追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第42話 新生パーティー結成

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エデンでの日々は、まるで穏やかな川の流れのように過ぎていった。

村は日に日に豊かになり、人々の顔には笑顔が絶えない。かつて絶望に覆われていたこの場所は、今や誰もが羨むような理想郷――楽園へと変貌を遂げていた。

その噂は、辺境を旅する行商人たちの間で密かな伝説となりつつあった。

「おい、聞いたか? 最果ての地に『エデン』っていう名前の楽園があるらしいぜ」
「ああ、知ってる。どんな病も癒やす聖女様がいて、森の魔物を一人で殲滅しちまうエルフの剣士様がいるって話だろ?」
「それだけじゃねえ。最近じゃ、竜を自在に操る竜騎士様と、古代魔法で生活そのものを変えちまった大賢者様までいるらしい!」
「馬鹿言え。そんなおとぎ話みたいな村があるわけねえだろ。酒の飲み過ぎだ」

ほとんどの者は、その噂を一笑に付した。伝説級の英雄が、それも四人も、名もなき辺境の村に集うなどあり得ないことだからだ。

だが、そのおとぎ話が真実であることを、一人の男が目の当たりにすることになる。

男の名前はギデオン。酸いも甘いも噛み分けた、ベテランの行商人だ。かつてはCランクの冒険者として各地を旅した経験もあり、人を見る目には自信があった。彼はエデンで採れるという極上の薬草の噂を確かめるため、半信半疑でこの村を訪れたのだ。

そして村の広場で見た光景に、彼は我が目を疑った。

広場のベンチに腰掛け、何やら村の設計図のようなものを広げている、一人の平凡な青年。その周りを信じがたい顔ぶれが取り囲んでいた。

「リアム様、お茶が入りましたわ」
柔らかな微笑みを浮かべて青年に寄り添うのは、かつて王都で『奇跡の乙女』と呼ばれながらも、ある時期を境に姿を消した聖女候補、セレスティア。その治癒の力は教会の枢機卿すら凌ぐと噂されていた。

「リアム。この防壁の配置、もう少し角度をつけた方が十字砲火を組みやすいわ。こっちを見なさい」
青年の肩越しに図面を覗き込み、的確な助言を与えるのは、長く尖った耳を持つエルフの剣士。その身にまとう気配、腰に差した剣の質から、ギデオンは彼女がただ者ではないことを一瞬で見抜いた。エルフの国の、それも王族に近い高位の戦士に違いない。

「リアムさん! フレアが、高いところの木の実、取ってきてくれました! 食べましょう!」
青年の腕に無邪気に絡みつく、赤い髪の少女。その背後には主人の言葉を待つように、真紅の鱗を持つ幼竜が静かに控えている。竜を従える少女――竜騎士。それは大陸でも数えるほどしか存在しない、伝説の一族だ。

「リアムさん。その設計思想は合理的ですが、ここに風の魔法障壁を加えれば、防御効率はさらに三割向上します。古代ルーンを応用すれば、魔力消費も最小限に抑えられますよ」
そして、青年の隣で静かに本を読みながら、時折、怜悧な助言を口にするのは、深い紫色の瞳を持つ知的な女性。その佇まいと、時折漏れ聞こえる魔法理論の深遠さから、ギデオンは彼女があの『大賢者の塔』の関係者、それも最高位の賢者であると直感した。

聖女、エルフの剣士、竜騎士、大賢者。

一人いるだけでも国が賓客として迎え入れるであろう、伝説級の存在。それが四人も、この辺境の村に集結している。そして何より不可解なのは、彼女たち全員があの平凡な青年――リアムを中心に、まるで衛星のように回っていることだった。

ギデオンは、かつての冒険者としての知識と経験を総動員して目の前の青年を分析しようとした。だが、何度見ても彼からは何の力も感じられない。魔力は一般人並み、身体能力も鍛えているようには見えない。ただ、そこにいるだけ。そんな印象しか受けなかった。

(なぜだ……? なぜ、あれほどの女たちが、あの男に……?)

