クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第27話 お家デートのお誘い

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夏祭り。浴衣姿の雫。
その甘美な響きだけで、俺の夏休みはバラ色に輝いていた。カレンダーに大きな丸をつけ、指折り数えてその日を待つ。まるで遠足を心待ちにする小学生のようだった。

雫とのメッセージのやり取りは、夏休みに入ってさらに熱を帯びた。
朝の「おはよう」から始まり、夜の「おやすみ」まで、途切れることなく言葉を交わす。
『今日の朝ごはんはパンケーキでした』というメッセージと共に、完璧な焼き色のパンケーキの写真が送られてくる。
『うまそう! 俺はトーストだけだったのに』
『ふふん』と得意げな猫のスタンプ。
そんな他愛ない日常の報告が、会えない寂しさを埋めてくれた。

夏祭りの話も、少しずつ進んでいた。
『何時にする?』
『何着ていく?』
『金魚すくい、やりたいな』
そんな会話をするだけで、胸が高鳴ってどうにかなりそうだった。

夏休みが始まって三日目の昼下がり。
俺はクーラーの効いた自室で、ゴロゴロしながら宿題の数学の問題集と睨めっこしていた。
正直、全くやる気が出ない。雫が隣にいてくれたテスト期間が、どれだけ天国だったかを思い知らされる。
スマホがピコン、と鳴った。雫からのメッセージだ。

『宿題、進んでる?』
俺は「全く」というスタンプと共に、ため息混じりのメッセージを送った。
『数学が全然分からなくて、完全に詰んでる』
『あはは、私もです』
『雫は、テストの時あれだけできたじゃないか』
『航くんが教えてくれたからだよ。一人じゃやっぱり難しい』

そのメッセージに、俺の心臓が少しだけ跳ねた。
彼女も、俺と同じように感じてくれているのかもしれない。

そんなことを考えていると、雫からまたメッセージが届いた。
画面には「入力中…」の表示がしばらく点滅し、いつもより少しだけ長い時間が経ってから、そのメッセージは表示された。
それは、俺の予想を遥かに超える、とんでもない爆弾だった。

『あのね、もし、よかったらなんだけど……』

その前置きに、俺はゴクリと唾を飲んだ。
夏祭りの時と同じ、緊張感が漂う言い回し。
俺は身を起こし、スマホを両手でしっかりと握りしめる。

『その前に、宿題を口実に……』

心臓の音が、ドクン、ドクウンと大きくなる。
まさか。
いや、そんなはずは。

『うち、来ない?』

その三文字が表示された瞬間、俺の思考は完全に停止した。
時が止まる。
蝉の声も、クーラーの音も、何も聞こえない。
俺の目には、ただその破壊力抜群の三文字だけが、巨大な活字となって映っていた。

うち、来ない?

俺は、その文章を何度も何度も読み返した。誤字じゃないか。何かの間違いじゃないか。
だが、どう読んでも、それは月宮雫の家への招待状だった。
学校でも、カフェでもない。彼女のプライベートな空間へ。

「…………っ!」

俺は声にならない叫びを上げ、ベッドに突っ伏した。
なんだこれは。どういうことだ。
これは、いわゆる「お家デート」というやつではないのか。
夏祭りの前に、そんな超弩級のイベントが待っているなんて聞いていない。
心臓が、もう持たない。

俺は深呼吸を繰り返し、なんとか平静を取り戻そうと試みた。
落ち着け、相田航。これはただの勉強会だ。「宿題を口実に」と書いてあるじゃないか。
そうだ。これはデートじゃない。健全な勉強会なんだ。
そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、別の妄想が頭をもたげてくる。
雫の部屋は、どんな感じなんだろう。
彼女の私服姿、また見れるのか。
もしかして、ご両親に挨拶とかしちゃったりするのか!?

思考が暴走し、一人でパニックになっていると、スマホが再び震えた。
雫からの追撃メッセージだ。

『もちろん、迷惑だったら、全然断ってくれていいから! ごめんね、変なこと言って』

そのメッセージには、慌ててしゅんとしているウサギのスタンプが添えられていた。
俺の返事がないから、不安にさせてしまったのだ。
俺は、自分の愚かさを呪った。

何をためらっているんだ。
こんな、またとないチャンスを逃すつもりか。
俺は、震える指で、人生で最も力強い一言を打ち込んだ。

『行く』

たった二文字。
でも、その二文字に、俺の全ての決意と、興奮と、喜びを詰め込んだ。

送信ボタンを押すと、すぐに既読がついた。
そして、返ってきたのは満開の花火が打ち上がるスタンプと、短い一言だった。

『やった!』

その無邪気な喜びように、俺の心は完全に溶かされた。
ああ、もう。
この子の前では、俺の理性など無力なのだ。

その後はトントン拍子で話が進んだ。
日時は、明後日の午後。
彼女の家の最寄駅で待ち合わせをすることになった。

電話を切り、俺は再びベッドに倒れ込む。
天井を見上げながら、まだバクバクと鳴り響く心臓を押さえた。
夏休み、まだ始まったばかりなのに。
俺の心は、もうクライマックスを迎えていた。

月宮雫の、家。
そこは、一体どんな世界なのだろう。
俺たちの秘密の物語は、また一つ、新しい舞台へと進もうとしていた。
その先に何が待っているのか、想像もつかない。
ただ、とてつもなく甘くて、少しだけ危険な予感が、俺の全身を駆け巡っていた。
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