25 / 53
第25話:好き勝手言って
しおりを挟む
2人並んでベンチに座った。もちろん、少し距離を置いてだ。
「ジャンヌ、まずは謝罪させてくれ。あの写真の件だが、令嬢たちに無理やりされたものだったのだよ。決して僕が望んでした訳ではない。それから、君に冷たくしていたのも、その…僕の嫉妬心からだったんだ。騎士団時代、君はずっと男たちと楽しそうに過ごしていただろう。僕はずっと寂しくて、それで君にも、僕の気持ちを少しでも分かって欲しくて…」
「それで私に冷たくしていたのですか?申し訳ございませんが、全く理解できません。ですが、過ぎた事ですので、もう結構ですわ」
騎士団時代に私が男性と話をしていた事と、シャーロン様と婚約してからシャーロン様が不貞を働いた事が、どう繋がるのか全く理解できない。
「ジャンヌ、僕は初めて君に会った時から、ずっと君に事が好きだったんだ。僕の愛情表現は少し間違っていたかもしれない。ジャンヌに嫉妬して欲しくて、わざと令嬢たちと仲良くしたりした事とか…よくなかったなって思っている。ただ、これだけは信じて欲しい。あの頃からずっと、君を心から愛している。もちろん、今もだ。だからどうか、僕にやり直すチャンスが欲しい。これからはジャンヌの傍にずっといるし、令嬢たちにも近づかない。だから、お願いします」
すっと立ち上がり、私に頭を下げるシャーロン様。
「申し訳ございませんが、私はシャーロン様を愛しておりません。それに私は今、既に前を向いて歩き始めております。私、騎士団に戻ったのです。騎士団に戻って、改めて私の居場所はここなのだと実感しました。きっと私たちは、ご縁がなかったのですわ。シャーロン様は非常におモテになるのですもの。きっと私以上に素敵な令嬢が現れるはずです。ですので、これからは別々の未来を歩んでいきましょう」
シャーロン様との婚約期間は、私にとって辛いものだった。自分を見失い、常に不安で、私が私ではないみたいだった。でもやっと私は、自分らしさを取り戻したのだ。
もう過去を振り返りたくはない。前を向いて歩いていきたいのだ。シャーロン様にも、私の事を忘れて、前を向いて歩いて行って欲しい。
「…どうしてそんな酷い事を言うの?僕は君をこんなに愛しているのに。ジャンヌを諦める事なんて出来ない。ねえ、知ってる?ジャンヌの無実を証明し、汚名を返上するために僕がどれだけ頑張ったか…君は恩を仇で返すつもりかい?そんな薄情な人間だったのかい?」
「恩を仇で返すだなんて…確かにあの時の件は、今でも感謝しておりますわ。でも、それとこれとは話は別です。そもそも、シャーロン様が不貞を働いたことが原因で、婚約破棄をする事になったのでしょう?」
「僕は不貞を働いたつもりはないよ。ジャンヌは恩人を見捨てたりしないよね…」
シャーロン様が不適な笑みを浮かべ、ゆっくりこちらに近づいて来た。その瞬間、背筋がゾクッとしたのだ。
何なの…この人のこのオーラは…
全身から血の気が引き、その場を動く事が出来ない。
「いや…来ないで…」
怖い!助けて…誰か…
その時だった。
「ジャンヌ、シャーロンも。こんなところで何をしているのだい?」
この声は。
「グラディオン!」
無意識にグラディオンに飛びついた。グラディオンの温もりを感じた瞬間、体中から力が抜けそうになるのを必死に耐える。
「どうしたんだ?ジャンヌ。大丈夫か?」
「ええ、私は大丈夫よ…」
「グラディオン、どうして君がここにいるのだい?君は一切夜会には参加しないのではないのかい?ジャンヌ、グラディオンから離れるんだ」
何を思ったのか、私の腕を掴み、グラディオンから引き離そうとするシャーロン様。この人、一体何なの?
