追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第7話 スキル【代償転嫁】

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リアムの手がセレスティアの手に触れた、その刹那。

まるで稲妻が身体を貫いたかのような衝撃があった。いや、違う。衝撃というよりは、むしろ奔流だ。濁流のような何かが、触れた箇所から俺の身体へと凄まじい勢いで流れ込んできた。

それは純粋な『苦痛』の情報だった。

骨が軋む幻の痛み。肉が焼けるような幻の熱。全身の神経を針で刺すような激痛の奔流。それは昨日、村の子供が負ったという怪我の痛み。そして、その代償として今までセレスティアを苛んでいた全ての苦しみだった。

常人であれば、その情報の濁流に呑まれ、一瞬で意識を失っていただろう。

だが、俺の身体の中で、奇妙な変化が起きた。流れ込んできたおぞましいはずの苦痛は、俺の体内に満ちる魔力と混ざり合うと、まるで墨汁が清水に溶けるように、その毒性を失っていく。あれほど強烈だった痛みは霧散し、熱は心地よい温かさに変わり、俺の身体の隅々へと染み渡っていった。

まるで、乾いた大地が恵みの雨を吸い込むように。俺の身体は、彼女の『呪い』を喰らい、そして浄化したのだ。

その時、脳裏に過去の記憶が鮮明にフラッシュバックした。

聖剣を使ったアレクの、僅かな生命力の揺らぎ。奇跡を起こしたイリーナの、精神を苛む頭痛。大魔法を放ったマルスの、脳を焼く魔力枯渇の負荷。

あの時、俺が感じた不思議な感覚。彼らに向かって流れていった、温かい何か。そして彼らの不調が和らいだ後の、俺自身を包んだ微かな倦怠感。

全てのピースが、音を立ててはまった。

そうか。俺はずっと、無意識のうちにやっていたんだ。彼らが力を使うたびに発生する『代償』を、俺の身体が勝手に引き受けていた。彼らが本来負うべきだった苦痛、疲労、消耗。その全てを、俺が肩代わりしていた。

だから彼らは、何の苦もなく、何の反動もなく、その強大な力を振るい続けることができたのだ。

俺は無能じゃなかった。お荷物なんかじゃなかった。俺がいたからこそ、『光の剣』は王国最強のパーティーでいられたんだ。

これが、俺のスキル。

これが、【代償転嫁】の本当の力。

あまりにも遅すぎる自覚だった。だが、絶望の淵にいた俺にとって、それは何よりも確かな光だった。

俺が呆然と真実に辿り着いている間、セレスティアは自分の身に起きた変化に目を見開いていた。

「あ……れ……?」

身体が、軽い。まるで羽が生えたようだ。

昨日からずっと身体を鉛のように重くしていた熱が、嘘のように引いている。骨がきしむような不快な痛みも、どこにもない。頭は驚くほどすっきりとして、視界もクリアだ。

長い間、それこそ物心ついた時から、彼女の身体から苦痛が完全に消え去ったことなど、一度もなかった。常にどこかが痛み、常に微熱に浮かされ、それが彼女にとっての日常だった。

その日常が、今、覆された。

「痛く、ない……。熱も、ない……。どうして……?」

彼女は信じられないといった様子で、自分の身体を確かめるように触れる。そして、はっとしたように顔を上げ、目の前の男を見た。

自分の手に触れている、この男の手のひらから、信じられないほど温かい何かが流れ込んできたのを、彼女は確かに感じていた。

セレスティアの青い瞳が、驚愕と混乱で大きく揺れる。涙はとうに止まっていた。

「あなた……一体、何をしたの……?」

その問いに、俺はゆっくりと顔を上げた。そして、生まれて初めてかもしれない、心からの笑みを浮かべた。それは自嘲でも、諦めでもない。確かな自信と、安堵からくる笑みだった。

俺は、彼女の小さな手を優しく握り返す。その手はもう、熱で汗ばんだり、苦痛で震えたりはしていなかった。

「ああ。どうやら、君の呪い、俺がもらったみたいだ」

その言葉は、静かな教会の中に確かに響いた。

それは、二人の運命が交差し、そして、絶望の淵から這い上がるための、最初の狼煙だった。
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