彼の長年の経験をもってしても、その光景は全く理解の範疇を超えていた。

やがてギデオンは意を決して、俺たちの元へと近づいてきた。

「……失礼。あなたがたが、この村を治めている方々ですかな?」

その声に俺たちは顔を上げた。人の良さそうな、しかし鋭い眼光を宿した行商人の姿がそこにあった。

「治めている、なんて大げさなものじゃないですよ。俺はリアム。ここの皆と村づくりをしているだけです」

俺がにこやかに答えると、ギデオンはごくりと唾を飲み込んだ。そしてセレスティアたち一人一人の顔を、恐る恐る確認するように見つめた。

「失礼ながら……そちらの御婦人方は……まさか、聖女セレスティア様……? そして、竜を連れたお嬢さんは、竜騎士の一族の方で……?」

彼の言葉にセレスティアは穏やかに微笑み、アイリスは「はい! アイリスです!」と元気よく答えた。ルナリエルとソフィアは、ただ黙ってギデオンを見つめている。

その反応だけで、ギデオンは全てを確信した。噂は真実だったのだ。

「なんと……! 信じがたい……! これでは、まるで……伝説の勇者パーティーではありませんか……!」

彼は心の底から感嘆の声を上げた。

勇者パーティー。その言葉に、俺は少しだけ胸の奥がちくりと痛んだ。だが、すぐに気を取り直して苦笑する。

「ははは、大げさですよ。俺たちはただの村人です」

「ご謙遜を!」

ギデオンは興奮冷めやらぬ様子でまくし立てた。

「これほどの戦力が集えば、魔王軍の幹部の一人や二人、たやすく討伐できるでしょう! いや、それどころか、魔王城の攻略さえ……!」

その言葉を聞いていたルナリエルが、ふん、と鼻を鳴らした。

「魔王城ですって? くだらないわね。わたしたちが守るのは、そんなものではないわ。このエデンと、そして……リアムだけよ」

彼女はそう言うと、ちらりと俺の顔を盗み見た。

その言葉に、他の三人もうんうんと頷く。

「はい。わたくしの力はリアム様と、この村のためにあります」
「わたしも! リアムさんとみんながいる、ここがわたしの居場所だから!」
「ええ。世界の運命など、私の探究心の前では些末な問題です。ですが、リアムさんのそばにいれば、この世界の根源にさえ触れられるかもしれない。そう感じています」

四者四様の言葉。だが、その全てが俺という一点で繋がっていた。

ギデオンは彼女たちの言葉を聞いて、さらに混乱の渦へと叩き込まれた。彼女たちは世界を救うことにも富や名声にも、一切興味がない。ただこのリアムという男のそばにいること、それだけを望んでいる。

(この男は……一体、何者なのだ……?)

彼の疑問は深まるばかりだった。

その夜、俺たちは教会で、ギデオンから仕入れた珍しいお茶を飲みながら彼の言葉を思い出していた。

「勇者パーティー、か。なんだか大げさな話だったな」

俺がそう言って笑うと、向かいに座っていたセレスティアが真剣な顔で言った。

「ですがリアム様。あの方の言う通り、わたしたちは一つのパーティーなのかもしれません」

その言葉にルナリエルも、アイリスも、ソフィアも静かに頷いた。

「そうね。主君はリアム、あなたはわたしたちの軍師。そしてわたしとアイリスが前衛、セレスティアが回復役で、ソフィアが後方からの魔法支援。……バランスの取れた、悪くない構成じゃないかしら」

ルナリエルが冷静に戦力を分析する。

「わーい! パーティーだ! なんだか冒険みたいでわくわくします!」

アイリスが子供のようにはしゃいだ。

「ふふ。パーティーですか。悪くない響きですね。研究対象としても、非常に興味深い共同体です」

ソフィアが知的な笑みを浮かべる。

彼女たちの様子を見て、俺は少しだけ気恥ずかしくなった。俺はただ静かに暮らしたいだけだったのだが、いつの間にかとんでもない仲間たちが集まり、そして一つの運命共同体となりつつある。

俺はパーティーを結成したつもりなど、毛頭なかった。

だが聖女がいて、エルフの剣聖がいて、竜騎士がいて、大賢者がいる。そしてその中心に、彼女たちの力を最大限に引き出すことができる俺がいる。

図らずして、ここに伝説級と呼ぶにふさわしい、新生パーティーが誕生した瞬間だった。

俺たちはまだ名前もないこの小さなパーティーが、やがて世界の運命を揺るがすほどの大きな力を持つことになるなど想像もしていなかった。

俺はただ、目の前で楽しそうに未来の話をする仲間たちの顔を見ながら、この穏やかな時間が一日でも長く続けばいいと心から願っていた。
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