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第83話 救国の英雄
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王都の復活は瞬く間に王国全土へと伝わっていった。
絶望の淵にあった人々にとって、それはまさに神の福音だった。王都が救われたというニュースは人々の心に再び希望の灯をともし、呪詛への恐怖に打ち勝つ勇気を与えた。
そしてその奇跡を成し遂げた者たちの名が、熱狂と共に民衆の間で語られ始めた。
辺境の楽園『エデン』より来たりし救国の英雄たち。
あらゆる呪いを浄化する真の聖女セレスティア。
そしてその奇跡を支え、導いたとされる謎の青年リアム。
俺たちの名前は吟遊詩人たちの歌に乗って、瞬く間に王国中に広まっていった。
王宮は俺たちを最大級の賓客として遇した。
国王は玉座の間で、俺たちの前に深く頭を下げた。それは一国の王が臣下ではない者に示すには、あり得ないほどの最大限の謝罪と感謝の表明だった。
「リアム殿、セレスティア殿、そして英雄の皆様。このご恩は言葉では言い尽くせぬ。あなた方はこの国を、いや、この世界を救った真の救世主だ」
国王は俺に侯爵の位と、王都で最も肥沃な領地を与えようとした。セレスティアには国教会の最高位である大司教の座を。他の仲間たちにも望むだけの金銀財宝と名誉ある地位を約束した。
だが俺たちはその全てを丁重に、しかしきっぱりと断った。
「陛下。我々が望むのは富でも名誉でもありません。ただこの世界に一日も早く平和が戻ること。そして我々の故郷であるエデンに、仲間たちと共に無事に帰ること。それだけです」
俺のあまりにも欲のない言葉に、国王もその場にいた大臣たちも、ただただ感嘆の息を漏らすだけだった。
俺たちは英雄として、民衆から熱狂的な歓迎を受けた。
俺たちが王宮の外に出れば道は黒山の人だかりで埋め尽くされ、俺たちの名を呼ぶ歓声が地鳴りのように響き渡った。花びらが舞い、人々は涙を流して俺たちに感謝の言葉を捧げた。
「聖女様! ありがとうございます!」
「リアム様! あなたが我らが聖人様か!」
その熱狂の渦の中心で、俺は少しだけ居心地の悪さを感じていた。
俺は英雄になどなりたくなかった。
ただ仲間と自分たちの居場所を守りたかっただけだ。そのために目の前の苦しむ人々を、見過ごすことができなかっただけだ。
「リアム様はすごい人気ですわね」
隣を歩くセレスティアが嬉しそうに微笑む。彼女は人々から心からの感謝を向けられることに、純粋な喜びを感じているようだった。
「ふん。騒がしいだけよ。それより早くあの魔将とやらを片付けて、エデンに帰りたいわ」
ルナリエルはうんざりしたように呟く。
「わー! なんだかお祭りみたいです!」
アイリスはその賑わいを無邪気に楽しんでいた。
仲間たちの反応は様々だった。だが俺たちの心は一つだった。
この戦いを終わらせる。そして必ずエデンへ帰る。
王宮には俺たちのために、最高司令部となる作戦室が用意された。
そこには王国の騎士団の生き残りや、各地から集まった智将たちが集結し対ヴラド戦略を練っていた。
だが彼らの議論はほとんど意味をなさなかった。ヴラドの呪詛という常識外れの力の前では、これまでのどんな戦術も兵法も通用しないからだ。
結局全ての作戦の立案は、俺とソフィア、そしてダリウスに一任されることになった。
「敵の本体、魔将ヴラドは現在、陥落させた城塞都市ガレリアに留まっているようです。そこを拠点とし呪詛の範囲を、徐々に拡大させているものと推測されます」
ソフィアが地図の上に駒を置きながら、冷静に戦況を分析する。
「ならば話は早い。我々が直接ガレリアに乗り込み、ヴラドの首を獲る。それ以外に道はない」
ダリウスが簡潔に、そして力強く結論を述べた。
その意見に異論を唱える者はいなかった。
これは軍と軍がぶつかり合う総力戦ではない。
