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第26話 新たな仲間
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「は?」
俺の間抜けな声が、静かな部屋に響き渡った。
生涯あなたに仕える。騎士として。目の前の美しいエルフの王女は、とんでもないことを言い放った。呪いの影響で、まだ少し頭が混乱しているのだろうか。
「い、いや、待ってくれ。そんな大げさな話は困る」
俺は慌てて手を振った。
「俺は、君を助けたかっただけだ。見返りを求めてやったわけじゃない。だから、そんな誓いは必要ない」
「必要あるのよ!」
ルナリエルは、顔を真っ赤にしながらも、一歩も引かなかった。
「エルフの誓いは絶対なの! 一度口にした言葉は、魂に刻まれる。もう取り消すことなんてできないんだから! あなたは、わたしの一生に責任を取る義務があるのよ!」
めちゃくちゃな理屈だった。だが、その翡翠の瞳は真剣そのもので、冗談を言っているようには到底見えなかった。
俺たちがそんな押し問答を繰り広げていると、部屋の扉が開き、エルフの王とフィンが入ってきた。彼らは、娘の爆弾発言をしっかりと聞いていたらしい。その顔には、驚きと困惑がありありと浮かんでいた。
「ルナリエル……。お前、自分が何を言っているのか分かっているのか。エルフの王女が、人間に……それも、ただの男に仕えるなど……」
王は、信じられないといった様子で娘に問いかけた。
「分かっています、父上。ですが、この方はただの男ではありません。わたしの命の恩人です」
ルナリエルは、父王の前でも毅然とした態度を崩さなかった。その瞳には、もはや呪いに蝕まれていた頃の狂気はなく、王族としての気高さと、確固たる意志の光が宿っていた。
王は、娘の揺るぎない決意を見て、深いため息をついた。そして、視線を俺へと移す。
「……人間、リアムよ」
王は、ゆっくりと俺の前に進み出ると、これまでとは違う、厳かで真摯な態度で深く頭を下げた。
「我が娘、そして我が国を救ってくれたこと、心から礼を言う。お主は、我々シルヴァヌスにとって、永遠の恩人だ」
その言葉に、フィンや他のエルフたちも、一斉に俺に頭を垂れた。来た時には向けられていた軽蔑の視線は、今はもうどこにもない。そこにあるのは、純粋な敬意だけだった。
「約束通り、お主には望むだけの褒美を与えよう。この国の宝物庫から、好きなだけ持っていくがよい。あるいは、お主を貴族として迎え入れ、この国に豊かな領地を与えることもできる。何でも申してみよ」
それは、一介の人間にとっては、破格すぎる申し出だった。金、財産、地位。普通なら、喉から手が出るほど欲しいものだろう。
だが、俺は静かに首を振った。
「お気持ちだけ、ありがたくいただきます。ですが、俺には金も地位も必要ありません」
俺の答えに、その場にいたエルフ全員が、目を丸くした。ルナリエルも、驚いたように俺の顔を見つめている。
「なぜだ。欲がないのか?」
「欲はありますよ」
俺は、窓の外に広がる美しい森の景色を見ながら言った。
「俺には、帰る場所があるんです。待っていてくれる仲間たちがいる。俺が欲しいのは、金や地位じゃない。ただ、あいつらと笑って暮らせる、穏やかな毎日だけなんです」
俺の言葉に、部屋は静まり返った。エルフたちは、俺という人間を、まだ測りかねているようだった。
俺は、ルナリエルの方に向き直った。
「君の気持ちは、嬉しい。本当に。だが、騎士として仕えるなんて、俺には荷が重すぎる。主君なんて柄じゃないんだ」
俺がそう言うと、彼女の顔が少し曇った。誓いを拒絶されたと思ったのだろう。俺は、慌てて言葉を続けた。
「だから、提案がある。主従関係なんて堅苦しいものじゃなく、もっと対等な……『仲間』として、力を貸してくれないか?」
「……仲間?」
ルナリエルは、その言葉を鸚鵡返しに呟いた。彼女にとって、それは新鮮な響きだったに違いない。常に王女として、民の上に立つ者として生きてきた彼女に、『仲間』などという存在はいなかっただろうから。
「ああ。俺たちの村は、まだ小さい。これから、色々な問題が起きるかもしれない。君のような強い剣士がいてくれたら、これほど心強いことはない。どうだろうか?」
俺の提案に、ルナリエルはしばらく黙り込んでいた。その翡翠の瞳が、めまぐるしく揺れ動く。やがて、彼女はふいっと顔をそむけると、小さな声で言った。
「……べ、別に、あなたのためなんかじゃないんだからね。わ、わたしが、外の世界に少し興味があっただけよ。辺境の村っていうのも、まあ、退屈しのぎにはなるかもしれないし……」
