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28 リンのマネージャー ~瀬川修目線
しおりを挟む~瀬川修目線
渋谷のど真ん中にある喫茶店の窓際の席で、コーヒーを飲みながら通りすぎる人間たちを物色するのが俺の日課だ。
俺はどこかにいいカモはいないかと、いつでも目を光らせている。
カモになる人間はかどうかは、一目で判断出来る。
これは駄目、あれはイケる。
イケると判断すれば、後は上手く言葉を転がして懐に入り込み、懐柔し、金を引っ張る。
俺は詐欺師だ。
沢山の名前を使い分け、年齢を偽り、架空の人物に成り済まして生きている。
43、いや44歳か? もう、本当の自分がどういう人間だったかも忘れてしまった。
さぁ、次はどんなカモが見つかる?
芸能界に目を付けた。
あの世界は金が溢れている。
世間知らずの芸能人をたらしこんで、たんまりと金をせしめよう。
瀬川修と名乗り、芸能事務所の社長に取り入った俺は、運転手から始まり三流女優の付き人を経て、あの少女に出会った。
加々美リン
目の覚めるような美少女だった。
今まで見てきたどんな美女だって、裸足で逃げ出すだろう。
この子はイケるか?
いや、少し様子を見よう。
まだ16歳の小娘だ、金の管理もきっと親がしているはず。
加々美リンのマネージャーに抜擢された俺は、じっくりと時間をかけて懐柔する事にした。
ゆっくり、ゆっくりとこの子の心に入り込み、信用させていく。
彼女の類を見ない可愛らしさと、俺の詐欺師としてのスキルをふんだんに発揮したマネージメント業が功を成し、加々美リンはたった半年でトップアイドルの仲間入りを果たした。
「リン、次の収録、大阪なんだけど新幹線にするか?それとも飛行機がいい?」
リンの好きなココアを手渡しながら俺が聞くと、彼女は宙を見て何かボソボソと独り言を言った後、
「どっちでもいいですよ?瀬川さんに任せます」
そう言ってにっこり笑った。
彼女に何かを判断させる質問をしたときに、よく見る仕草だ。
「じゃあ、新幹線にしよう。その方がスタジオまで近いしな」
「はーい。あ、ココアありがとうございます。いただきます!」
詐欺師として、沢山の人間を観察してきた俺には解る。
いつでも、誰にでも可愛らしい笑顔を振り撒いているこの子は、何か大きな闇を抱えている。
金を引っ張るには最高の相手だ。
親がいない事も判明した。
しかし、この子を騙すのは何故か良心が痛む。
18歳から三十年近くも詐欺師として生きて来た俺が、そんな事を思うのは初めてだった。
何故だろう、何故、この俺がこんな小娘相手に躊躇する?
そんなある日、俺はリンが誰かと電話をしているのを聞いた。
「ねえ、摩周、マサヤってどう思う?あたし、あの人なんか怖いんだよね。笑ってても、目が笑ってないの。・・・・・・・・・・だよね、あたしも思ってた。・・・・・・・・・・うん、分かった。摩周、ありがとう」
ましゅう?誰だ?
リンのマネージャーになって一年、リンに男が出来たことは一度もない。
言い寄って来る奴は吐いて捨てるほどいるが、リンは誰にも心を許さない。
この俺にさえ。
気になった俺はドアの隙間からそっと中を除き込んだ。
・・・・・・電話じゃない。
彼女は一人でしゃべっている。
虚ろな瞳で宙を見つめ、誰もいない空間に向かって話し続けている。
「・・・・・・・・・・摩周、ずっと一緒にいてね?あたし、摩周がいなきゃ生きていけない・・・・・・・・・・うん、手を繋いで、抱きしめていて。・・・・・・・・・・ありがとう摩周、もう大丈夫。摩周がいるから大丈夫」
ああ、この子は壊れてるのか。
心の中に、この子だけの『ましゅう』を飼っている。
この子が心を許すのは『ましゅう』だけか。
俺はずっと、この子の可愛らしい笑顔の中にチラつく憂いと悲しみに気づいていた。
その正体が知りたいと思っていた。
今はそんなものを知る必要などない。
ただ、守ってやりたいと思った。
この子と、この子の中にいる『ましゅう』を。
汚ない芸能界で、汚ない大人に揉みくちゃにされ、汚されて行くのは見たくない。
それからの俺は、ひたすらリンを守った。
舌なめずりをして、リンをモノにしようとする男たちから、リンを蹴落とそうと画策する格下アイドルから、俺のような、リンの金を狙って近づいてくる奴らから。
そうしてリンと俺が出会ってから八年が過ぎ、すっかりお互い気を許しあえる関係になった。
さすがに『ましゅう』のことは隠しているが。
「ストーカー?」
「うん、瀬川さん、あたしどうしたらいいかな?」
「すぐに社長に相談する。対策を練ろう」
ストーカー・・・・・・
誰だ?誰が、リンを苦しめている?
事務所の社長が俺との同居を勧めたが、リンは断った。
「あたしは誰とも同居なんて出来ない。瀬川さんの事は信頼してる。でも、摩周が・・・・・・」
最後はしりすぼみになったが、俺にはちゃんと聞こえた。
大丈夫、俺はお前の中の『ましゅう』の存在を知っている。
だが、無理強いは出来ない。
「分かった。だけどリン、これだけは守ってほしい。外に出るときは必ず俺が同行する。どんなに近場だろうと必ずだ。電話しろ。すぐに駆けつける。そして、自宅に誰かが訪ねて来ても、絶対にドアを開けたら駄目だ。役所だろうが、ガスの点検だろうが、絶対にだ。届け物はマンションの宅配ボックスを利用する事。分かったか?」
「うん、ありがとう瀬川さん。瀬川さんは優しいね。あたし、瀬川さんみたいなお父さんが欲しかったな」
お父さん?
・・・・・・ああ、それだ!
俺はリンの『お父さん』になりたかったんだ。
リン、大丈夫だ。
俺がリンを守ってやる。
俺はリンの父親として、これからもずっとリンを守って行く。
俺の誓いも空しく、それから半年後、リンは『CRASH』のマサヤに殺された。
ああ、リン、守ってやれなくてごめん。
俺は大事な娘を守れなかった駄目な父親だ。
リンの葬式も終わり、何もやる気の起きない俺は仕事を辞めた。
散らかったアパートで、飯も食わずにただただ酒をあおる日々。
そうして、俺も死んだ。
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