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第84話 魔将ヴラド、現る
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『――どこにいる、聖人様?』
脳内に直接響き渡るヴラドの嘲笑に満ちた声。
俺は窓の外――中央広場に立つ漆黒の絶望の化身を、睨みつけた。
奴は気づいている。
この王都を浄化した力の中心が、どこにあるのかを。
そして俺もまた理解した。
奴はただの破壊者ではない。狡猾で知能が高く、そして何よりも戦いというものを『楽しんで』いる。わざわざ単身で乗り込んできたのは、俺たちの力を試し、そして民衆の目の前でその希望を叩き潰すことで、より深い絶望を与えようという悪趣味なパフォーマンスなのだ。
「……っ!」
俺の部屋の扉が勢いよく開かれた。
ルナリエルとダリウスがすでに臨戦態勢で飛び込んでくる。彼らもまたヴラドの放つ、尋常ならざる邪悪な気配を即座に感じ取ったのだ。
「リアム! あの気配は……!」
「間違いない。本体だ」
「リアム様!」
セレスティア、アイリス、ソフィアも青ざめた顔で駆けつけてきた。
「みんな、落ち着いてくれ」
俺は仲間たちの動揺を静かな声で制した。パニックは敵の思う壺だ。
「敵の狙いは俺たちだ。奴の挑発に乗る必要はない。計画通り、ここで迎撃する」
俺の冷静な言葉に仲間たちははっと我に返り、それぞれの顔に覚悟の色を宿した。
中央広場ではパニックが頂点に達していた。
人々は出口へと殺到し将棋倒しになり、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられている。
ヴラドはその光景を、まるで舞台演劇でも鑑賞するかのように腕を組んで静かに眺めていた。
「無様だな、人間とは。死という平等な結末を前にして、こうも醜く足掻くものか」
彼はゆっくりと右手を上げた。その手のひらに再び紫色の呪詛の魔力が渦を巻き始める。今度こそこの王都を、二度と再生できないほどの完全な死の都に変えるつもりだ。
彼がその呪いを放とうとした、その瞬間。
「――そこまでよ、下劣な魔将」
凛とした、しかし鋼のような意志を宿した声が広場に響き渡った。
ヴラドがゆっくりとそちらへ顔を向ける。
そこには王宮から続く大通りを、静かに、しかし堂々と歩いてくる六人の人影があった。
俺たちだった。
俺を先頭にセレスティア、ルナリエル、アイリス、ソフィア、ダリウスが一糸乱れぬ隊列を組んで、ゆっくりと広場の中央へと進んでいく。
俺たちの登場に逃げ惑っていた民衆が、足を止めた。
そしてその視線は、希望と祈りを込めて俺たちへと注がれた。
救国の英雄。伝説の聖人。
彼らが自分たちを守るために現れてくれたのだ。
「……ほう」
ヴラドは初めて心からの興味をその瞳に浮かべた。
「ようやく主役の登場、というわけか。我が呪詛を破る人間がいたとはな。どれほどの老賢者かと思えば……」
彼の視線が俺たちの顔を一人一人、値踏みするように舐めていく。聖女、エルフ、竜騎士、賢者、そして剣聖。その顔ぶれに彼の口元が楽しそうに歪んだ。
「……面白い。実に面白い。掃き溜めのような人間界に、これほどの『逸材』がまだ残っていたとはな。そしてその中心にいるのが……」
彼の血のように赤い瞳が、俺の姿を正確に捉えた。
「……お前か。何の力も感じられぬただの小僧。お前がこの愉快なサーカス団の団長というわけか」
その言葉はあからさまな侮蔑だった。だが俺は動じない。
俺は彼の目の前で歩みを止めた。
俺たちとヴラド。その距離およそ二十メートル。広場の中心で、人類の希望と魔王軍の絶望が初めて直接対峙した。
「魔将ヴラ-ド。お前の好きにはさせない」
俺は静かに、しかしはっきりと告げた。
「この街もこの世界も、お前たちの玩具じゃない。俺たちが必ずお前を止める」
俺のあまりにも不遜な宣言。
それを聞いたヴラ-ドは一瞬きょとんとした顔をし、そして次の瞬間、腹を抱えて高らかに笑い出した。
「くくく……はーっはっはっは! 面白い! 実に面白いぞ、小僧! 何の力も持たぬお前がこの俺を止めると申すか! 今年一番の傑作だ!」
彼の笑い声が不気味に広場に響き渡る。
「良いだろう。ならば見せてみよ。お前たちのその儚い希望とやらが、この俺の絶対的な絶望の前でいかに無力であるかを。その魂ごとねじ伏せてくれるわ!」
ヴラドの笑みが消えた。
彼の全身からこれまでとは比較にならないほどの禍々しい瘴気が、黒いオーラとなって立ち上る。空はにわかにかき曇り、広場の気温が急速に下がっていく。
「さあ、始めようか。人間どもの最後の、そして最も惨めな断末魔の悲鳴を聞かせてくれ」
その言葉を合図にヴラドの背後の空間が、ぐにゃりと歪んだ。
闇の亀裂からおぞましい姿をした無数の呪いの眷属たちが、次々と這い出してくる。
それはもはやただの魔物ではない。悪夢そのものが形を成したかのような異形の怪物たちだった。
決戦の火蓋は唐突に切って落とされた。