「止めろ、シャーロン。ジャンヌが嫌がっているだろう。俺だって侯爵家の嫡男なのだから、夜会くらいは出るよ」
「グラディオン、言っておくが僕とジャンヌはちょっとした手違いで婚約破棄をしてしまったが、すぐに結び直す予定でいる。だから、気安くジャンヌに近づかないでくれ。ジャンヌも他の男に抱き着くだなんて、一体どういう…」
「いい加減にしてくださいませ。何度も申し上げているでしょう。私はあなたとはもう婚約を結び直しません。そもそも、あなたの不貞で婚約破棄をしたのでしょう?私は、他の令嬢にうつつを抜かす様な殿方は嫌いなのです」
本当に何度言ったらわかるのかしら?この人…
「だからあれは誤解なんだよ。グラディオン、今ジャンヌと大切な話をしているのだよ。悪いが席を外してくれるかい?」
何が大切な話よ。もうあなたとの話は終わったわ。そう言おうとした時だった。
「ジャンヌはもう話が終わっているという顔をしているぞ。シャーロン、ジャンヌはもうシャーロンには興味がないと言っている。男らしく諦めろ。あまりしつこく付きまとう様なら、容赦しないぞ。それとも俺と剣で勝負するか?」
グラディオンがニヤリと笑った。剣の腕は騎士団でも一目置かれているグラディオンに、シャーロン様が勝てる訳がない。本人もその事を自覚しているのか
「今日のところはこのまま引き下がるよ。でも、僕は絶対にジャンヌを諦めないからね」
そう叫んで、シャーロン様が急ぎ足で去って行ったのだった。
「ジャンヌ、まずは謝罪させてくれ。あの写真の件だが、令嬢たちに無理やりされたものだったのだよ。決して僕が望んでした訳ではない。それから、君に冷たくしていたのも、その…僕の嫉妬心からだったんだ。騎士団時代、君はずっと男たちと楽しそうに過ごしていただろう。僕はずっと寂しくて、それで君にも、僕の気持ちを少しでも分かって欲しくて…」
「それで私に冷たくしていたのですか?申し訳ございませんが、全く理解できません。ですが、過ぎた事ですので、もう結構ですわ」
騎士団時代に私が男性と話をしていた事と、シャーロン様と婚約してからシャーロン様が不貞を働いた事が、どう繋がるのか全く理解できない。
「ジャンヌ、僕は初めて君に会った時から、ずっと君に事が好きだったんだ。僕の愛情表現は少し間違っていたかもしれない。ジャンヌに嫉妬して欲しくて、わざと令嬢たちと仲良くしたりした事とか…よくなかったなって思っている。ただ、これだけは信じて欲しい。あの頃からずっと、君を心から愛している。もちろん、今もだ。だからどうか、僕にやり直すチャンスが欲しい。これからはジャンヌの傍にずっといるし、令嬢たちにも近づかない。だから、お願いします」
すっと立ち上がり、私に頭を下げるシャーロン様。
「申し訳ございませんが、私はシャーロン様を愛しておりません。それに私は今、既に前を向いて歩き始めております。私、騎士団に戻ったのです。騎士団に戻って、改めて私の居場所はここなのだと実感しました。きっと私たちは、ご縁がなかったのですわ。シャーロン様は非常におモテになるのですもの。きっと私以上に素敵な令嬢が現れるはずです。ですので、これからは別々の未来を歩んでいきましょう」
シャーロン様との婚約期間は、私にとって辛いものだった。自分を見失い、常に不安で、私が私ではないみたいだった。でもやっと私は、自分らしさを取り戻したのだ。
もう過去を振り返りたくはない。前を向いて歩いていきたいのだ。シャーロン様にも、私の事を忘れて、前を向いて歩いて行って欲しい。
「…どうしてそんな酷い事を言うの?僕は君をこんなに愛しているのに。ジャンヌを諦める事なんて出来ない。ねえ、知ってる?ジャンヌの無実を証明し、汚名を返上するために僕がどれだけ頑張ったか…君は恩を仇で返すつもりかい?そんな薄情な人間だったのかい?」
「恩を仇で返すだなんて…確かにあの時の件は、今でも感謝しておりますわ。でも、それとこれとは話は別です。そもそも、シャーロン様が不貞を働いたことが原因で、婚約破棄をする事になったのでしょう?」
「僕は不貞を働いたつもりはないよ。ジャンヌは恩人を見捨てたりしないよね…」
シャーロン様が不適な笑みを浮かべ、ゆっくりこちらに近づいて来た。その瞬間、背筋がゾクッとしたのだ。
何なの…この人のこのオーラは…
全身から血の気が引き、その場を動く事が出来ない。
「いや…来ないで…」
怖い!助けて…誰か…
その時だった。
「ジャンヌ、シャーロンも。こんなところで何をしているのだい?」
この声は。
「グラディオン!」
無意識にグラディオンに飛びついた。グラディオンの温もりを感じた瞬間、体中から力が抜けそうになるのを必死に耐える。
「どうしたんだ?ジャンヌ。大丈夫か?」
「ええ、私は大丈夫よ…」
「グラディオン、どうして君がここにいるのだい?君は一切夜会には参加しないのではないのかい?ジャンヌ、グラディオンから離れるんだ」
何を思ったのか、私の腕を掴み、グラディオンから引き離そうとするシャーロン様。この人、一体何なの?
「止めろ、シャーロン。ジャンヌが嫌がっているだろう。俺だって侯爵家の嫡男なのだから、夜会くらいは出るよ」
「グラディオン、言っておくが僕とジャンヌはちょっとした手違いで婚約破棄をしてしまったが、すぐに結び直す予定でいる。だから、気安くジャンヌに近づかないでくれ。ジャンヌも他の男に抱き着くだなんて、一体どういう…」
「いい加減にしてくださいませ。何度も申し上げているでしょう。私はあなたとはもう婚約を結び直しません。そもそも、あなたの不貞で婚約破棄をしたのでしょう?私は、他の令嬢にうつつを抜かす様な殿方は嫌いなのです」
本当に何度言ったらわかるのかしら?この人…
「だからあれは誤解なんだよ。グラディオン、今ジャンヌと大切な話をしているのだよ。悪いが席を外してくれるかい?」
何が大切な話よ。もうあなたとの話は終わったわ。そう言おうとした時だった。
「ジャンヌはもう話が終わっているという顔をしているぞ。シャーロン、ジャンヌはもうシャーロンには興味がないと言っている。男らしく諦めろ。あまりしつこく付きまとう様なら、容赦しないぞ。それとも俺と剣で勝負するか?」
グラディオンがニヤリと笑った。剣の腕は騎士団でも一目置かれているグラディオンに、シャーロン様が勝てる訳がない。本人もその事を自覚しているのか
「今日のところはこのまま引き下がるよ。でも、僕は絶対にジャンヌを諦めないからね」
そう叫んで、シャーロン様が急ぎ足で去って行ったのだった。
133
あなたにおすすめの小説
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
殿下、毒殺はお断りいたします
石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。
彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。
容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。
彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。
「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる