33 / 100
第33話 繋いだ手と夏の夜
しおりを挟む
祭りの喧騒は、俺たちのぎこちない沈黙を優しく包み込んでくれた。
色とりどりの提灯が灯り始め、辺りは幻想的な雰囲気に包まれていく。
俺たちは、ただ人の流れに身を任せるようにゆっくりと参道を進んでいた。
隣を歩く雫は、まだ少し緊張しているのか、俯きがちに小さな歩幅でちょこちょこと歩いている。慣れない下駄が歩きにくいのだろう。時々、小さくよろけては慌てて体勢を立て直していた。
その姿がなんだか危なっかしくて、目が離せない。
俺は無意識のうちに、歩く速度を彼女に合わせていた。
人混みが、だんだんと激しくなってくる。
「うわっ」
後ろから来た子供にぶつかられて、雫の体が大きくぐらついた。
俺は咄嗟に、彼女の腕を支える。
「だ、大丈夫か?」
俺が声をかけると、彼女は驚いたように俺を見上げ、そしてこくりと頷いた。俺の手に支えられた腕が、熱を帯びているのが分かった。
このままじゃ、はぐれてしまうかもしれない。
そう思った瞬間、俺の頭の中に一つの考えが浮かんだ。
それは、あまりにも大胆で心臓が飛び出しそうなほど緊張する考えだったが、今のこの状況が俺の背中を強く押していた。
俺は、彼女の腕を支えていた手をそっと離した。
そして一度、ごくりと唾を飲み込む。
覚悟を決め、俺は自分の右手を彼女の前にそっと差し出した。
開かれた、俺の手のひら。
それは、無言の問いかけだった。
はぐれないように。
俺と、手を繋いでくれませんか、と。
雫は、俺の意図をすぐに理解したのだろう。
彼女の視線が、俺の顔と差し出された俺の手の間を、何度も何度も往復する。
その黒曜石のような瞳が、期待と戸惑い、そして恥じらいで激しく揺れていた。
夕暮れの光が、彼女の赤い頬を照らし出す。
長い、長い沈黙。
周りの喧騒が、嘘のように遠くに聞こえる。
俺は、ただ彼女の返事を待つことしかできなかった。
もし、断られたら。
そう考えただけで、心臓が冷たくなる。
だが、彼女は、ゆっくりと。
本当に、ゆっくりとした動作で自分の右手を持ち上げた。
その手は浴衣の袖に隠れて、指先だけが少しだけ見えている。
そして、その白い指先が、ためらいがちに、しかし確かに俺の手のひらへと近づいてくる。
ふわり、と。
羽のように軽い感触が、俺の掌に触れた。
彼女の小さな手が、俺の手の中にそっと収まる。
驚くほど柔らかくて、少しだけひんやりとしていて、そして驚くほどぴったりと俺の手にフィットした。
その瞬間、俺の全身を今まで感じたことのない、甘くて痺れるような感覚が駆け巡った。
俺は、その小さな手を壊れ物を扱うように、優しく、しかし離さないようにぎゅっと握りしめた。
指と指が絡み合う。
俺たちの間にあった、最後の見えない壁が取り払われたような気がした。
雫は、顔を真っ赤にして俯いてしまい、もう俺の顔を見ることができないようだった。
でも、俺の手を握り返してくる彼女の指先から、その喜びと緊張、そして俺と同じくらいの幸福感が痛いほど伝わってきた。
「……行こう」
俺は、なんとかそれだけ声を絞り出す。
そして、繋いだ手を引かれるように再び歩き出した。
さっきまで、あれほど大きく感じられた人混みが、今はもう気にならない。
繋がれた手の温もりだけが、俺の世界の全てだった。
指先から伝わる、彼女の確かな存在。
俺たちはもうただのクラスメイトじゃない。
ただ秘密を共有しているだけの関係でもない。
この繋がれた手が、それを証明してくれていた。
夏の夜。
賑やかな祭りの喧騒。
色とりどりの提灯の明かり。
そして、隣で顔を真っ赤にしながら、でもしっかりと俺の手を握り返してくれる浴衣姿の君。
これ以上の幸せが、この世にあるのだろうか。
俺は、繋いだ手の温かさを噛み締めながら心の中で、この瞬間が永遠に続けばいいと本気で願っていた。
言葉はいらなかった。
ただ、触れ合う手のひらから伝わる温もりだけで、俺たちの心は確かに一つに結ばれていたのだから。
色とりどりの提灯が灯り始め、辺りは幻想的な雰囲気に包まれていく。
俺たちは、ただ人の流れに身を任せるようにゆっくりと参道を進んでいた。
隣を歩く雫は、まだ少し緊張しているのか、俯きがちに小さな歩幅でちょこちょこと歩いている。慣れない下駄が歩きにくいのだろう。時々、小さくよろけては慌てて体勢を立て直していた。
その姿がなんだか危なっかしくて、目が離せない。
俺は無意識のうちに、歩く速度を彼女に合わせていた。
人混みが、だんだんと激しくなってくる。
「うわっ」
後ろから来た子供にぶつかられて、雫の体が大きくぐらついた。
俺は咄嗟に、彼女の腕を支える。
「だ、大丈夫か?」
俺が声をかけると、彼女は驚いたように俺を見上げ、そしてこくりと頷いた。俺の手に支えられた腕が、熱を帯びているのが分かった。
このままじゃ、はぐれてしまうかもしれない。
そう思った瞬間、俺の頭の中に一つの考えが浮かんだ。
それは、あまりにも大胆で心臓が飛び出しそうなほど緊張する考えだったが、今のこの状況が俺の背中を強く押していた。
俺は、彼女の腕を支えていた手をそっと離した。
そして一度、ごくりと唾を飲み込む。
覚悟を決め、俺は自分の右手を彼女の前にそっと差し出した。
開かれた、俺の手のひら。
それは、無言の問いかけだった。
はぐれないように。
俺と、手を繋いでくれませんか、と。
雫は、俺の意図をすぐに理解したのだろう。
彼女の視線が、俺の顔と差し出された俺の手の間を、何度も何度も往復する。
その黒曜石のような瞳が、期待と戸惑い、そして恥じらいで激しく揺れていた。