王都の民衆が見守るたった一つの舞台の上で。
人類の存亡をかけた俺たちの本当の戦いが、今始まった。
脳内に直接響き渡るヴラドの嘲笑に満ちた声。
俺は窓の外――中央広場に立つ漆黒の絶望の化身を、睨みつけた。
奴は気づいている。
この王都を浄化した力の中心が、どこにあるのかを。
そして俺もまた理解した。
奴はただの破壊者ではない。狡猾で知能が高く、そして何よりも戦いというものを『楽しんで』いる。わざわざ単身で乗り込んできたのは、俺たちの力を試し、そして民衆の目の前でその希望を叩き潰すことで、より深い絶望を与えようという悪趣味なパフォーマンスなのだ。
「……っ!」
俺の部屋の扉が勢いよく開かれた。
ルナリエルとダリウスがすでに臨戦態勢で飛び込んでくる。彼らもまたヴラドの放つ、尋常ならざる邪悪な気配を即座に感じ取ったのだ。
「リアム! あの気配は……!」
「間違いない。本体だ」
「リアム様!」
セレスティア、アイリス、ソフィアも青ざめた顔で駆けつけてきた。
「みんな、落ち着いてくれ」
俺は仲間たちの動揺を静かな声で制した。パニックは敵の思う壺だ。
「敵の狙いは俺たちだ。奴の挑発に乗る必要はない。計画通り、ここで迎撃する」
俺の冷静な言葉に仲間たちははっと我に返り、それぞれの顔に覚悟の色を宿した。
中央広場ではパニックが頂点に達していた。
人々は出口へと殺到し将棋倒しになり、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられている。
ヴラドはその光景を、まるで舞台演劇でも鑑賞するかのように腕を組んで静かに眺めていた。
「無様だな、人間とは。死という平等な結末を前にして、こうも醜く足掻くものか」
彼はゆっくりと右手を上げた。その手のひらに再び紫色の呪詛の魔力が渦を巻き始める。今度こそこの王都を、二度と再生できないほどの完全な死の都に変えるつもりだ。
彼がその呪いを放とうとした、その瞬間。
「――そこまでよ、下劣な魔将」
凛とした、しかし鋼のような意志を宿した声が広場に響き渡った。
ヴラドがゆっくりとそちらへ顔を向ける。
そこには王宮から続く大通りを、静かに、しかし堂々と歩いてくる六人の人影があった。
俺たちだった。
俺を先頭にセレスティア、ルナリエル、アイリス、ソフィア、ダリウスが一糸乱れぬ隊列を組んで、ゆっくりと広場の中央へと進んでいく。
俺たちの登場に逃げ惑っていた民衆が、足を止めた。
そしてその視線は、希望と祈りを込めて俺たちへと注がれた。
救国の英雄。伝説の聖人。
彼らが自分たちを守るために現れてくれたのだ。
「……ほう」
ヴラドは初めて心からの興味をその瞳に浮かべた。
「ようやく主役の登場、というわけか。我が呪詛を破る人間がいたとはな。どれほどの老賢者かと思えば……」
彼の視線が俺たちの顔を一人一人、値踏みするように舐めていく。聖女、エルフ、竜騎士、賢者、そして剣聖。その顔ぶれに彼の口元が楽しそうに歪んだ。
「……面白い。実に面白い。掃き溜めのような人間界に、これほどの『逸材』がまだ残っていたとはな。そしてその中心にいるのが……」
彼の血のように赤い瞳が、俺の姿を正確に捉えた。
「……お前か。何の力も感じられぬただの小僧。お前がこの愉快なサーカス団の団長というわけか」
その言葉はあからさまな侮蔑だった。だが俺は動じない。
俺は彼の目の前で歩みを止めた。
俺たちとヴラド。その距離およそ二十メートル。広場の中心で、人類の希望と魔王軍の絶望が初めて直接対峙した。
「魔将ヴラ-ド。お前の好きにはさせない」
俺は静かに、しかしはっきりと告げた。
「この街もこの世界も、お前たちの玩具じゃない。俺たちが必ずお前を止める」
俺のあまりにも不遜な宣言。
それを聞いたヴラ-ドは一瞬きょとんとした顔をし、そして次の瞬間、腹を抱えて高らかに笑い出した。
「くくく……はーっはっはっは! 面白い! 実に面白いぞ、小僧! 何の力も持たぬお前がこの俺を止めると申すか! 今年一番の傑作だ!」
彼の笑い声が不気味に広場に響き渡る。
「良いだろう。ならば見せてみよ。お前たちのその儚い希望とやらが、この俺の絶対的な絶望の前でいかに無力であるかを。その魂ごとねじ伏せてくれるわ!」
ヴラドの笑みが消えた。
彼の全身からこれまでとは比較にならないほどの禍々しい瘴気が、黒いオーラとなって立ち上る。空はにわかにかき曇り、広場の気温が急速に下がっていく。
「さあ、始めようか。人間どもの最後の、そして最も惨めな断末魔の悲鳴を聞かせてくれ」
その言葉を合図にヴラドの背後の空間が、ぐにゃりと歪んだ。
闇の亀裂からおぞましい姿をした無数の呪いの眷属たちが、次々と這い出してくる。
それはもはやただの魔物ではない。悪夢そのものが形を成したかのような異形の怪物たちだった。
決戦の火蓋は唐突に切って落とされた。
王都の民衆が見守るたった一つの舞台の上で。
人類の存亡をかけた俺たちの本当の戦いが、今始まった。
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