顔は真っ赤で、声は上ずっている。だが、その言葉は、紛れもない承諾の意思表示だった。
そのやり取りを見ていた王は、天を仰いで再び長いため息をついた。
「……そうか。お前は、もう決めたのだな」
彼は、娘の stubbornさを誰よりもよく知っていた。そして、呪いから解放され、生き生きとした表情を取り戻した娘の意志を、無下にはできなかった。
「リアム殿」
王は、父親としての顔で、俺の目をまっすぐに見た。
「我が娘は、気位が高く、世間知らずで、何かと面倒なやつだ。だが、根は優しい。どうか……どうか、娘をよろしく頼む」
エルフの国の王が、ただの人間の俺に、深く、深く頭を下げた。それは、王としてではなく、一人の父親としての、心からの願いだった。
こうして、俺たちの新たな仲間が決まった。
シルヴァヌスを旅立つ日、王をはじめ、多くのエルフたちが見送りに来てくれた。彼らの視線は、もう冷たいものではなかった。
「リアム様、セレスティア様、そして……ルナリエル様。どうか、お気をつけて」
フィンが、名残惜しそうに言った。
俺たちのパーティーは、三人になった。俺と、聖女セレスティア。そして、エルフの剣士ルナリエル。
村へと帰る道すがら、ルナリエルは俺の隣にぴったりとくっついて歩き、何かと世話を焼こうとしてきた。
「ちょっと、荷物が重そうじゃない。わたしが半分持つわよ」
「喉が渇いたんじゃないの? ほら、水」
その甲斐甲斐しい態度に、これまで俺の世話を焼くのが自分の役目だと思っていたセレスティアが、面白くなさそうに頬を膨らませる。
「ルナリエル様、リアム様のお世話は、わたくしがいたしますので」
「あら、聖女様は後方支援がお得意なんでしょう? こういう力仕事は、前衛であるわたしの役目よ」
二人の間で、早くも静かな火花が散っていた。俺は、その間でどうすればいいか分からず、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
大変なことになったかもしれない。
だが、それ以上に、頼もしい仲間が増えたことへの喜びが、俺の心を満たしていた。村に、王国でも指折りの実力を持つであろう、強力な戦闘要員が加わったのだ。
俺たちの楽園は、さらに強固なものになるだろう。そんな確信を胸に、俺たちは懐かしい我が家へと続く道を、一歩一歩、踏みしめていた。
俺の間抜けな声が、静かな部屋に響き渡った。
生涯あなたに仕える。騎士として。目の前の美しいエルフの王女は、とんでもないことを言い放った。呪いの影響で、まだ少し頭が混乱しているのだろうか。
「い、いや、待ってくれ。そんな大げさな話は困る」
俺は慌てて手を振った。
「俺は、君を助けたかっただけだ。見返りを求めてやったわけじゃない。だから、そんな誓いは必要ない」
「必要あるのよ!」
ルナリエルは、顔を真っ赤にしながらも、一歩も引かなかった。
「エルフの誓いは絶対なの! 一度口にした言葉は、魂に刻まれる。もう取り消すことなんてできないんだから! あなたは、わたしの一生に責任を取る義務があるのよ!」
めちゃくちゃな理屈だった。だが、その翡翠の瞳は真剣そのもので、冗談を言っているようには到底見えなかった。
俺たちがそんな押し問答を繰り広げていると、部屋の扉が開き、エルフの王とフィンが入ってきた。彼らは、娘の爆弾発言をしっかりと聞いていたらしい。その顔には、驚きと困惑がありありと浮かんでいた。
「ルナリエル……。お前、自分が何を言っているのか分かっているのか。エルフの王女が、人間に……それも、ただの男に仕えるなど……」
王は、信じられないといった様子で娘に問いかけた。
「分かっています、父上。ですが、この方はただの男ではありません。わたしの命の恩人です」
ルナリエルは、父王の前でも毅然とした態度を崩さなかった。その瞳には、もはや呪いに蝕まれていた頃の狂気はなく、王族としての気高さと、確固たる意志の光が宿っていた。
王は、娘の揺るぎない決意を見て、深いため息をついた。そして、視線を俺へと移す。
「……人間、リアムよ」
王は、ゆっくりと俺の前に進み出ると、これまでとは違う、厳かで真摯な態度で深く頭を下げた。
「我が娘、そして我が国を救ってくれたこと、心から礼を言う。お主は、我々シルヴァヌスにとって、永遠の恩人だ」
その言葉に、フィンや他のエルフたちも、一斉に俺に頭を垂れた。来た時には向けられていた軽蔑の視線は、今はもうどこにもない。そこにあるのは、純粋な敬意だけだった。
「約束通り、お主には望むだけの褒美を与えよう。この国の宝物庫から、好きなだけ持っていくがよい。あるいは、お主を貴族として迎え入れ、この国に豊かな領地を与えることもできる。何でも申してみよ」
それは、一介の人間にとっては、破格すぎる申し出だった。金、財産、地位。普通なら、喉から手が出るほど欲しいものだろう。
だが、俺は静かに首を振った。
「お気持ちだけ、ありがたくいただきます。ですが、俺には金も地位も必要ありません」
俺の答えに、その場にいたエルフ全員が、目を丸くした。ルナリエルも、驚いたように俺の顔を見つめている。
「なぜだ。欲がないのか?」
「欲はありますよ」
俺は、窓の外に広がる美しい森の景色を見ながら言った。
「俺には、帰る場所があるんです。待っていてくれる仲間たちがいる。俺が欲しいのは、金や地位じゃない。ただ、あいつらと笑って暮らせる、穏やかな毎日だけなんです」
俺の言葉に、部屋は静まり返った。エルフたちは、俺という人間を、まだ測りかねているようだった。
俺は、ルナリエルの方に向き直った。
「君の気持ちは、嬉しい。本当に。だが、騎士として仕えるなんて、俺には荷が重すぎる。主君なんて柄じゃないんだ」
俺がそう言うと、彼女の顔が少し曇った。誓いを拒絶されたと思ったのだろう。俺は、慌てて言葉を続けた。
「だから、提案がある。主従関係なんて堅苦しいものじゃなく、もっと対等な……『仲間』として、力を貸してくれないか?」
「……仲間?」
ルナリエルは、その言葉を鸚鵡返しに呟いた。彼女にとって、それは新鮮な響きだったに違いない。常に王女として、民の上に立つ者として生きてきた彼女に、『仲間』などという存在はいなかっただろうから。
「ああ。俺たちの村は、まだ小さい。これから、色々な問題が起きるかもしれない。君のような強い剣士がいてくれたら、これほど心強いことはない。どうだろうか?」
俺の提案に、ルナリエルはしばらく黙り込んでいた。その翡翠の瞳が、めまぐるしく揺れ動く。やがて、彼女はふいっと顔をそむけると、小さな声で言った。
「……べ、別に、あなたのためなんかじゃないんだからね。わ、わたしが、外の世界に少し興味があっただけよ。辺境の村っていうのも、まあ、退屈しのぎにはなるかもしれないし……」
顔は真っ赤で、声は上ずっている。だが、その言葉は、紛れもない承諾の意思表示だった。
そのやり取りを見ていた王は、天を仰いで再び長いため息をついた。
「……そうか。お前は、もう決めたのだな」
彼は、娘の stubbornさを誰よりもよく知っていた。そして、呪いから解放され、生き生きとした表情を取り戻した娘の意志を、無下にはできなかった。
「リアム殿」
王は、父親としての顔で、俺の目をまっすぐに見た。
「我が娘は、気位が高く、世間知らずで、何かと面倒なやつだ。だが、根は優しい。どうか……どうか、娘をよろしく頼む」
エルフの国の王が、ただの人間の俺に、深く、深く頭を下げた。それは、王としてではなく、一人の父親としての、心からの願いだった。
こうして、俺たちの新たな仲間が決まった。
シルヴァヌスを旅立つ日、王をはじめ、多くのエルフたちが見送りに来てくれた。彼らの視線は、もう冷たいものではなかった。
「リアム様、セレスティア様、そして……ルナリエル様。どうか、お気をつけて」
フィンが、名残惜しそうに言った。
俺たちのパーティーは、三人になった。俺と、聖女セレスティア。そして、エルフの剣士ルナリエル。
村へと帰る道すがら、ルナリエルは俺の隣にぴったりとくっついて歩き、何かと世話を焼こうとしてきた。
「ちょっと、荷物が重そうじゃない。わたしが半分持つわよ」
「喉が渇いたんじゃないの? ほら、水」
その甲斐甲斐しい態度に、これまで俺の世話を焼くのが自分の役目だと思っていたセレスティアが、面白くなさそうに頬を膨らませる。
「ルナリエル様、リアム様のお世話は、わたくしがいたしますので」
「あら、聖女様は後方支援がお得意なんでしょう? こういう力仕事は、前衛であるわたしの役目よ」
二人の間で、早くも静かな火花が散っていた。俺は、その間でどうすればいいか分からず、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
大変なことになったかもしれない。
だが、それ以上に、頼もしい仲間が増えたことへの喜びが、俺の心を満たしていた。村に、王国でも指折りの実力を持つであろう、強力な戦闘要員が加わったのだ。
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