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第89話 消耗戦
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戦いは奇妙な膠着状態に陥っていた。
「死ね! なぜ死なぬ、人間が!」
上空でヴラドが狂ったように呪詛を乱射し続ける。その顔は怒りと焦りで醜く歪み、もはや魔王軍幹部としての威厳は欠片もなかった。
「……」
地上で俺はただ静かに、その全てを受け止め続ける。腕を組み、仁王立ちのまま一歩も動かない。降り注ぐ呪詛の嵐は、俺の身体に触れた瞬間、光の粒子となって霧散していく。
それはあまりにも異様な光景だった。
絶対的な攻撃が絶対的な防御の前で完全に無力化されている。
王宮のバルコニーから見ていた人々も、広場の片隅で固唾を呑んで見守っていた民衆も、もはや声も出なかった。ただ目の前で起きている神話のような一騎打ちを、呆然と見つめているだけだった。
俺の仲間たちもまた、その光景をそれぞれの思いで見守っていた。
「……すごい。リアム様は本当に、あの魔将の攻撃を全て受け止めていらっしゃる……」
セレスティアは祈るように胸の前で手を組み、その瞳を潤ませていた。
「当然よ。あれがわたしたちが選んだ男だもの」
ルナリエルは誇らしげに胸を張りながらも、その手は愛剣の柄を固く握りしめていた。いつでも俺に万が一のことがあれば飛び出せるように。
ダリウスはただ黙って戦況を冷静に見つめていた。その厳しい瞳の奥に、かつて自分が見捨てた男が今や世界の命運を背負って立っていることへの、複雑な、しかし確かな敬意が宿っていた。
「……リアムさん、すごい……。でも、なんだか見てるだけでこっちまでお腹いっぱいになっちゃいそうです……」
アイリスが少し青ざめた顔で呟いた。彼女の純粋な感覚は、俺が今どれほど膨大なエネルギーを喰らっているのかを肌で感じ取っているのだろう。
そして、ソフィアは。
彼女はその怜悧な頭脳をフル回転させ、この奇妙な戦いの本質を見抜こうとしていた。
(リアムさんのスキルは負のエネルギーを正の魔力に変換する……。つまり、ヴラドが攻撃すればするほどリアムさんの体内の魔力は増大し続ける。一方、ヴラドは呪詛を行使するために自身の魔力を消耗している……)
彼女の紫色の瞳が鋭い光を放った。
(……これは消耗戦。リアムさんは意図的にヴラドの魔力を枯渇させようとしている……! なんてクレバーな戦術……!)
その通りだった。
俺はただ耐えているだけではなかった。これは俺が仕掛けた罠だったのだ。
ヴラドを挑発して冷静さを失わせ、無駄な攻撃を繰り返させる。そうすることで彼の膨大な魔力を安全に、そして確実に削り取っていく。
物理的な攻撃力を持たない俺が、魔王軍幹部という規格外の敵を倒すための唯一にして最善の策。
「はあっ……はあっ……!」
やがてヴラドの肩が上下し始めた。彼の呼吸が乱れてきている。あれだけ無限に続くかと思われた呪詛の乱射も、その勢いは明らかに落ちてきていた。
彼の額には脂汗が浮かんでいる。魔力の枯渇。それは彼のような高位の魔族にとって死を意味する。
「な……なぜだ……。我が魔力が……尽きかけている……? こ、こんな人間一人を相手に……?」
彼はようやく、自分が嵌められた罠の正体に気づき始めた。
その一瞬の隙。
俺はそれを見逃さなかった。
俺はこれまでずっと黙していた口を、ゆっくりと開いた。
「――どうした、魔将ヴラド」
その声は広場全体に静かに、しかしはっきりと響き渡った。
「もう終わりか?」
そのあまりにも冷徹な、そして侮蔑に満ちた一言。
それがヴラドの精神を完全に破壊する最後の一撃となった。
「……だ」
彼の口から空気が漏れるような音がした。
「……だまれえええええええええええええええええええええええっ!」
彼は獣のような咆哮を上げた。そして、その身に残った最後の魔力の全てを一つの攻撃に集約させ始めた。
「小僧……! 貴様だけは……! 貴様だけはこの俺が必ず道連れにしてくれるわ……!」
彼の全身から紫黒色のオーラが竜巻のように立ち上る。空間がその膨大な魔力に耐えきれず、ミシミシと悲鳴を上げ始めた。
仲間たちの顔に緊張が走る。
「リアム! 来るわよ、奴の最後の一撃が!」
ルナリエルが叫ぶ。
「リアム様、お下がりください!」
セレスティアが俺の前に立ちはだかろうとする。
だが俺は彼女たちを手で制した。
「いや。……これは俺が受け止める」
俺はゆっくりと、前へと一歩踏み出した。
ヴラドの最後の悪あがき。その最大最強の呪詛。
それさえも俺のスキルで受け止めきれば、奴にはもう何も残らない。
