クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第34話 りんご飴と君の笑顔

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繋がれた手のひらから伝わる温もりが、祭りの喧騒の中で俺たち二人だけの特別な世界を作り出していた。
俺たちは、言葉少なに、しかし心は満たされたまま屋台が並ぶ参道を進んでいく。
射的、ヨーヨー釣り、かき氷。色とりどりの屋台が、俺たちの目を楽しませてくれる。

ふと、雫が俺の手をきゅっと二回、軽く握った。
それは、まるで「ねえ」と呼びかけるような可愛らしい合図だった。
俺が彼女の方を見ると、彼女はもう片方の手で、ある一点を指差していた。
その先には、真っ赤な飴でコーティングされたりんごがキラキラと輝いている屋台があった。

りんご飴。
彼女の瞳は、まるで宝石を見つけた子供のようにきらきらと輝いていた。
そういえば、彼女の好きなものは「甘いもの」だった。
俺は思わず笑みがこぼれるのを感じ、頷き返した。
「食べたいの?」
声で尋ねると、彼女はこくりと、期待に満ちた表情で力強く頷いた。

俺たちは屋台に近づき、りんご飴を一つ買った。
「ほら」
俺がそれを手渡すと、彼女は宝物を受け取るかのように両手で大切そうにそれを受け取った。そして、俺に向かって最高に嬉しそうな笑顔でぺこりとお辞儀をする。
その笑顔だけで、りんご飴代なんて安いものだと思えた。

俺たちは、少しだけ人混みを離れた神社の境内にある縁台に腰を下ろした。
隣に座っても、繋いだ手は離さないまま。それがなんだか当たり前になっているのが、嬉しくて少しだけ気恥ずかしい。

雫は、目の前のりんご飴をどうやって食べようか真剣な顔で吟味している。
大きな口を開けてかぶりつくのは、浴衣姿では少し恥ずかしいのだろう。
しばらく悩んだ後、彼女は意を決したように、小さな口で飴の表面をカリ、と少しだけかじった。

その瞬間、彼女の表情がぱあっと輝いた。
目を細め、頬を緩ませ、全身で「おいしい」を表現している。
その幸せそうな顔を見ているだけで、俺の心まで甘いもので満たされていくようだった。
俺は、自分のことなどそっちのけで、ただひたすらその光景に見入っていた。

彼女は、夢中になってりんご飴を食べ進めていく。
カリカリ、しゃりしゃり、と小さな咀嚼音が祭りの喧騒の中でやけに鮮明に聞こえた。
その無防備な姿が、愛おしくてたまらない。

彼女が、りんご飴の半分ほどを食べ終えた、その時だった。
俺は、気づいてしまった。
彼女の口元。小さな唇のほんの少しだけ右端に、赤い飴のかけらがきらりと光っているのを。

ああ、まただ。
カフェの時と同じだ。
俺の心臓が、どきり、と大きく跳ねた。
教えるべきか。でも、どうやって? 手話を使うには、繋いだ手を離さなければならない。

俺が逡巡していると、彼女が「ん?」というかのように、不思議そうな顔でこちらを見上げた。
その潤んだ瞳と目が合ってしまう。
そして、その視線の先には、赤い飴のかけらがついた少しだけ紅を差した彼女の唇。

俺の思考は完全に停止した。
理性が警鐘を鳴らしている。やめろ、相田航。カフェの二の舞になるぞ。
だが、俺の本能が、衝動が、理性の声など聞こえないと叫んでいた。
俺の体は、勝手に動いていた。

繋いでいない方の手、左手をゆっくりと持ち上げる。
そして、ためらいがちに彼女の白い頬へと伸ばしていく。
俺の突然の行動に、彼女の瞳が驚きに見開かれた。

俺の指先が、彼女の柔らかい頬にそっと触れる。
その温かさに、俺の指が少しだけ震えた。
彼女は、息を飲んで固まっている。

そして、俺の親指がゆっくりと彼女の口元へと滑っていく。
目的の、赤い飴のかけらへと。
俺はそれを、優しく拭ってやった。
指先に、甘くて少しだけ粘り気のある感触。そして、彼女の唇の信じられないほどの柔らかさがダイレクトに伝わってくる。

「……ん」

彼女の喉から、声にならない甘い吐息が漏れた。
その音に、俺の理性の最後の砦がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

近い。
あまりにも、近い。
目の前には、驚きと戸惑い、そしてどこか期待するような色を浮かべた彼女の潤んだ瞳。
少しだけ開かれた、艶やかな唇。
ふわりと香る、彼女の甘い匂い。

時間が、止まった。
世界には、俺たち二人だけしかいない。
俺は、このまま、彼女の唇に……。

そこまで考えた瞬間、遠くで鳴り響く祭囃子の大きな音が俺を現実へと引き戻した。
ハッとして、俺は慌てて彼女から手を離し、距離を取る。
「ご、ごめん! また、つい……!」
しどろもどろに謝る俺。
心臓が、今にも破裂しそうなくらい激しく暴れている。

雫は、顔を茹で蛸のように真っ赤にして完全に固まっていた。
その手には、まだ半分残ったりんご飴が握りしめられている。
彼女は、ゆっくりとそのりんご飴に視線を落とした。
そして、次の瞬間。
そのりんご飴を、まるで宝物のようにぎゅっと胸に抱きしめたのだ。

その仕草が、彼女の答えの全てだった。
嫌じゃ、なかった。
そう、思ってもいいのだろうか。

気まずいような、でもとてつもなく甘い沈黙が俺たちの間に流れる。
俺は、まだ自分の指先に残るりんご飴の甘い感触と、彼女の唇の柔らかさを忘れることができそうになかった。

夏の夜の神社の境内で。
俺たちの恋は、りんご飴よりもずっとずっと甘く、そして危険なほどに熟していく。
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