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第7話 覚醒の片鱗
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「クソッ、どこだ!」
田中の焦燥に満ちた声が、ゴブリンの奇声にかき消される。リュックの中を探る彼の背中は無防備で、別のゴブリンが棍棒を振りかぶるのが見えた。もう一体が、倒れた鈴木にとどめを刺そうとナイフをきらめかせる。
死。
その生々しい実感が、健太の背筋を凍らせた。
ダメだ。このままじゃ、全員死ぬ。
サラリーマンとして培ってきたリスク回避の本能が、ここにいてはならないと警鐘を鳴らす。だが、それ以上に強い感情が、健太の心を突き動かした。目の前で人が死ぬのを見過ごせるのか?
『前に出るな』
田中の命令が頭をよぎる。しかし、その命令を下した当人が、今まさに窮地に陥っている。
怖い。足がすくむ。だが――。
健太の脳裏に、自室でスキルを検証した時の光景がフラッシュバックした。『出ろ』と念じただけで、掌に現れた缶コーヒー。あの感覚。
――ポーションを、鈴木さんの口元に!
健太は強く念じた。それは祈りに近かった。
次の瞬間、奇妙なことが起こった。
倒れている鈴木の口のすぐ横に、何もない空間から、まるで手品のように赤い液体で満たされた小瓶がぽとりと現れたのだ。
「なっ!?」
鈴木自身が一番驚いていた。しかし、彼は死の淵で掴んだ藁にすがるように、震える手でその小瓶を掴み、中身を一気に呷った。
ポーションの効果は絶大だった。深手だったはずの足の傷がみるみる塞がり、激痛が引いていく。
「うおおっ!」
回復した鈴木は雄叫びを上げ、眼前のゴブリンを渾身の力で蹴り飛ばした。即座に立ち上がり、剣を構え直す。
戦線は、一瞬にして立て直された。
「助かった、鈴木!」
田中が背後のゴブリンを叩き伏せながら叫ぶ。
「よくやった! だが、どうやってポーションを!?」
「わからん! いつの間にか、そこに!」
二人がそんなやり取りをしている間にも、健太は動いていた。
今度は、田中の背後を狙っていたゴブリンの足元に、収納していた予備の盾を出現させる。ゴブリンは予期せぬ障害物に足を取られて派手に転倒し、田中の反撃の餌食となった。
健太の介入は、ほんの些細なものだったかもしれない。だが、崩壊寸前だったパーティーの連携に、それは決定的な時間と余裕を生み出した。勢いを取り戻した田中たちは、怒涛の反撃を開始し、数分後には残りのゴブリンをすべて掃討していた。
「はぁ……はぁ……。危なかったな」
田中は荒い息をつきながら、健太の方を睨みつけた。
「おい、ポーター。今のはお前がやったのか?」
「は、はい。俺の収納から……」
健太がおずおずと答えると、田中は眉をひそめた。
「勝手な真似をしやがって。だが……まあ、助かったのは事実か。たまたまだろうが、運が良かったな」
彼は健太の手柄を認めるどころか、吐き捨てるようにそう言った。鈴木も、もう一人の仲間も、気まずそうに目をそらすだけだ。
健太は、安堵の息を吐きながらも、胸の内に冷たいものが広がるのを感じていた。
命を救ったはずなのに、感謝の言葉一つない。彼らの目に映るのは、やはり命令を無視した、ただの荷物持ちのままだった。
田中の焦燥に満ちた声が、ゴブリンの奇声にかき消される。リュックの中を探る彼の背中は無防備で、別のゴブリンが棍棒を振りかぶるのが見えた。もう一体が、倒れた鈴木にとどめを刺そうとナイフをきらめかせる。
死。
その生々しい実感が、健太の背筋を凍らせた。
ダメだ。このままじゃ、全員死ぬ。
サラリーマンとして培ってきたリスク回避の本能が、ここにいてはならないと警鐘を鳴らす。だが、それ以上に強い感情が、健太の心を突き動かした。目の前で人が死ぬのを見過ごせるのか?
『前に出るな』
田中の命令が頭をよぎる。しかし、その命令を下した当人が、今まさに窮地に陥っている。
怖い。足がすくむ。だが――。
健太の脳裏に、自室でスキルを検証した時の光景がフラッシュバックした。『出ろ』と念じただけで、掌に現れた缶コーヒー。あの感覚。
――ポーションを、鈴木さんの口元に!
健太は強く念じた。それは祈りに近かった。
次の瞬間、奇妙なことが起こった。
倒れている鈴木の口のすぐ横に、何もない空間から、まるで手品のように赤い液体で満たされた小瓶がぽとりと現れたのだ。
「なっ!?」
鈴木自身が一番驚いていた。しかし、彼は死の淵で掴んだ藁にすがるように、震える手でその小瓶を掴み、中身を一気に呷った。
ポーションの効果は絶大だった。深手だったはずの足の傷がみるみる塞がり、激痛が引いていく。
「うおおっ!」
回復した鈴木は雄叫びを上げ、眼前のゴブリンを渾身の力で蹴り飛ばした。即座に立ち上がり、剣を構え直す。
戦線は、一瞬にして立て直された。
「助かった、鈴木!」
田中が背後のゴブリンを叩き伏せながら叫ぶ。
「よくやった! だが、どうやってポーションを!?」
「わからん! いつの間にか、そこに!」
二人がそんなやり取りをしている間にも、健太は動いていた。
今度は、田中の背後を狙っていたゴブリンの足元に、収納していた予備の盾を出現させる。ゴブリンは予期せぬ障害物に足を取られて派手に転倒し、田中の反撃の餌食となった。
健太の介入は、ほんの些細なものだったかもしれない。だが、崩壊寸前だったパーティーの連携に、それは決定的な時間と余裕を生み出した。勢いを取り戻した田中たちは、怒涛の反撃を開始し、数分後には残りのゴブリンをすべて掃討していた。
「はぁ……はぁ……。危なかったな」
田中は荒い息をつきながら、健太の方を睨みつけた。
「おい、ポーター。今のはお前がやったのか?」
「は、はい。俺の収納から……」
健太がおずおずと答えると、田中は眉をひそめた。
「勝手な真似をしやがって。だが……まあ、助かったのは事実か。たまたまだろうが、運が良かったな」
彼は健太の手柄を認めるどころか、吐き捨てるようにそう言った。鈴木も、もう一人の仲間も、気まずそうに目をそらすだけだ。
健太は、安堵の息を吐きながらも、胸の内に冷たいものが広がるのを感じていた。
命を救ったはずなのに、感謝の言葉一つない。彼らの目に映るのは、やはり命令を無視した、ただの荷物持ちのままだった。
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