戦いは最終局面を迎えようとしていた。
俺は静かにその瞬間を待った。
「死ね! なぜ死なぬ、人間が!」
上空でヴラドが狂ったように呪詛を乱射し続ける。その顔は怒りと焦りで醜く歪み、もはや魔王軍幹部としての威厳は欠片もなかった。
「……」
地上で俺はただ静かに、その全てを受け止め続ける。腕を組み、仁王立ちのまま一歩も動かない。降り注ぐ呪詛の嵐は、俺の身体に触れた瞬間、光の粒子となって霧散していく。
それはあまりにも異様な光景だった。
絶対的な攻撃が絶対的な防御の前で完全に無力化されている。
王宮のバルコニーから見ていた人々も、広場の片隅で固唾を呑んで見守っていた民衆も、もはや声も出なかった。ただ目の前で起きている神話のような一騎打ちを、呆然と見つめているだけだった。
俺の仲間たちもまた、その光景をそれぞれの思いで見守っていた。
「……すごい。リアム様は本当に、あの魔将の攻撃を全て受け止めていらっしゃる……」
セレスティアは祈るように胸の前で手を組み、その瞳を潤ませていた。
「当然よ。あれがわたしたちが選んだ男だもの」
ルナリエルは誇らしげに胸を張りながらも、その手は愛剣の柄を固く握りしめていた。いつでも俺に万が一のことがあれば飛び出せるように。
ダリウスはただ黙って戦況を冷静に見つめていた。その厳しい瞳の奥に、かつて自分が見捨てた男が今や世界の命運を背負って立っていることへの、複雑な、しかし確かな敬意が宿っていた。
「……リアムさん、すごい……。でも、なんだか見てるだけでこっちまでお腹いっぱいになっちゃいそうです……」
アイリスが少し青ざめた顔で呟いた。彼女の純粋な感覚は、俺が今どれほど膨大なエネルギーを喰らっているのかを肌で感じ取っているのだろう。
そして、ソフィアは。
彼女はその怜悧な頭脳をフル回転させ、この奇妙な戦いの本質を見抜こうとしていた。
(リアムさんのスキルは負のエネルギーを正の魔力に変換する……。つまり、ヴラドが攻撃すればするほどリアムさんの体内の魔力は増大し続ける。一方、ヴラドは呪詛を行使するために自身の魔力を消耗している……)
彼女の紫色の瞳が鋭い光を放った。
(……これは消耗戦。リアムさんは意図的にヴラドの魔力を枯渇させようとしている……! なんてクレバーな戦術……!)
その通りだった。
俺はただ耐えているだけではなかった。これは俺が仕掛けた罠だったのだ。
ヴラドを挑発して冷静さを失わせ、無駄な攻撃を繰り返させる。そうすることで彼の膨大な魔力を安全に、そして確実に削り取っていく。
物理的な攻撃力を持たない俺が、魔王軍幹部という規格外の敵を倒すための唯一にして最善の策。
「はあっ……はあっ……!」
やがてヴラドの肩が上下し始めた。彼の呼吸が乱れてきている。あれだけ無限に続くかと思われた呪詛の乱射も、その勢いは明らかに落ちてきていた。
彼の額には脂汗が浮かんでいる。魔力の枯渇。それは彼のような高位の魔族にとって死を意味する。
「な……なぜだ……。我が魔力が……尽きかけている……? こ、こんな人間一人を相手に……?」
彼はようやく、自分が嵌められた罠の正体に気づき始めた。
その一瞬の隙。
俺はそれを見逃さなかった。
俺はこれまでずっと黙していた口を、ゆっくりと開いた。
「――どうした、魔将ヴラド」
その声は広場全体に静かに、しかしはっきりと響き渡った。
「もう終わりか?」
そのあまりにも冷徹な、そして侮蔑に満ちた一言。
それがヴラドの精神を完全に破壊する最後の一撃となった。
「……だ」
彼の口から空気が漏れるような音がした。
「……だまれえええええええええええええええええええええええっ!」
彼は獣のような咆哮を上げた。そして、その身に残った最後の魔力の全てを一つの攻撃に集約させ始めた。
「小僧……! 貴様だけは……! 貴様だけはこの俺が必ず道連れにしてくれるわ……!」
彼の全身から紫黒色のオーラが竜巻のように立ち上る。空間がその膨大な魔力に耐えきれず、ミシミシと悲鳴を上げ始めた。
仲間たちの顔に緊張が走る。
「リアム! 来るわよ、奴の最後の一撃が!」
ルナリエルが叫ぶ。
「リアム様、お下がりください!」
セレスティアが俺の前に立ちはだかろうとする。
だが俺は彼女たちを手で制した。
「いや。……これは俺が受け止める」
俺はゆっくりと、前へと一歩踏み出した。
ヴラドの最後の悪あがき。その最大最強の呪詛。
それさえも俺のスキルで受け止めきれば、奴にはもう何も残らない。
戦いは最終局面を迎えようとしていた。
俺は静かにその瞬間を待った。
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