夕暮れの光が、彼女の赤い頬を照らし出す。
長い、長い沈黙。
周りの喧騒が、嘘のように遠くに聞こえる。
俺は、ただ彼女の返事を待つことしかできなかった。
もし、断られたら。
そう考えただけで、心臓が冷たくなる。
だが、彼女は、ゆっくりと。
本当に、ゆっくりとした動作で自分の右手を持ち上げた。
その手は浴衣の袖に隠れて、指先だけが少しだけ見えている。
そして、その白い指先が、ためらいがちに、しかし確かに俺の手のひらへと近づいてくる。
ふわり、と。
羽のように軽い感触が、俺の掌に触れた。
彼女の小さな手が、俺の手の中にそっと収まる。
驚くほど柔らかくて、少しだけひんやりとしていて、そして驚くほどぴったりと俺の手にフィットした。
その瞬間、俺の全身を今まで感じたことのない、甘くて痺れるような感覚が駆け巡った。
俺は、その小さな手を壊れ物を扱うように、優しく、しかし離さないようにぎゅっと握りしめた。
指と指が絡み合う。
俺たちの間にあった、最後の見えない壁が取り払われたような気がした。
雫は、顔を真っ赤にして俯いてしまい、もう俺の顔を見ることができないようだった。
でも、俺の手を握り返してくる彼女の指先から、その喜びと緊張、そして俺と同じくらいの幸福感が痛いほど伝わってきた。
「……行こう」
俺は、なんとかそれだけ声を絞り出す。
そして、繋いだ手を引かれるように再び歩き出した。
さっきまで、あれほど大きく感じられた人混みが、今はもう気にならない。
繋がれた手の温もりだけが、俺の世界の全てだった。
指先から伝わる、彼女の確かな存在。
俺たちはもうただのクラスメイトじゃない。
ただ秘密を共有しているだけの関係でもない。
この繋がれた手が、それを証明してくれていた。
夏の夜。
賑やかな祭りの喧騒。
色とりどりの提灯の明かり。
そして、隣で顔を真っ赤にしながら、でもしっかりと俺の手を握り返してくれる浴衣姿の君。
これ以上の幸せが、この世にあるのだろうか。
俺は、繋いだ手の温かさを噛み締めながら心の中で、この瞬間が永遠に続けばいいと本気で願っていた。
言葉はいらなかった。
ただ、触れ合う手のひらから伝わる温もりだけで、俺たちの心は確かに一つに結ばれていたのだから。
7
あなたにおすすめの小説
昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた
九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。
そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。
バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」
高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。
そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。
見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。
意外な共通点から意気投合する二人。
だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは――
> 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」
一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。
……翌日、学校で再会するまでは。
実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!?
オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。
10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ
桜庭かなめ
恋愛
高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。
あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。
3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2026.1.21)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている
夏見ナイ
恋愛
平凡な俺、相葉祐樹が手にしたのは、ありえないはずの超名門男子校『獅子王院学園』からの合格通知。期待を胸に入学した先は、王子様みたいなイケメンだらけの夢の空間だった!
……はずが、ある夜、同室のクールな完璧王子・橘玲が女の子であるという、学園最大の秘密を知ってしまう。
なんとこの学園、俺以外、全員が“訳アリ”の男装女子だったのだ!
秘密の「共犯者」となった俺は、慣れない男装に悩む彼女たちの唯一の相談相手に。
「祐樹の前でだけは、女の子でいられる……」
クールなイケメンたちの、俺だけに見せる甘々な素顔と猛アプローチにドキドキが止まらない!
秘密だらけで糖度120%の学園ラブコメ、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる