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第87話 故郷への帰還と最後の戦場
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フロンティア号は嵐の海を、そして穏やかな海をひたすら東へと進み続けた。
僕たちの船旅は、もはや探検や冒aventではない。それは刻一刻と崩壊へと向かう故郷を救うための、時間との戦いだった。
船上での僕たちの日常は、これまで以上に濃密なものとなった。
バルガスは新大陸で得た未知の金属とドワーフの秘術を組み合わせ、僕たち三人のための最終決戦用の装備を昼夜を問わず打ち続けていた。その槌音は、まるで決戦の時を刻む時計の秒針のように船上に響き渡っていた。
リリアナは混沌の核と光の種、二つの相反するエネルギーを錬金術の知識を用いて調合し、僕たちの力を一時的に増幅させる究極の霊薬の精製に挑んでいた。失敗すれば船ごと吹き飛びかねない危険な試み。だが、彼女の瞳に迷いはなかった。
そして僕は瞑想の中で、僕の新たな力『ワールド・ルーラー』の完全な制御を目指していた。世界のソースコードに干渉する力はあまりにも強大で、そして諸刃の剣だ。その力を世界を救うために正しく、そして最大限に振るうための精神的な修練。
僕たち三人は言葉を交わさずとも、一つの同じ目標に向かって己の限界を超えようとしていた。
僕たちの絆は、もはや仲間や家族という言葉ですら生ぬるい。
僕たちは一つの魂を分かち合った、三位一体の存在となっていた。
数ヶ月に及ぶ長い航海の末。
僕たちの目の前に、懐かしい旧大陸の海岸線が再びその姿を現した。
だが、その光景は僕たちの記憶にある緑豊かで穏やかな故郷の姿ではなかった。
空は不吉な紫色の瘴気に覆われ、大地はまるで病に侵されたかのようにその活力を失っている。港町は閑散とし、行き交う人々の顔には深い不安と絶望の色が浮かんでいた。
世界の『染み』は僕たちの想像以上に深く、そして広く、この大陸を蝕んでいた。
僕たちは言葉もなく、その変わり果てた故郷の姿を見つめていた。
「……ひでえもんだな」
バルガスが低い声で呟いた。「俺たちがいない間に、こんなことになっちまっていたとは」
「いいえ。私たちがこの危機を招いたのかもしれない」
リリアナが静かに、しかし自責の念を込めて言った。「私たちがダンジョンを攻略し、世界の『楔』を緩めてしまったのかもしれないから」
彼女の言う通りかもしれなかった。僕たちの英雄譚の裏側で、世界は静かに破滅へのカウントダウンを進めていたのだ。
「……感傷に浸っている暇はない」
僕は二人に告げた。「俺たちがやるべきことはただ一つだ。この歪んでしまった物語を、俺たちの手で正しい結末へと導く」
僕の決意に、二人は力強く頷いた。
フロンティア号は王都の港へと静かに入港した。
王都の空気は澱んでいた。
かつての活気は鳴りを潜め、街全体が見えない脅威に怯えるように息を潜めている。
僕たちがギルドに足を踏み入れると、そこにいた冒険者たちが一斉にこちらを振り向いた。その瞳には驚き、そしてまるで救世主でも見るかのような、すがるような光が宿っていた。
「……フロンティアだ!」
「帰ってきたのか! あの『攻略神』が!」
その声はあっという間にギルド中に広がり、やがて大きな歓声へと変わっていった。
絶望に沈んでいた人々の心に、僕たちの帰還が一つのかすかな希望の光を灯したのだ。
ギルドマスターのダグラスが奥の部屋から鬼のような形相で飛び出してきた。
「ユキナガ! 生きていたか!」
彼は僕の肩をその大きな手で強く掴んだ。「一体どこで何をしていた! お前たちが去ってから、この国は、いや、この世界はもう滅茶苦茶だ!」
彼の声は悲痛な叫びだった。
僕はそんな彼に向かって、静かに告げた。
「全て分かっています。そして、その全てを終わらせるために俺たちは帰ってきた」
僕の言葉に、ダグラスは、そしてギルド中の冒険者たちは息を呑んだ。
「……俺たち『フロンティア』は、これより『天へと至る塔』の完全攻略に挑む」
僕はその場にいる全ての者たちに向かって宣言した。「これはただのダンジョン攻略ではない。この世界を蝕む『厄災』の根源を断ち切り、この星の未来を取り戻すための最後の戦いだ」
そのあまりにも壮大な宣言に、誰もが言葉を失っていた。
「どうか、俺たちにこの世界の運命を託してはもらえないだろうか」
僕が深く頭を下げると、
「当たり前だ!」
一人の若い冒険者が叫んだ。「俺たちの希望は、もうあんたたちしかいねえんだ!」
その声を皮切りに、ギルド中から僕たちを支持する力強い声が次々と上がった。
「そうだ! やってくれ、フロンティア!」
「『攻略神』の伝説を見せてくれ!」
僕たちはこの国中の、いや、世界中の人々の希望をその背中に背負うことになった。
その重圧は凄まじいものだった。だが、不思議と怖くはなかった。
僕たちはもう一人ではないのだから。
その夜、僕たちは懐かしい我が家で最後の作戦会議を開いていた。
「塔の構造は以前と変わっていない。だが、内部を満たす瘴気の濃度は比較にならないほど高まっている」
僕は脳内マップに映し出される、紫色の瘴気に覆われた塔のイメージを二人に共有した。「厄災の侵食を受けたモンスターたちは以前とは比べ物にならないほど凶暴化しているだろう。おそらく、塔のギミックそのものも、より悪意に満ちたものへと変質しているはずだ」
「へっ、上等じゃねえか」
バルガスは完成したばかりの黒光りする最終決戦用の鎧を身につけながら、不敵に笑った。「どんな敵だろうが、今の俺たちの前ではただの雑魚だ」
彼の全身を覆う鎧はただ硬いだけではない。厄災の瘴気を中和し、浄化する特殊なルーンが無数に刻まれている。
「ええ。この霊薬があれば私たちの力はさらに増幅されるわ」
リリアナもまた、完成したばかりの虹色に輝く霊薬の小瓶を静かに見つめていた。それは混沌と秩序の力を融合させた、究極のブースターアイテムだ。
そして僕の体の中では、『ワールド・ルーラー』の力が静かに、そして力強く脈打っていた。
全ての準備は整った。
僕たちはそれぞれの部屋で、最後の夜を過ごした。
僕は書斎の窓から、不吉な紫色のオーラを放つ『天へと至る塔』を静かに見上げていた。
あれが僕たちの最後の戦場。
追放されたあの日から始まった、僕の、そして僕たちの長い長い物語の終着点。
僕は静かに目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、これまでに僕たちが出会った全ての人々の顔。
そして何よりも、かけがえのない二人の仲間の笑顔。
全てを守り抜く。
そのただ一つの純粋な決意を胸に、僕は最後の夜明けを待った。
僕たち『フロンティア』の、伝説の最終章が今、始まろうとしていた。
僕たちの船旅は、もはや探検や冒aventではない。それは刻一刻と崩壊へと向かう故郷を救うための、時間との戦いだった。
船上での僕たちの日常は、これまで以上に濃密なものとなった。
バルガスは新大陸で得た未知の金属とドワーフの秘術を組み合わせ、僕たち三人のための最終決戦用の装備を昼夜を問わず打ち続けていた。その槌音は、まるで決戦の時を刻む時計の秒針のように船上に響き渡っていた。
リリアナは混沌の核と光の種、二つの相反するエネルギーを錬金術の知識を用いて調合し、僕たちの力を一時的に増幅させる究極の霊薬の精製に挑んでいた。失敗すれば船ごと吹き飛びかねない危険な試み。だが、彼女の瞳に迷いはなかった。
そして僕は瞑想の中で、僕の新たな力『ワールド・ルーラー』の完全な制御を目指していた。世界のソースコードに干渉する力はあまりにも強大で、そして諸刃の剣だ。その力を世界を救うために正しく、そして最大限に振るうための精神的な修練。
僕たち三人は言葉を交わさずとも、一つの同じ目標に向かって己の限界を超えようとしていた。
僕たちの絆は、もはや仲間や家族という言葉ですら生ぬるい。
僕たちは一つの魂を分かち合った、三位一体の存在となっていた。
数ヶ月に及ぶ長い航海の末。
僕たちの目の前に、懐かしい旧大陸の海岸線が再びその姿を現した。
だが、その光景は僕たちの記憶にある緑豊かで穏やかな故郷の姿ではなかった。
空は不吉な紫色の瘴気に覆われ、大地はまるで病に侵されたかのようにその活力を失っている。港町は閑散とし、行き交う人々の顔には深い不安と絶望の色が浮かんでいた。
世界の『染み』は僕たちの想像以上に深く、そして広く、この大陸を蝕んでいた。
僕たちは言葉もなく、その変わり果てた故郷の姿を見つめていた。
「……ひでえもんだな」
バルガスが低い声で呟いた。「俺たちがいない間に、こんなことになっちまっていたとは」
「いいえ。私たちがこの危機を招いたのかもしれない」
リリアナが静かに、しかし自責の念を込めて言った。「私たちがダンジョンを攻略し、世界の『楔』を緩めてしまったのかもしれないから」
彼女の言う通りかもしれなかった。僕たちの英雄譚の裏側で、世界は静かに破滅へのカウントダウンを進めていたのだ。
「……感傷に浸っている暇はない」
僕は二人に告げた。「俺たちがやるべきことはただ一つだ。この歪んでしまった物語を、俺たちの手で正しい結末へと導く」
僕の決意に、二人は力強く頷いた。
フロンティア号は王都の港へと静かに入港した。
王都の空気は澱んでいた。
かつての活気は鳴りを潜め、街全体が見えない脅威に怯えるように息を潜めている。
僕たちがギルドに足を踏み入れると、そこにいた冒険者たちが一斉にこちらを振り向いた。その瞳には驚き、そしてまるで救世主でも見るかのような、すがるような光が宿っていた。
「……フロンティアだ!」
「帰ってきたのか! あの『攻略神』が!」
その声はあっという間にギルド中に広がり、やがて大きな歓声へと変わっていった。
絶望に沈んでいた人々の心に、僕たちの帰還が一つのかすかな希望の光を灯したのだ。
ギルドマスターのダグラスが奥の部屋から鬼のような形相で飛び出してきた。
「ユキナガ! 生きていたか!」
彼は僕の肩をその大きな手で強く掴んだ。「一体どこで何をしていた! お前たちが去ってから、この国は、いや、この世界はもう滅茶苦茶だ!」
彼の声は悲痛な叫びだった。
僕はそんな彼に向かって、静かに告げた。
「全て分かっています。そして、その全てを終わらせるために俺たちは帰ってきた」
僕の言葉に、ダグラスは、そしてギルド中の冒険者たちは息を呑んだ。
「……俺たち『フロンティア』は、これより『天へと至る塔』の完全攻略に挑む」
僕はその場にいる全ての者たちに向かって宣言した。「これはただのダンジョン攻略ではない。この世界を蝕む『厄災』の根源を断ち切り、この星の未来を取り戻すための最後の戦いだ」
そのあまりにも壮大な宣言に、誰もが言葉を失っていた。
「どうか、俺たちにこの世界の運命を託してはもらえないだろうか」
僕が深く頭を下げると、
「当たり前だ!」
一人の若い冒険者が叫んだ。「俺たちの希望は、もうあんたたちしかいねえんだ!」
その声を皮切りに、ギルド中から僕たちを支持する力強い声が次々と上がった。
「そうだ! やってくれ、フロンティア!」
「『攻略神』の伝説を見せてくれ!」
僕たちはこの国中の、いや、世界中の人々の希望をその背中に背負うことになった。
その重圧は凄まじいものだった。だが、不思議と怖くはなかった。
僕たちはもう一人ではないのだから。
その夜、僕たちは懐かしい我が家で最後の作戦会議を開いていた。
「塔の構造は以前と変わっていない。だが、内部を満たす瘴気の濃度は比較にならないほど高まっている」
僕は脳内マップに映し出される、紫色の瘴気に覆われた塔のイメージを二人に共有した。「厄災の侵食を受けたモンスターたちは以前とは比べ物にならないほど凶暴化しているだろう。おそらく、塔のギミックそのものも、より悪意に満ちたものへと変質しているはずだ」
「へっ、上等じゃねえか」
バルガスは完成したばかりの黒光りする最終決戦用の鎧を身につけながら、不敵に笑った。「どんな敵だろうが、今の俺たちの前ではただの雑魚だ」
彼の全身を覆う鎧はただ硬いだけではない。厄災の瘴気を中和し、浄化する特殊なルーンが無数に刻まれている。
「ええ。この霊薬があれば私たちの力はさらに増幅されるわ」
リリアナもまた、完成したばかりの虹色に輝く霊薬の小瓶を静かに見つめていた。それは混沌と秩序の力を融合させた、究極のブースターアイテムだ。
そして僕の体の中では、『ワールド・ルーラー』の力が静かに、そして力強く脈打っていた。
全ての準備は整った。
僕たちはそれぞれの部屋で、最後の夜を過ごした。
僕は書斎の窓から、不吉な紫色のオーラを放つ『天へと至る塔』を静かに見上げていた。
あれが僕たちの最後の戦場。
追放されたあの日から始まった、僕の、そして僕たちの長い長い物語の終着点。
僕は静かに目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、これまでに僕たちが出会った全ての人々の顔。
そして何よりも、かけがえのない二人の仲間の笑顔。
全てを守り抜く。
そのただ一つの純粋な決意を胸に、僕は最後の夜明けを待った。
僕たち『フロンティア』の、伝説の最終章が今、始まろうとしていた。
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