追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第27話 村の守護者

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エルフの国シルヴァヌスからの帰路は、行きとは比べ物にならないほど賑やかだった。

「ちょっとリアム、歩くのが速いわよ! もっとゆっくり歩きなさい!」
「リアム様、お疲れではありませんか? わたくしが荷物をお持ちします」

俺の両脇を、ルナリエルとセレスティアが固めている。二人は道中、ことあるごとに俺の世話を焼こうとして、そのたびに静かな火花を散らしていた。その間に挟まれた俺は、生きた心地がしなかったが、それでもこの賑やかさが嫌ではなかった。

数日後、俺たちの村の入り口が見えてきた。その懐かしい光景に、自然と足が速まる。

「リアム様たちが帰ってきたぞー!」

見張り台にいた若者の声が響き渡ると、村中から人々が駆け寄ってきた。その顔には、俺たちの無事を心から喜ぶ、温かい笑顔が浮かんでいた。

「おかえりなさい、リアム様、セレスティア様!」
「ご無事で何よりです!」

村人たちの歓迎に、俺とセレスティアは「ただいま」と笑顔で応える。

その時、村人たちの視線が、俺の隣に立つルナリエルへと注がれた。陽光を浴びて輝く銀髪、人間離れした美しい容貌、そして何よりも、その身にまとう凛とした気品。誰もが、彼女がただ者ではないことを一目で悟った。

「こ、このお方は……?」

村長がおそるおそる尋ねる。

「紹介するよ。俺たちの新しい仲間、ルナリエルだ。訳あって、しばらくこの村で暮らすことになった」

俺がそう紹介すると、ルナリエルは少し緊張した面持ちで、しかし尊大な態度を崩さずに顎をしゃくった。

「ふん。ルナリエルよ。あなたたちが、リアムの言っていた『仲間』というわけね。まあ、せいぜいわたしの足手まtoiにならないように頑張ることね」

そのあまりにも上から目線な物言いに、村人たちは一瞬ぽかんとした顔になった。だが、彼女の圧倒的な美しさと気品を前に、誰も文句を言うことはできず、ただただ圧倒されていた。

こうして、俺たちの村にエルフの王女という、とんでもない新メンバーが加わった。

村での生活に慣れるまで、少し時間がかかるかと思われたが、ルナリエルはすぐに自分の役割を見つけ出した。

村に戻って数日後、俺は村長や村の男たちと、今後の村の発展について話し合っていた。湖の水が戻ったことで、農業の基盤はできた。次の課題は、生活資源の確保だ。

「村の周りの森には、良質な木材や薬草も多いんだが……」

タロウが、悔しそうに言った。

「ゴブリンやオークがうろついてて、奥まで入るのは危険なんだ。薪を拾いに行くのでさえ、命がけだ」

その言葉を聞いていたルナリエルが、退屈そうにあくびをしながら口を挟んだ。

「なんですって? そんな雑魚ごときに、あなたたちは怯えているというの? 情けないわね」

「な、なんだと!」

タロウがカッとなるが、ルナリエルは意にも介さない。

「リアム」

彼女は俺の方を向くと、こともなげに言った。

「わたしが、その森の掃除をしてきてあげるわ。あなたたちの住む場所に、汚らわしい魔物がうろついているなんて、気分が悪いもの」

その申し出は、あまりにもあっさりとしていた。だが、その瞳には絶対的な自信が満ち溢れている。

「一人で行くのか? 危険じゃないか?」

俺が心配して言うと、彼女は鼻で笑った。

「誰に言っているの? わたしを、誰だと思っているのよ。……まあ、どうしても心配なら、道案内くらいはつけてくれてもいいけど」

結局、俺の制止も聞かず、ルナリエルはタロウたち村の若者数名を伴って、森の魔物掃討へと向かうことになった。俺とセレスティアは、心配しながらも彼女を見送るしかなかった。

そして、半日後。

森から戻ってきたタロウたちの顔は、言葉では言い表せないほどの、驚愕と畏怖に染まっていた。

「……化け物だ」

タロウは、広場に集まった俺たちに、震える声で報告した。

「いや、女神様か……? とにかく、俺たちが今まで見てきたものとは、次元が違いすぎた……」

彼の話によると、こうだ。

森に入ったルナリエルは、まずゴブリンの巣を見つけ出した。数十匹のゴブリンが潜む巣穴を前に、タロウたちが緊張で武器を握りしめる中、彼女はただ一言、「ここで見てなさい」とだけ告げ、一人で突入していった。

次の瞬間、巣穴から響き渡ったのは、ゴブリンたちの断末魔の悲鳴だけだった。

タロウたちが恐る恐る中を覗くと、そこには、まるで嵐が通り過ぎたかのように、全てのゴブリンが切り刻まれて転がっていた。そして、その中心に、返り血一滴浴びることなく、涼しい顔で剣を鞘に収めるルナリエルの姿があったという。

彼女の剣技は、もはや剣技ではなかった。それは『舞』だった。

しなやかに宙を舞い、月光のように煌めく剣が一閃されるたびに、魔物の首が飛ぶ。オークの集団を見つけた時も、彼女は一切怯まなかった。巨大な棍棒を振り回すオークたちの攻撃を、まるで柳のように軽々とかわし、すれ違いざまにその急所を正確に斬り裂いていく。

タロウたちができたことと言えば、その人間離れした光景を、ただ呆然と見ていることだけだった。

「ものの数時間で、森の東側にいた魔物は、ほぼ全滅しちまった……。あんなの、王都の騎士団だって無理だ……」

タロウは、心の底から震え上がった様子でそう言った。

夕暮れ時、当の本人は何事もなかったかのように、一人で森から戻ってきた。

「ただいま。大したことなかったわ。雑魚ばかりで、準備運動にもならなかった」

彼女はそう言って悪態をついたが、その横顔には、自分の力が誰かの役に立ったことへの、確かな満足感が浮かんでいた。

俺は、そんな彼女に歩み寄った。

「ありがとう、ルナリエル。君のおかげで、みんなが安心して森に入れるようになる。本当に、助かった」

俺が素直に感謝を伝えると、彼女は「ふんっ」と顔をそむけた。その耳が、夕日に照らされて真っ赤に染まっているのを、俺は見逃さなかった。

「べ、別に、あなたのためにやったわけじゃないんだからね! わたしがやりたくてやっただけよ!」

その分かりやすいツンデレぶりに、俺は思わず苦笑した。

ルナリエルの活躍がもたらした変化は、絶大だった。

村周辺の魔物の脅威は、文字通り一掃された。村人たちは安全に森の奥まで立ち入れるようになり、豊富な木材や薬草、これまで見たこともなかったような山菜などを手に入れることができるようになった。村の生活は、目に見えて豊かになっていく。

そして何より、村に絶対的な『守護者』が生まれた。その事実が、村人たちの心に大きな安らぎと誇りをもたらしていた。

俺たちの楽園は、新たな仲間を得て、また一つ、その輝きを増した。賑やかになった日常と、少し複雑になった人間関係に、俺は嬉しい悲鳴を上げながらも、この穏やかな日々が続くことを、心から願っていた。
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