クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第24話 君のためのファインプレー

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球技大会当日。初夏の太陽がじりじりと照りつけるグラウンドは、クラスごとのカラフルな鉢巻きを巻いた生徒たちの熱気で満ちていた。
俺たち二年B組の鉢巻きは、鮮やかな青色だ。俺は少しだけ気恥ずかしさを感じながら、額にきつく鉢巻きを結んだ。

隣で準備運動をしながら、健太がニヤニヤと話しかけてくる。
「よお、プリンセスのお付きの騎士様。準備は万端か?」
「うるせえよ。お前もだろ」
俺がそう返すと、健太は「おうよ!」と自信満々に胸を叩いた。サッカー部の仲間たちも、健太の考えた『プリンセス雫・絶対防衛ライン』に乗り気で、士気は最高潮だ。
「月宮さんを守るためならエンヤコーラ」と、ふざけた掛け声まで聞こえてくる。

俺はコートの隅にいる雫に視線を送った。
彼女は、クラスの女子たちに混じって、不安そうな顔で屈伸運動をしていた。青い鉢巻きが、彼女の艶やかな黒髪によく映えている。
俺の視線に気づいたのか、彼女がこちらを向いた。そして、目が合うと、小さく、しかし力強く頷いてみせた。その瞳には、不安だけでなく、「頑張る」という決意の色が浮かんでいる。俺も頷き返し、拳を握って見せた。

やがて、試合開始のホイッスルが鳴り響く。
初戦の相手は、運動部が多いC組だ。開始早々、敵陣から放たれる猛烈なボールの雨に、俺たちは防戦一方を強いられた。

「うおおらあっ!」
健太が、雄叫びを上げながら敵の剛速球をキャッチする。
「ナイスキャッチ!」
「任せろ! 俺たちの守備は鉄壁だぜ!」
健太とサッカー部の仲間たちが、文字通り体を張って前衛を守り抜く。俺も、飛んでくるボールを必死で叩き落としたり、キャッチしたりと、ディフェンスに徹した。
作戦通り、敵のボールはほとんど前衛で食い止められ、後衛にいる雫たちまで届くことはない。彼女はコートの一番後ろの隅で、お守りのように胸の前で手を組み、固唾を飲んで試合の行方を見守っていた。

試合は一進一退の攻防を続けた。俺たちのクラスも、健太の強烈なアタックで何人か敵をアウトにし、徐々に流れを引き寄せ始めていた。
このままいけば、勝てるかもしれない。
クラスの一体感が高まり、応援の声も大きくなる。そんな雰囲気に、雫の表情も少しずつ和らいでいるように見えた。

その、油断が生まれた瞬間だった。

敵チームのエース、バスケ部の長身男子が、今までとは違う軌道のボールを投げてきた。
それは、俺たちの前衛の頭上を越える、高い山なりのボールだった。

「しまっ……!」
健太が叫ぶ。俺も慌てて振り返った。
そのボールの落下予測地点は、完璧だった。
ちょうど、コートの一番後ろの隅。
雫が立っている、まさにその場所だった。

スローモーションのように、ボールがゆっくりと落ちてくる。
雫は、突然自分の頭上から迫ってくるボールに、完全に体を強張らせていた。目をぎゅっと瞑り、小さな悲鳴を上げることもできず、ただその場に立ち尽くしている。
逃げろ!
そう叫びたかったが、声が出ない。
もう、間に合わない。

そう、誰もが諦めかけた、その時だった。

俺の体は、考えるより先に動いていた。
地面を強く蹴り、ボールと彼女の間に滑り込む。
そして、迫り来るボールに向かって、身を投げ出した。

ドゴッ!

鈍い音がして、ボールが俺の背中にまともに直撃した。
息が詰まるほどの、強烈な衝撃。
俺はそのままバランスを崩し、グラウンドに倒れ込んだ。

「アウトー!」
審判の無情な声が響く。

グラウンドにうつ伏せに倒れたまま、俺はぜえぜえと息を整えた。背中がジンジンと熱い。
でも、不思議と痛みは感じなかった。
守れた。
雫を、守ることができた。
その安堵感だけで、胸がいっぱいだった。

「航! 大丈夫か!?」
健太が駆け寄ってくる。
クラスメイトたちからも、「うおー!」「ナイスプレー!」という歓声と、心配する声が入り混じって聞こえてきた。
俺は「大丈夫だ」と手を上げて応え、ゆっくりと身を起こす。
そして、一番に、彼女の姿を探した。

彼女は、まだコートの隅に立ち尽くしていた。
その瞳は、信じられないものを見るように、大きく、大きく見開かれている。
そして、その瞳は、倒れている俺の姿を、ただ一点、真っ直ぐに見つめていた。
その表情には、驚きと、安堵と、そして、今まで見たことのない、熱っぽい何かが宿っているように見えた。

俺は、彼女に向かって、大丈夫だ、というかのように、ニッと笑って見せた。
そして、コートの外に出ながら、誰にも気づかれないように、小さくガッツポーズをする。
「かっこよかったぜ、航!」
外野から、健太が俺の肩を力強く叩いた。
試合は、俺がアウトになったことで流れが変わり、結局負けてしまった。
でも、俺の中に後悔はひとかけらもなかった。

俺にとっては、この試合の勝敗なんてどうでもよかった。
好きな子を守るために、身を挺する。
それは、どんな勝利よりも価値のある、最高に誇らしいファインプレーだったのだから。
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