈夫よ。そうだ、グラディオン、私の相手をしてくれない?」
「はぁ~、ジャンヌは本当に…分かったよ、少しだけだぞ。これが終わったら、俺が家まで送ってやるから、すぐに帰れ」
「別に送ってもらわなくてもいいわ。あなた、またお父様とディーノに怪我の事を言うつもりでしょう」
「なんだよ、その目は。大体お前が怪我をするからだろう。ほら、相手になってやるから、かかってこい」
竹刀を握ったグラディオンが、こちらを向いている。それではお言葉に甘えて!
思いっきり竹刀を振りあげ、グラディオンに向かって振り下ろした。ただ、予想通りあっさり受け止められる。その後も必死に攻撃を仕掛けるが、ことごとく受け止められるのだ。
悔しいけれど、明らかに余裕があるグラディオン。
「ジャンヌ、もっと脇をしめろ。それから、大きく振りかぶりすぎて隙が出来ている。もっと素早く動くんだ」
「分かっているわよ」
そんな事、言われなくても分かっている。でも、グラディオンの動きが早すぎて、全く付いていけないのだ。これが隊長の実力なのだろう。
すると何を思ったのか、グラディオンが竹刀を置いて、私を後ろから抱きしめる様な形で、竹刀を握っている私の手を握ったのだ。
近い…近いわ…それに手を握られているし…
「ちょっと、グラディオン。一体何のつもりよ」
「いいか、ジャンヌ。こうやって動くんだ」
グラディオンがものすごい速さで竹刀を動かしていく。きっと体を使って教えてくれているのだろう。ただ、あまりにも至近距離すぎて、それどころではない。一気に心臓の音がうるさくなるのを感じる。
「分かったか?て、お前、顔が赤いぞ。それに動きも鈍いし。今日はこれくらいにしておいて、もう帰ろう」
すっと私からグラディオンが離れた。
「そ…そうね。そうしましょう」
ダメだ、心臓の音がうるさすぎて、稽古どころではない。私ったら、本当にどうしてしまったのかしら?
「ほら、行くぞ」
何を思ったのか、グラディオンが私の手を握って歩き出したのだ。ちょっと、どうして私の手を握るのよ。
いつの間にか大きくなったグラディオンの手、ゴツゴツしていて固いけれど、それでも何だか安心する…て、私は一体何を考えているのかしら?
本当に私、どうしてしまったのだろう…
※次回、グラディオン視点です。
よろしくお願いします。
「ちょっと、近いわよ。この程度の傷、どうってことないわ。しっかり固定してもらっているし。それにやっと竹刀を握れる様になったのに、また休めだなんて嫌よ」
「無理をして万が一悪化したらどうするつもりだ!本当にジャンヌは、いつからそんな無理をするような人間になったんだ」
「あら、昔からよ。でも昔は、こんなに頻繁に怪我をしなかったわね。この4年で私の体は、随分と軟になってしまったみたい。もっと鍛えないと」
「いい加減にしろ!とにかく稽古は禁止…」
「禁止禁止って。お医者様は、無理をしなければ稽古に参加してもいいとおっしゃっていたのよ。それに、私が稽古を休んだら、きっと副隊長も気にするわ。お願い、グラディオン。稽古に参加させて。絶対に無理はしないから」
必死に頭を下げてお願いした。
「分かったよ…でも、絶対に無理はするなよ」
「ありがとう。グラディオン隊長」
「やめろ、お前に隊長と言われると、変な感じがする」
私が急に隊長と呼んだものだから、顔を赤くしているわ。グラディオンって、可愛いところもあるのね。
「さあ、そろそろ練習に戻るぞ。いいか、くれぐれも無理をするなよ」
「分かっているわよ」
2人で稽古場に戻り、再び稽古を再開させる。足をしっかり固定してもらっているお陰か、痛みも感じない。医務室に行ってよかったわ。それにしても本当にグラディオンは、よく周りを見ているのね。
ふとグラディオンの方を見ると、バッチリ目があった。もう、どうしてまた私を見ているのかしら?そんなに私が勝手な事をしないか心配なのかしら。
よく考えてみれば、グラディオンは昔からそうだった。いつも私の事を心配して…私が意地悪な先輩を叩きのめすときも、いつも心配そうに見つめていたな…たまに怪我をすると飛んできてくれて。時に私を庇ってくれた事もあった。
懐かしいわ。あの頃と何も変わっていないのね。私の楽しかった日々には、いつもグラディオンがいた。そして今も…
何だろう、グラディオンの事を考えると、胸の奥が熱いもので包まれる様な、そんな不思議な気持ちになるのは…今までこんな気持ちになった事なんてなかったのに…
「ジャンヌ、何をボーっとしているのだ。そんなんじゃあまた、怪我をするぞ。練習に集中しろ」
すかさずグラディオンに怒られてしまった。本当によく見ているわね。
「ごめんなさい、気を付けるわ」
今はとにかく、練習に集中しないと。
足の治療を受けたおかげで、無事全ての稽古をこなすことが出来た。
練習後、竹刀を握れる様になったし、1人で自主練をするため、稽古場に残っていると
「ジャンヌ、今日からまた自主練か?お前は足を怪我しているのだから、今日はもう帰れ。無理は良くないと、医者にも言われているだろう?」
やって来たのは、グラディオンだ。
「あら、少しくらいなら大丈夫よ。そうだ、グラディオン、私の相手をしてくれない?」
「はぁ~、ジャンヌは本当に…分かったよ、少しだけだぞ。これが終わったら、俺が家まで送ってやるから、すぐに帰れ」
「別に送ってもらわなくてもいいわ。あなた、またお父様とディーノに怪我の事を言うつもりでしょう」
「なんだよ、その目は。大体お前が怪我をするからだろう。ほら、相手になってやるから、かかってこい」
竹刀を握ったグラディオンが、こちらを向いている。それではお言葉に甘えて!
思いっきり竹刀を振りあげ、グラディオンに向かって振り下ろした。ただ、予想通りあっさり受け止められる。その後も必死に攻撃を仕掛けるが、ことごとく受け止められるのだ。
悔しいけれど、明らかに余裕があるグラディオン。
「ジャンヌ、もっと脇をしめろ。それから、大きく振りかぶりすぎて隙が出来ている。もっと素早く動くんだ」
「分かっているわよ」
そんな事、言われなくても分かっている。でも、グラディオンの動きが早すぎて、全く付いていけないのだ。これが隊長の実力なのだろう。
すると何を思ったのか、グラディオンが竹刀を置いて、私を後ろから抱きしめる様な形で、竹刀を握っている私の手を握ったのだ。
近い…近いわ…それに手を握られているし…
「ちょっと、グラディオン。一体何のつもりよ」
「いいか、ジャンヌ。こうやって動くんだ」
グラディオンがものすごい速さで竹刀を動かしていく。きっと体を使って教えてくれているのだろう。ただ、あまりにも至近距離すぎて、それどころではない。一気に心臓の音がうるさくなるのを感じる。
「分かったか?て、お前、顔が赤いぞ。それに動きも鈍いし。今日はこれくらいにしておいて、もう帰ろう」
すっと私からグラディオンが離れた。
「そ…そうね。そうしましょう」
ダメだ、心臓の音がうるさすぎて、稽古どころではない。私ったら、本当にどうしてしまったのかしら?
「ほら、行くぞ」
何を思ったのか、グラディオンが私の手を握って歩き出したのだ。ちょっと、どうして私の手を握るのよ。
いつの間にか大きくなったグラディオンの手、ゴツゴツしていて固いけれど、それでも何だか安心する…て、私は一体何を考えているのかしら?
本当に私、どうしてしまったのだろう…
※次回、グラディオン視点です。
よろしくお願いします。
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