追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第41話 魔法による生活革命

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ソフィアの覚醒は、俺たちの村『エデン』に静かだが決定的な革命をもたらすことになった。

記憶を取り戻した彼女は、以前の控えめで物静かな女性とはまるで別人のようだった。もちろん、その穏やかで知的な物腰は変わらない。だが、その瞳には常に自信と探究心があふれ、その口から語られる言葉は俺たちが想像もつかないような知識と知恵に満ちていた。

彼女はまず俺に深々と頭を下げ、改めて感謝の言葉を述べた。

「リアムさん。あなたには言葉では言い尽くせないほどの恩があります。この命、そしてこの知識、これからはあなたとこの村のために使わせていただきます」

その申し出を俺たちが断る理由はなかった。

ソフィアが最初に取り組んだのは、村の生活水準の向上だった。彼女は俺たちが当たり前だと思っていた日常の中に、無数の『非効率』と『不便』を見つけ出した。

「リアムさん、皆さんは毎日湖まで水を汲みに行っているのですよね? 大変ではありませんか?」

ある日、彼女は水瓶を運ぶ村の女性たちを見ながら不思議そうに首を傾げた。

「仕方ないさ。水は生活に不可欠だからな」

「いいえ、仕方なくありません。魔法を使えば、もっと簡単に安全に水を供給することができます」

彼女はそう言うと、俺たちを村の中心にある古い井戸の前に集めた。その井戸は湖の水が汚染されてから、ずっと使われずに放置されていたものだ。

ソフィアは井戸の縁にそっと手を触れると、古代語の呪文を短く詠唱した。

「――アクア・コネクト」

すると井戸の底から、ゴゴゴ……という地響きのような音が聞こえ始めた。次の瞬間、井戸の中からまるで噴水のように、清らかで新鮮な水が勢いよく湧き上がってきたのだ。

「こ、これは……!?」

村人たちが驚きに目を見開く。

ソフィアはこともなげに説明した。

「湖とこの井戸の地下水脈を魔法で繋げただけです。さらに井戸の底には浄化の魔法陣を刻み込んでありますので、この水はいつでも清潔で飲むことができますよ」

彼女はこともなげに言ったが、それは極めて高度な魔法だった。地形を読み解き、水脈を正確に把握し、半永久的に機能する魔法陣を構築する。そんな芸当、王宮魔術師でもできる者はほとんどいないだろう。

だが、彼女の生活革命はそれだけでは終わらなかった。

「皆さん、夜は松明やランプの灯りで過ごしているのですね。火事の危険もありますし、煙で目や喉を痛めることもあるでしょう?」

彼女は次に村の家々を回り、その天井に小さな水晶を一つずつ取り付けていった。そして再び呪文を唱える。

「――ルミナ・フィールド」

すると彼女が合図をした瞬間、村中の家に取り付けられた水晶が、一斉に柔らかな光を放ち始めたのだ。その光はまるで昼間の太陽のように明るく、それでいて目に優しかった。

「これは『光水晶』です。私の魔力と連動して半永久的に光り続けます。これで皆さんは夜でも安全に、明るく過ごすことができます」

村は夜でも灯りに満ちた、安全な場所へと生まれ変わった。子供たちは夜でも本を読めるようになったと大喜びだった。

ソフィアの魔法は、次々と村の生活を豊かにしていく。

彼女は各家庭に『洗浄』の魔法陣が刻まれた桶を配った。その桶に汚れた服や食器を入れるだけで、ひとりでに綺麗になる。女性たちの水仕事の負担は劇的に軽減された。

彼女は教会の食料庫に『鮮度保持』の結界を張った。収穫した野菜や肉が腐ることなく長期間保存できるようになった。これで厳しい冬の間の食料問題も完全に解決した。

さらに彼女は、俺が考案した村の防衛システムに魔法的な改良を加えてくれた。

「リアムさんの戦術は素晴らしいです。ですが物理的な防御だけでは限界があります。そこに魔法の罠を組み込みましょう」

彼女は緑の城壁の各所に、侵入者を感知すると自動で発動する『束縛』や『睡眠』の魔法陣を仕込んだ。見張り台には遠くの景色を鮮明に映し出す『遠見』の魔法具を設置した。

俺たちの村『エデン』は、もはやただの辺境の村ではなかった。王都と比べても遜色のない、いや、それ以上に快適で安全な生活水準を誇る魔法の楽園へと変貌を遂げていたのだ。

村人たちはソフィアのことを、最初は『大賢者の塔から来た偉い魔法使い様』としてどこか畏敬の念を持って遠巻きに見ていた。だが彼女の魔法がもたらす恩恵と、彼女自身の穏やかで優しい人柄に触れるうちに、次第に彼女を『自分たちの仲間』として心から慕うようになっていった。

彼女はよく俺のそばに来て、様々な話をしてくれた。

「リアムさん。この世界の魔法理論はまだ発展の途上にあります。古代には天候を操り、大地を創造することさえ可能な、失われた魔法体系が存在したのですよ」

彼女はキラキラとした瞳で、俺に未知の世界の扉を開いてくれる。その知的な会話は俺にとって新鮮で心地よかった。

そしてその様子を、セレスティアとルナリエルとアイリスが少し離れた場所からじっと見つめていることも、すっかり日常の風景となっていた。

「……ソフィア様は博識ですわね。リアム様も楽しそうですし」
「……ふん。知識をひけらかしているだけじゃない。実践が伴わなければただの机上の空論よ」
「でも、ソフィアさんの魔法、本当にすごいです! なんだか、キラキラしてます!」

三者三様の反応が、俺の背中に突き刺さる。

俺はそんな賑やかで平和な日常の中で、確かな手応えを感じていた。

俺がこの村にやってきた時、ここには何もなかった。あるのは絶望と諦めだけだった。

だが、今はどうだ。

人々は笑い、未来への希望に満ちている。俺の周りにはかけがえのない仲間たちがいる。

聖女が祈り、癒やしを与える。
エルフの剣士が村を守り、道を切り拓く。
竜騎士の少女が空から村を支え、活気をもたらす。
そして大賢者の末裔が、その知識と魔法で人々の暮らしを豊かにする。

俺は彼女たちの中心にいる。俺のスキル【代償転嫁】がなければ、彼女たちはその真の力を発揮することはできない。

俺はようやく自分の役割を見つけたのだ。

俺は英雄ではない。だが英雄たちを、真の英雄として輝かせることができる唯一の存在なのだと。
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