ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第50話 ざまぁイベント①

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Aランク昇格試験の報は、瞬く間に王都中を駆け巡った。
『攻略神フロンティア、ついにAランクへ挑戦!』
『試験の舞台は、前人未到の魔塔『天へと至る塔』!』
ギルドの掲示板や、街角の酒場は、その話題で持ちきりだった。多くの冒険者たちが、僕たちの挑戦を、期待と、そして少しばかりの嫉妬を込めて見守っていた。
僕たちは、そんな外の喧騒をよそに、試験までの一週間を、これまで以上に濃密な準備期間として過ごしていた。
『天へと至る塔』は、これまで僕たちが攻略してきたどのダンジョンとも性質が違う。階層ごとにギミックが変化するということは、特定の戦術だけでは通用しないということだ。僕たち三人の、総合力が試される。
「よし、見てろよ! 俺の新しい城塞は、ただ硬いだけじゃねえ!」
地下工房で、バルガスが僕たちに新しいスキルを披露していた。彼の【城塞化】は、もはやただの黄金色のドームではなかった。彼が望む場所に、望む形の『壁』として出現させることができるようになっていたのだ。
「これなら、狭い通路を塞ぐことも、味方をピンポイントで守ることもできる! 敵の攻撃に合わせて、瞬時に防壁を築いてみせるぜ!」
それは、彼の絶え間ない鍛錬と、僕たちの戦闘経験がもたらした、スキルの進化だった。
「私も、負けていられないわ」
庭では、リリアナが複雑に配置された障害物の間を、【縮地】で舞うように移動する訓練を繰り返していた。それは、ただ速く移動するだけではない。空中で姿勢を制御し、三次元的な動きで敵を翻弄するための、高度な訓練だった。
「ユキナガの指示は、時に立体的な動きを要求する。それに応えるためには、私の身体能力も、もっと高めないと」
彼女の眼差しは、真剣そのものだった。
僕もまた、図書館の禁書庫で得た知識を基に、『天へと至る塔』の各階層で予想されるギミックのシミュレーションを、脳内で何百回と繰り返していた。
力、知恵、そして絆。塔が試すという、その三つの要素。
僕たちは、その全てにおいて、万全の準備を整えようとしていた。
僕たちの力は、日々、確実に、そして飛躍的に向上していた。

試験の三日前。
僕たちの家に、またしても、招かれざる客が訪れた。
僕が書斎で文献を読んでいると、階下からバルガスの怒声と、何かを拒むようなリリアナの声が聞こえてきた。
「だから、リーダーは忙しいって言ってんだろ! とっとと帰りやがれ!」
「しつこいわね! 何度来ても、答えは同じよ!」
ただ事ではない気配に、僕は書斎からリビングへと下りていった。
そこには、僕が予想した通りの人物が、またしても、懲りずに立っていた。
勇者、アレクサンダー。
そして、彼の後ろには、聖女セシリアと、賢者グレン、戦士ヴォルフの姿もあった。
「……何の用だ。ここは、お前たちが来ていい場所じゃないはずだが」
僕は、冷たく言い放った。
アレクサンダーは、僕の言葉を無視し、僕の後ろに立つリリアナとバルガスを、侮蔑するような目で見下した。
「お前たちのような雑魚は下がっていろ。俺は、ユキナガに話がある」
その傲慢な物言いに、バルガスのこめかみが、ピクリと引きつった。
「んだと、てめえ……」
「やめろ、バルガス」
僕が、前に出ようとするバルガスを手で制した。「こいつの相手は、時間の無駄だ」
僕は、アレクサンダーに向き直った。「用件は何だ。前回の答えなら、すでに伝えたはずだが。それとも、よほど記憶力が悪いと見える」
僕の皮肉に、アレクサンダーの顔が怒りで赤く染まった。だが、彼はそれを必死に抑え込んでいるようだった。今日の彼は、以前のような単純な怒りだけではない。何か、別の、計算された目的を持ってここへ来ているのが分かった。
「……ユキナガ。お前の活躍は、聞いている」
彼は、努めて冷静な声で言った。「正直、驚いたよ。お前が、そこまでの力を隠し持っていたとはな。俺の見る目がなかったことを、認めよう」
その言葉に、後ろにいたセシリアが、わずかに安堵の表情を浮かべた。
だが、僕は知っていた。彼の謝罪など、口先だけの上っ面なものに過ぎないことを。
「だから、どうした」
「もう一度、言う」アレクサンダーは、僕の目をまっすぐに見据えた。「俺のパーティに戻ってこい。今なら、お前をNo.2の地位、軍師として迎えてやる。お前が手に入れた仲間たちも、俺のパーティの二軍としてなら、所属を許可してもいい。どうだ、悪い話ではないだろう」
その言葉は、彼なりの、最大限の譲歩のつもりなのだろう。
だが、それは、僕たちの絆とプライドを、根底から踏みにじる、究極の侮辱だった。
僕の仲間を、二軍扱いだと?
この、かけがえのない家族を、お前の駒として差し出せと?
僕の中で、これまで抑えていた怒りの感情が、静かに、しかし確実にはじけた。
だが、僕が口を開くよりも早く、僕の仲間たちが、動いた。
「……ふざけるのも、大概にしろよ」
バルガスが、地を這うような低い声で言った。彼の全身から、これまでにないほどの、純粋な怒りのオーラが立ち上っている。「俺たちのリーダーを、てめえの駒だと? 俺たちの絆を、二軍だと? 笑わせるんじゃねえぞ、勇者様よぉ」
「私たちを見くびらないで」
リリアナも、その碧眼に、燃えるような怒りの炎を宿していた。「私たちは、彼の『駒』じゃない。彼の『剣』であり、『盾』だ。あなたのような、仲間の価値も分からない人間に、私たちの誇りを汚させはしない」
二人は、僕の前に立ちはだかり、アレクサンダーを睨みつけた。
その、絶対的な忠誠心と、揺るぎない絆の強さを目の当たりにして、アレクサンダーは言葉を失った。彼は、まだ理解できていなかったのだ。僕たちが、金や地位では動かせない、魂のレベルで結ばれていることを。
僕は、そんな二人の頼もしい背中を見ながら、静かに、そして冷たく、最後通告を突きつけた。
「答えは、もう出ているはずだ、アレクサンダー」
僕は、彼の後ろにいる、かつての仲間たちに視線を送った。セシリアは、悲しそうに俯き、ヴォルフは悔しそうに拳を握り、そしてグレンは、冷たい目で僕を観察している。
「俺には、こいつらがいる。俺の力を信じ、俺と共に戦ってくれる、最高の仲間が。あんたたちのような、互いを信じることすらできない、崩壊したパーティに、俺が戻る価値など、ひとかけらもない」
僕の言葉は、事実という名の、最も鋭い刃だった。
それは、アレクサンダーだけでなく、そこにいる『サンクチュアリ』のメンバー全員の胸を、深く抉った。
「だ、黙れ……! 黙れえええええ!」
ついに、アレクサンダーの理性が、切れた。彼は、聖剣を抜き放ち、その切っ先を僕に向けた。
「ならば、力ずくで思い知らせてやる! お前たちが、所詮は俺の手の中の駒でしかないということを!」
聖剣が、まばゆい光を放つ。
だが、その光が僕たちに届くことは、決してなかった。
バルガスの巨大なミスリルの盾が、音もなく僕たちの前に出現し、その光を完全に遮断したからだ。
「言ったはずだぜ、勇者様」
盾の向こうから、バルガスの低い声が響く。「あんたは、うちのリーダーに、指一本触れることはできねえ、と」
そして、その盾の影から、銀色の閃光が飛び出した。
リリアナが、鞘から抜いたレイピアを構え、アレクサンダーの喉元、寸でのところでその切っ先を止めていた。
「これが、最後の警告よ」
彼女の瞳には、慈悲など、ひとかけらもなかった。
アレクサンダーは、生まれて初めて、自分よりも格下だと見下していた者たちから、完全な『敗北』を突きつけられた。
力の差ではない。覚悟の差。そして、絆の差。
彼は、何も言い返すことができず、ただ震える手で聖剣を下ろすことしかできなかった。
「……帰るぞ」
彼は、それだけを吐き捨てると、屈辱に顔を歪ませながら、僕たちの家から去っていった。
その後ろを、セシリアたちが、重い足取りでついていく。去り際に、グレンだけが、一度だけ僕の方を振り返った。その目には、憎悪と、そして何かを確信したかのような、不気味な光が宿っていた。
嵐が、過ぎ去った。
だが、僕たちは知っていた。
これは、終わりではない。むしろ、始まりなのだと。
僕たちと、かつての仲間たちとの、決定的な決裂。
そして、それは、僕たち『フロンティア』が、過去を完全に振り切り、天へと至る、新たなステージへと進むための、最後の儀式だったのかもしれない。
僕たちは、静かに、しかし力強く、三日後に迫った昇格試験を見据えていた。
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