ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第51話 嫉妬と憎悪の螺旋

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勇者パーティ『サンクチュアリ』の帰路は、まるで葬列のように重苦しい空気に満ちていた。
アレクサンダーは、一言も発さず、ただ前を見据えて歩いている。だが、その握りしめられた拳は、白くなるほどに力が込められ、小刻みに震えていた。彼の全身から、抑えきれないほどの屈辱と、煮え滾るような怒りのオーラが立ち上っている。
賢者グレンは、そんなアレクサンダーの背中を、冷たい観察眼で見つめていた。
(やはり、交渉は決裂したか。いや、当然の結果だ)
彼は、ユキナガの家を訪れる前から、こうなることを予測していた。ユキナガが、もはや自分たちの手の届かない存在になっていることを、グレンは誰よりも早く理解していたからだ。彼がこの訪問に同行したのは、アレクサンダーの愚かな行動の結果を、そして、ユキナガとその仲間たちの『異常性』を、自らの目で確かめるためだった。
(あのドワーフとハーフエルフ……。ユキナガへの忠誠心は、常軌を逸している。まるで、何かの魔術か、あるいは呪いによって、心を支配されているかのようだ)
グレンは、ユキナガの力が、この世界の理から外れた、禁断のものであるという確信を、さらに深めていた。
「……アレクサンダー様」
その重い沈黙を破ったのは、戦士ヴォルフだった。「今回の件は、一度、冷静になって……」
「黙れ!!」
アレクサンダーの怒声が、ヴォルフの言葉を遮った。彼は、獣のような形相で振り返ると、ヴォルフの胸ぐらを掴み上げた。
「お前もか、ヴォルフ! お前も、奴らの側に付くというのか! 俺が、間違っているとでも言いたいのか!」
「そ、そんなことは……! 俺は、ただ、パーティのことを思って……!」
「言い訳は聞きたくない! 今の俺に必要なのは、俺の言葉に、ただ黙って従う兵士だ! 意見する軍師など、一人もいらん!」
彼は、ヴォルフを突き飛ばすと、再び前を向いて歩き出した。その背中は、もはや勇者のものではなく、味方すら信じられなくなった、孤独な独裁者のそれだった。
セシリアは、その痛ましい光景を、ただ涙を堪えて見つめることしかできなかった。彼女の善意も、進言も、もはや彼には届かない。パーティは、確実に、破滅への道を突き進んでいる。

その夜、アレクサンダーは宿の自室で、一人、荒れていた。
高価な調度品を壁に投げつけ、最高級のワインを床に叩きつける。だが、そんなことをしても、彼の心の渇きは、少しも癒やされはしなかった。
彼の脳裏には、ユキナガたちの姿が、焼き付いて離れなかった。
自分を、まるで取るに足らない存在かのようにあしらった、ユキナガの冷たい目。
自分を、絶対的な忠誠心で守ろうとした、リリアナとバルガスの姿。
そして、彼らの間に流れる、自分が決して手に入れることのできない、揺るぎない絆。
「なぜだ……」
彼の唇から、呻き声が漏れた。
「なぜ、俺ではなく、あいつなのだ……」
嫉妬。
その、醜く、そして抗いがたい感情が、彼の魂を根こそぎ喰らい尽くしていく。
彼は、神に選ばれた勇者だ。この世界で、最も優れた存在であるはずだった。それなのに、なぜ、ハズレスキル持ちの、荷物持ちだった男に、全てを奪われなければならないのか。
名声も、実力も、そして、仲間からの信頼さえも。
「ユキナガ……」
彼は、その名を、まるで呪いの言葉のように何度も繰り返した。
憎い。
あの男の、全てが憎い。
あの男が笑うことも、あの男が仲間と語らうことも、あの男が存在すること自体が、許せない。
(あいつを、引きずり下ろさなければ)
(あいつの全てを、破壊しなければ)
(あいつが手に入れたものを、全て奪い取らなければ)
彼の心の中で、どす黒い憎悪の感情が、螺旋を描きながら、際限なく増幅していく。
彼は、窓から、王都の北方にそびえる『天へと至る塔』を睨みつけた。
「……Aランク昇格試験、だと?」
彼は、嘲るように呟いた。「面白い。ちょうどいい舞台じゃないか」
彼の脳裏に、一つの、邪悪な計画が浮かび上がった。
「お前の晴れ舞台を、地獄に変えてやる、ユキナガ。お前が、最も輝くはずのその場所で、お前の全てを叩き潰し、絶望の底へと突き落としてやる……」
アレクサンダーの口元に、狂気の笑みが浮かんだ。
それは、もはやライバルへの対抗心などではない。ただ、一人の人間を破滅させることだけを目的とした、純粋な悪意の塊だった。
彼は、自分の権力と、そして勇者という地位を利用して、ユキナガの昇格試験を妨害するための、卑劣な罠を仕掛けることを決意した。
その罠が、いずれ自分自身をも破滅させる、愚かな選択であることに、憎悪に囚われた彼は、もはや気づくことすらできなかった。

アレクサンダーが、破滅への階段を転がり落ちている頃。
僕たちの家では、試験に向けた最後の準備が、着々と進んでいた。
リビングの大きなテーブルには、『天へと至る塔』に関する、あらゆる資料が広げられている。
「第一階層から第五階層までは、ゴブリンやオークといった、物量で押してくるタイプの敵が主だ。ここは、バルガスの城塞で道を塞ぎ、リリアナが一体ずつ確実に処理していくのが、最も効率がいいだろう」
僕は、脳内で組み立てた戦術を、二人に説明していた。
「第六階層から第十階層は、アンデッド地帯。浄化系の攻撃が有効だが、俺たちはその手のスキルを持っていない。だが、この古文書によれば、この階層には、古代の浄化トラップがいくつか設置されているらしい。それを逆に利用して、戦闘そのものを回避する」
「へへっ、面白え! 罠を利用して、敵を倒すってわけか!」
バルガスが、楽しそうに笑う。
「第十一階層以降は、完全に未知の領域だ。だが、どんなギミックが来ようと、俺の【地図化】があれば、必ず突破口は見つかる」
僕の言葉に、二人は力強く頷いた。僕たちの間には、もはや不安など微塵もなかった。あるのは、未知への挑戦に対する、高揚感だけだ。
「よし。基本的な戦略はこんなところだ。あとは、現場での臨機応応変に対応する」
僕がそう言って、地図をたたもうとした時。
「……ユキナガ」
リリアナが、少しだけ真剣な顔つきで、僕の名前を呼んだ。
「あの人……勇者アレクサンダーのことだけど。本当に、大丈夫かしら。彼の最後の目は、ただでは済まさない、という強い意志を感じたわ」
彼女は、アレクサンダーが何かを仕掛けてくることを、懸念しているようだった。
「ああ、何かしてくるだろうな」
僕は、あっさりとそれを認めた。「だが、心配する必要はない。どんな妨害があろうと、俺たちの前では、意味をなさないからだ」
僕は、窓の外にそびえる塔を見上げた。
「俺たちが見ているのは、もはやあいつじゃない。あの塔の、さらにその先だ」
僕の視線の先にあるのは、個人的な確執などという、小さなものではなかった。
世界の理。そして、僕たちが進むべき、未来。
その大きな目標の前では、アレクサンダーの嫉妬や憎悪など、取るに足らない、些細な障害でしかない。
僕たちは、もう、同じステージにはいないのだ。
その絶対的な自信が、僕の言葉に力を与え、リリアナとバルガスの不安を、完全に払拭した。
「そうだな! あんな奴のこと、気にしてるだけ時間の無駄だぜ!」
「ええ、そうね。私たちの敵は、あの塔だけよ」
三人の心は、再び、天へと続く一つの道を、真っ直ぐに見据えていた。
アレクサンダーが仕掛けるであろう、卑劣な罠の存在など、まるで意に介さずに。
僕たちの物語は、彼のちっぽけな復讐劇を、はるかに超えた場所で、進み始めていた。
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