世界を救う力を持つたった一つのパーティーが、諸悪の根源である魔王軍幹部に挑む一点突破の電撃戦なのだ。
作戦は決まった。
明日、俺たちはフレアに乗り、決戦の地ガレリアへと飛ぶ。
その夜。
俺は王宮の一室で一人、窓の外に広がる王都の夜景を眺めていた。
呪いが浄化され街には再び無数の灯りが戻ってきている。その一つ一つの灯りの下に人々の暮らしがある。
(……守れるだろうか)
俺は自分の手のひらを見つめた。
この何の力も持たない、ただの掌。
だがこの手は仲間たちの力を、無限に引き出すことができる。
俺は英雄ではない。救世主でもない。
だが俺には最強の仲間たちがいる。
俺は彼女たちを信じよう。
そして彼女たちが信じてくれる俺自身を、信じよう。
俺が静かに決意を固めていた、その時だった。
王都の中央広場。
人々が奇跡の復活を祝い、ささやかな祝宴を開いていたその輪の中心。
空間がぐにゃりと歪んだ。
まるで黒いインクを水に垂らしたかのように闇の渦が生まれ、そこから一人の男が音もなく姿を現した。
漆黒の鎧。夜そのものを切り取ったかのような巨大な翼。
その場にいた誰もが、一瞬でその男の正体を理解した。
「――こんばんは、人間どもよ」
その声は広場にいる全ての者たちの脳に直接響き渡った。
「我が呪詛をこうも綺麗に浄化してくれる人間がいたとはな。少し驚いたぞ」
魔将ヴラド。
彼はたった一人で、王都のそのど真ん中に姿を現したのだ。
広場は一瞬で、歓声から絶叫へと変わった。
人々がパニックに陥り、逃げ惑う。
その光景をヴラドは、心底楽しそうに見下ろしていた。
「さて。俺の可愛いペットたちを掃除してくれたお礼参りに来たわけだが……」
彼の血のように赤い瞳が、群衆の中から正確に一つの場所を捉えた。
王宮の、俺がいる窓を。
『――どこにいる、聖人様? さあ顔を見せろ。お前と遊んでやろう』
その声は他の誰にも聞こえない。
ただ俺の脳にだけ直接響き渡った、挑戦状だった。
平和な祝宴の只中に唐突に現れた、絶対的な絶望。
俺たちの本当の戦いは、俺たちが想像していたよりも遥かに早く、そして唐突に始まろうとしていた。
絶望の淵にあった人々にとって、それはまさに神の福音だった。王都が救われたというニュースは人々の心に再び希望の灯をともし、呪詛への恐怖に打ち勝つ勇気を与えた。
そしてその奇跡を成し遂げた者たちの名が、熱狂と共に民衆の間で語られ始めた。
辺境の楽園『エデン』より来たりし救国の英雄たち。
あらゆる呪いを浄化する真の聖女セレスティア。
そしてその奇跡を支え、導いたとされる謎の青年リアム。
俺たちの名前は吟遊詩人たちの歌に乗って、瞬く間に王国中に広まっていった。
王宮は俺たちを最大級の賓客として遇した。
国王は玉座の間で、俺たちの前に深く頭を下げた。それは一国の王が臣下ではない者に示すには、あり得ないほどの最大限の謝罪と感謝の表明だった。
「リアム殿、セレスティア殿、そして英雄の皆様。このご恩は言葉では言い尽くせぬ。あなた方はこの国を、いや、この世界を救った真の救世主だ」
国王は俺に侯爵の位と、王都で最も肥沃な領地を与えようとした。セレスティアには国教会の最高位である大司教の座を。他の仲間たちにも望むだけの金銀財宝と名誉ある地位を約束した。
だが俺たちはその全てを丁重に、しかしきっぱりと断った。
「陛下。我々が望むのは富でも名誉でもありません。ただこの世界に一日も早く平和が戻ること。そして我々の故郷であるエデンに、仲間たちと共に無事に帰ること。それだけです」
俺のあまりにも欲のない言葉に、国王もその場にいた大臣たちも、ただただ感嘆の息を漏らすだけだった。
俺たちは英雄として、民衆から熱狂的な歓迎を受けた。
俺たちが王宮の外に出れば道は黒山の人だかりで埋め尽くされ、俺たちの名を呼ぶ歓声が地鳴りのように響き渡った。花びらが舞い、人々は涙を流して俺たちに感謝の言葉を捧げた。
「聖女様! ありがとうございます!」
「リアム様! あなたが我らが聖人様か!」
その熱狂の渦の中心で、俺は少しだけ居心地の悪さを感じていた。
俺は英雄になどなりたくなかった。
ただ仲間と自分たちの居場所を守りたかっただけだ。そのために目の前の苦しむ人々を、見過ごすことができなかっただけだ。
「リアム様はすごい人気ですわね」
隣を歩くセレスティアが嬉しそうに微笑む。彼女は人々から心からの感謝を向けられることに、純粋な喜びを感じているようだった。
「ふん。騒がしいだけよ。それより早くあの魔将とやらを片付けて、エデンに帰りたいわ」
ルナリエルはうんざりしたように呟く。
「わー! なんだかお祭りみたいです!」
アイリスはその賑わいを無邪気に楽しんでいた。
仲間たちの反応は様々だった。だが俺たちの心は一つだった。
この戦いを終わらせる。そして必ずエデンへ帰る。
王宮には俺たちのために、最高司令部となる作戦室が用意された。
そこには王国の騎士団の生き残りや、各地から集まった智将たちが集結し対ヴラド戦略を練っていた。
だが彼らの議論はほとんど意味をなさなかった。ヴラドの呪詛という常識外れの力の前では、これまでのどんな戦術も兵法も通用しないからだ。
結局全ての作戦の立案は、俺とソフィア、そしてダリウスに一任されることになった。
「敵の本体、魔将ヴラドは現在、陥落させた城塞都市ガレリアに留まっているようです。そこを拠点とし呪詛の範囲を、徐々に拡大させているものと推測されます」
ソフィアが地図の上に駒を置きながら、冷静に戦況を分析する。
「ならば話は早い。我々が直接ガレリアに乗り込み、ヴラドの首を獲る。それ以外に道はない」
ダリウスが簡潔に、そして力強く結論を述べた。
その意見に異論を唱える者はいなかった。
これは軍と軍がぶつかり合う総力戦ではない。
世界を救う力を持つたった一つのパーティーが、諸悪の根源である魔王軍幹部に挑む一点突破の電撃戦なのだ。
作戦は決まった。
明日、俺たちはフレアに乗り、決戦の地ガレリアへと飛ぶ。
その夜。
俺は王宮の一室で一人、窓の外に広がる王都の夜景を眺めていた。
呪いが浄化され街には再び無数の灯りが戻ってきている。その一つ一つの灯りの下に人々の暮らしがある。
(……守れるだろうか)
俺は自分の手のひらを見つめた。
この何の力も持たない、ただの掌。
だがこの手は仲間たちの力を、無限に引き出すことができる。
俺は英雄ではない。救世主でもない。
だが俺には最強の仲間たちがいる。
俺は彼女たちを信じよう。
そして彼女たちが信じてくれる俺自身を、信じよう。
俺が静かに決意を固めていた、その時だった。
王都の中央広場。
人々が奇跡の復活を祝い、ささやかな祝宴を開いていたその輪の中心。
空間がぐにゃりと歪んだ。
まるで黒いインクを水に垂らしたかのように闇の渦が生まれ、そこから一人の男が音もなく姿を現した。
漆黒の鎧。夜そのものを切り取ったかのような巨大な翼。
その場にいた誰もが、一瞬でその男の正体を理解した。
「――こんばんは、人間どもよ」
その声は広場にいる全ての者たちの脳に直接響き渡った。
「我が呪詛をこうも綺麗に浄化してくれる人間がいたとはな。少し驚いたぞ」
魔将ヴラド。
彼はたった一人で、王都のそのど真ん中に姿を現したのだ。
広場は一瞬で、歓声から絶叫へと変わった。
人々がパニックに陥り、逃げ惑う。
その光景をヴラドは、心底楽しそうに見下ろしていた。
「さて。俺の可愛いペットたちを掃除してくれたお礼参りに来たわけだが……」
彼の血のように赤い瞳が、群衆の中から正確に一つの場所を捉えた。
王宮の、俺がいる窓を。
『――どこにいる、聖人様? さあ顔を見せろ。お前と遊んでやろう』
その声は他の誰にも聞こえない。
ただ俺の脳にだけ直接響き渡った、挑戦状だった。
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