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第82話:砂漠の海と太陽のピラミッド
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フロンティア号の船長室は僕たちの新たな作戦司令部となっていた。
壁には僕が作成した新大陸の不完全な地図が大きく張り出されている。その地図の中心には先日攻略した『蛇神の神殿』が記され、そこからいくつかの線が未知なる領域へと伸びていた。
「次の目的地はここだ」
僕は地図の南方を指差した。そこは広大な砂漠地帯として描かれている。「俺の【地図化】スキルがこの砂漠の中心に蛇神の神殿と同等、あるいはそれ以上の規模を持つ古代遺跡の存在を捉えている」
『混沌の核』を手に入れたことで僕のスキルは旧大陸の理だけでなく、この新大陸の理にも感応できるようになった。そのおかげで以前よりも格段に精度高く古代遺跡の場所を特定できるのだ。
「砂漠か。ジャングルとはまた違った地獄が待ってそうだな」
バルガスが新しく打ち直したウォーハンマーの柄を握りしめながらにやりと笑った。彼の瞳には困難な挑戦への喜びが燃えている。
「でもどんな場所でもユキナガの地図があれば大丈夫。そうでしょ?」
リリアナもまた絶対的な信頼を込めた眼差しで僕を見つめていた。
僕たちの間にはもはや言葉による確認は不要だった。僕が道を示し、二人がそれを切り開く。その揺るぎない信頼関係こそが僕たち『フロンティア』の力の源泉だった。
「ああ。だが油断はするな。この大陸は俺たちの常識が通用しない場所だ」
僕は気を引き締めるように言った。「目的地は『太陽のピラミッド』と仮称する。そこに眠る新たな『世界の設計図』の断片を俺たちは手に入れる」
僕の宣言と共にフロンティア号は再び錨を上げ、新たな目的地へと向かって南の海へと舵を切った。
砂漠地帯への航海は比較的穏やかだった。
だがその道中で僕たちが目にする光景は旧大陸の常識を次々と覆していくものだった。
空には巨大なエイのような生き物がまるで帆船のように優雅に風に乗って泳いでいる。海面からは七色に輝くイルカの群れが飛び跳ね、僕たちの船を先導するかのようにしばらくの間並走していった。
「すげえ……。こいつはとんでもねえ世界に来ちまったもんだぜ」
バルガスは甲板の手すりに身を乗り出し、子供のようにはしゃいでいた。
この大陸の生態系はアルケイアのシステムによる干渉を受けていない原初の姿を保っているのだろう。そこには効率や法則性ではない、混沌としたしかし圧倒的な生命の躍動があった。
僕たちは航海の合間もそれぞれの鍛錬を怠らなかった。
バルガスは船の工房で砂漠の灼熱に対応するための特殊な冷却装置の開発に取り組んでいた。リリアナは旧大陸から持ってきた錬金術の知識と新大陸で手に入れた未知の植物を組み合わせ、新しいポーションの精製を試みている。僕は蛇神から得た混沌の理と僕が持つシステムの知識を融合させるべく、瞑想とシミュレーションを繰り返していた。
僕たちはただの冒険者ではない。
未知の世界を探求し、その理を解き明かし、そして適応していく探求者のチームだった。
一週間後、僕たちの目の前に目的地の海岸線が姿を現した。
そこは緑豊かなジャングルとは全く違う、見渡す限りの黄金色の砂丘がどこまでも続く灼熱の世界だった。陽炎が立ち上り、空間そのものが歪んで見える。
「……ジャングルの方がまだマシだったかもしれねえな」
バルガスがそのあまりの過酷な光景にうんざりしたように呟いた。
僕たちはフロンティア号を安全な入り江に隠すと万全の準備を整えて、その砂漠の海へと足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れた瞬間、灼熱の空気がまるで燃える毛布のように全身を包み込んだ。呼吸をするだけで喉が焼けるようだ。
だが僕たちは怯まなかった。
「よし、こいつの出番だな!」
バルガスが背負っていた機械装置のスイッチを入れた。ドワーフの技術の粋を集めたその冷却装置は僕たちの周囲にひんやりとした冷気のバリアを張り、灼熱の空気から僕たちを守ってくれた。
「私の水分補給ポーションも飲んで。体の中から熱を奪ってくれるわ」
リリアナが青い液体の入った小瓶を僕たちに手渡す。
僕たちは互いの知識と技術でこの過酷な環境を克服していく。
僕の【地図化】スキルはこの広大な砂漠の中でもその真価を発揮した。砂丘の形状、風紋のパターン、そして砂の奥深くに眠る岩盤の構造。その全てを読み解き比較的足場が安定していて日差しを避けられる岩陰が多い最も安全なルートを導き出す。
だがこの砂漠の本当の脅威は環境だけではなかった。
僕たちが巨大な岩場を通り過ぎようとした時だった。
突如として僕たちの足元の砂が巨大な渦を巻いて陥没した。
「なっ!?」
その陥没の中心から巨大なハサミを振りかざし、禍々しい毒針を持つ尾を鎌首のように持ち上げた巨大なサソリが姿を現した。
体長は五メートル以上。その甲殻は砂漠の砂と同じ色をしており完全に擬態していた。
「サンドリーパーだ! Aランク級のモンスターよ!」
リリアナが即座にその正体を見抜いて叫んだ。
サンドリーパーは甲高い威嚇音を発すると、その巨大なハサミで僕たちに襲いかかってきた。
「バルガス、正面を抑えろ!」
「応!」
バルガスが大盾を構えてその攻撃を受け止める。だがサンドリーパーの力は凄まじく、彼の巨体ですら数メートルも押し込まれた。
「こいつ、硬え! 俺の槌でも甲殻を砕けるかどうか……!」
その時、僕はすでに敵の弱点を見抜いていた。
僕の脳内マップにはサンドリーパーの振動を感知する器官の位置が赤い光点となって表示されていた。ヤツは視覚ではなく砂の振動で獲物の位置を正確に把握しているのだ。
そしてその甲殻には関節部分にほんのわずかな隙間が存在した。
「リリアナ!」
僕は叫んだ。「ヤツの注意はバルガスに向いている! お前はヤツの背後に回り込み、尻尾の付け根、第三関節の隙間を狙え! そこが神経系の集中する唯一の急所だ!」
「分かったわ!」
リリアナは灼熱の砂を蹴って幻のようにその姿を消した。そして次の瞬間にはサンドリーパーの巨大な背後に音もなく出現していた。
彼女のレイピアは僕が指示した針の穴のような隙間を寸分の狂いもなく貫いた。
『ギシャアアアアアアアアアアア!』
サンドリーパーはこれまでに聞いたこともないような甲高い絶叫を上げた。その巨体は痙攣するように激しく震え、やて力なく砂の上へと崩れ落ちた。
僕たちの完璧な連携による一瞬の勝利だった。
数日間に及ぶ過酷な砂漠の旅。
僕たちは何度も危険な原生生物に襲われ、灼熱の太陽と喉の渇きに苦しめられた。
だが僕たちの心は一度として折れることはなかった。
そしてついにその日は訪れた。
砂嵐が過ぎ去った朝、地平線の彼方に陽炎に揺らめきながらも一つの巨大な影がその姿を現したのだ。
それは天を突くようにそびえる巨大な四角錐。
太陽の光を浴びてその表面がまるで黄金のようにまばゆい輝きを放っている。
「……見つけた」
僕は静かに呟いた。「『太陽のピラミッド』だ」
僕たちの新大陸での第二の試練の舞台。
そこに一体どんな謎が、どんな『世界の設計図』の断片が眠っているのか。
僕たち三人はその荘厳で、そしてどこか不吉な影を決意に満ちた瞳で見つめていた。
僕たちの冒険はまた一つ新たな、そしてより深遠な扉の前にたどり着いたのだ。
壁には僕が作成した新大陸の不完全な地図が大きく張り出されている。その地図の中心には先日攻略した『蛇神の神殿』が記され、そこからいくつかの線が未知なる領域へと伸びていた。
「次の目的地はここだ」
僕は地図の南方を指差した。そこは広大な砂漠地帯として描かれている。「俺の【地図化】スキルがこの砂漠の中心に蛇神の神殿と同等、あるいはそれ以上の規模を持つ古代遺跡の存在を捉えている」
『混沌の核』を手に入れたことで僕のスキルは旧大陸の理だけでなく、この新大陸の理にも感応できるようになった。そのおかげで以前よりも格段に精度高く古代遺跡の場所を特定できるのだ。
「砂漠か。ジャングルとはまた違った地獄が待ってそうだな」
バルガスが新しく打ち直したウォーハンマーの柄を握りしめながらにやりと笑った。彼の瞳には困難な挑戦への喜びが燃えている。
「でもどんな場所でもユキナガの地図があれば大丈夫。そうでしょ?」
リリアナもまた絶対的な信頼を込めた眼差しで僕を見つめていた。
僕たちの間にはもはや言葉による確認は不要だった。僕が道を示し、二人がそれを切り開く。その揺るぎない信頼関係こそが僕たち『フロンティア』の力の源泉だった。
「ああ。だが油断はするな。この大陸は俺たちの常識が通用しない場所だ」
僕は気を引き締めるように言った。「目的地は『太陽のピラミッド』と仮称する。そこに眠る新たな『世界の設計図』の断片を俺たちは手に入れる」
僕の宣言と共にフロンティア号は再び錨を上げ、新たな目的地へと向かって南の海へと舵を切った。
砂漠地帯への航海は比較的穏やかだった。
だがその道中で僕たちが目にする光景は旧大陸の常識を次々と覆していくものだった。
空には巨大なエイのような生き物がまるで帆船のように優雅に風に乗って泳いでいる。海面からは七色に輝くイルカの群れが飛び跳ね、僕たちの船を先導するかのようにしばらくの間並走していった。
「すげえ……。こいつはとんでもねえ世界に来ちまったもんだぜ」
バルガスは甲板の手すりに身を乗り出し、子供のようにはしゃいでいた。
この大陸の生態系はアルケイアのシステムによる干渉を受けていない原初の姿を保っているのだろう。そこには効率や法則性ではない、混沌としたしかし圧倒的な生命の躍動があった。
僕たちは航海の合間もそれぞれの鍛錬を怠らなかった。
バルガスは船の工房で砂漠の灼熱に対応するための特殊な冷却装置の開発に取り組んでいた。リリアナは旧大陸から持ってきた錬金術の知識と新大陸で手に入れた未知の植物を組み合わせ、新しいポーションの精製を試みている。僕は蛇神から得た混沌の理と僕が持つシステムの知識を融合させるべく、瞑想とシミュレーションを繰り返していた。
僕たちはただの冒険者ではない。
未知の世界を探求し、その理を解き明かし、そして適応していく探求者のチームだった。
一週間後、僕たちの目の前に目的地の海岸線が姿を現した。
そこは緑豊かなジャングルとは全く違う、見渡す限りの黄金色の砂丘がどこまでも続く灼熱の世界だった。陽炎が立ち上り、空間そのものが歪んで見える。
「……ジャングルの方がまだマシだったかもしれねえな」
バルガスがそのあまりの過酷な光景にうんざりしたように呟いた。
僕たちはフロンティア号を安全な入り江に隠すと万全の準備を整えて、その砂漠の海へと足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れた瞬間、灼熱の空気がまるで燃える毛布のように全身を包み込んだ。呼吸をするだけで喉が焼けるようだ。
だが僕たちは怯まなかった。
「よし、こいつの出番だな!」
バルガスが背負っていた機械装置のスイッチを入れた。ドワーフの技術の粋を集めたその冷却装置は僕たちの周囲にひんやりとした冷気のバリアを張り、灼熱の空気から僕たちを守ってくれた。
「私の水分補給ポーションも飲んで。体の中から熱を奪ってくれるわ」
リリアナが青い液体の入った小瓶を僕たちに手渡す。
僕たちは互いの知識と技術でこの過酷な環境を克服していく。
僕の【地図化】スキルはこの広大な砂漠の中でもその真価を発揮した。砂丘の形状、風紋のパターン、そして砂の奥深くに眠る岩盤の構造。その全てを読み解き比較的足場が安定していて日差しを避けられる岩陰が多い最も安全なルートを導き出す。
だがこの砂漠の本当の脅威は環境だけではなかった。
僕たちが巨大な岩場を通り過ぎようとした時だった。
突如として僕たちの足元の砂が巨大な渦を巻いて陥没した。
「なっ!?」
その陥没の中心から巨大なハサミを振りかざし、禍々しい毒針を持つ尾を鎌首のように持ち上げた巨大なサソリが姿を現した。
体長は五メートル以上。その甲殻は砂漠の砂と同じ色をしており完全に擬態していた。
「サンドリーパーだ! Aランク級のモンスターよ!」
リリアナが即座にその正体を見抜いて叫んだ。
サンドリーパーは甲高い威嚇音を発すると、その巨大なハサミで僕たちに襲いかかってきた。
「バルガス、正面を抑えろ!」
「応!」
バルガスが大盾を構えてその攻撃を受け止める。だがサンドリーパーの力は凄まじく、彼の巨体ですら数メートルも押し込まれた。
「こいつ、硬え! 俺の槌でも甲殻を砕けるかどうか……!」
その時、僕はすでに敵の弱点を見抜いていた。
僕の脳内マップにはサンドリーパーの振動を感知する器官の位置が赤い光点となって表示されていた。ヤツは視覚ではなく砂の振動で獲物の位置を正確に把握しているのだ。
そしてその甲殻には関節部分にほんのわずかな隙間が存在した。
「リリアナ!」
僕は叫んだ。「ヤツの注意はバルガスに向いている! お前はヤツの背後に回り込み、尻尾の付け根、第三関節の隙間を狙え! そこが神経系の集中する唯一の急所だ!」
「分かったわ!」
リリアナは灼熱の砂を蹴って幻のようにその姿を消した。そして次の瞬間にはサンドリーパーの巨大な背後に音もなく出現していた。
彼女のレイピアは僕が指示した針の穴のような隙間を寸分の狂いもなく貫いた。
『ギシャアアアアアアアアアアア!』
サンドリーパーはこれまでに聞いたこともないような甲高い絶叫を上げた。その巨体は痙攣するように激しく震え、やて力なく砂の上へと崩れ落ちた。
僕たちの完璧な連携による一瞬の勝利だった。
数日間に及ぶ過酷な砂漠の旅。
僕たちは何度も危険な原生生物に襲われ、灼熱の太陽と喉の渇きに苦しめられた。
だが僕たちの心は一度として折れることはなかった。
そしてついにその日は訪れた。
砂嵐が過ぎ去った朝、地平線の彼方に陽炎に揺らめきながらも一つの巨大な影がその姿を現したのだ。
それは天を突くようにそびえる巨大な四角錐。
太陽の光を浴びてその表面がまるで黄金のようにまばゆい輝きを放っている。
「……見つけた」
僕は静かに呟いた。「『太陽のピラミッド』だ」
僕たちの新大陸での第二の試練の舞台。
そこに一体どんな謎が、どんな『世界の設計図』の断片が眠っているのか。
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