クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第33話 繋いだ手と夏の夜

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祭りの喧騒は、俺たちのぎこちない沈黙を優しく包み込んでくれた。
色とりどりの提灯が灯り始め、辺りは幻想的な雰囲気に包まれていく。
俺たちは、ただ人の流れに身を任せるようにゆっくりと参道を進んでいた。
隣を歩く雫は、まだ少し緊張しているのか、俯きがちに小さな歩幅でちょこちょこと歩いている。慣れない下駄が歩きにくいのだろう。時々、小さくよろけては慌てて体勢を立て直していた。

その姿がなんだか危なっかしくて、目が離せない。
俺は無意識のうちに、歩く速度を彼女に合わせていた。
人混みが、だんだんと激しくなってくる。
「うわっ」
後ろから来た子供にぶつかられて、雫の体が大きくぐらついた。
俺は咄嗟に、彼女の腕を支える。
「だ、大丈夫か?」
俺が声をかけると、彼女は驚いたように俺を見上げ、そしてこくりと頷いた。俺の手に支えられた腕が、熱を帯びているのが分かった。

このままじゃ、はぐれてしまうかもしれない。
そう思った瞬間、俺の頭の中に一つの考えが浮かんだ。
それは、あまりにも大胆で心臓が飛び出しそうなほど緊張する考えだったが、今のこの状況が俺の背中を強く押していた。

俺は、彼女の腕を支えていた手をそっと離した。
そして一度、ごくりと唾を飲み込む。
覚悟を決め、俺は自分の右手を彼女の前にそっと差し出した。

開かれた、俺の手のひら。
それは、無言の問いかけだった。
はぐれないように。
俺と、手を繋いでくれませんか、と。

雫は、俺の意図をすぐに理解したのだろう。
彼女の視線が、俺の顔と差し出された俺の手の間を、何度も何度も往復する。
その黒曜石のような瞳が、期待と戸惑い、そして恥じらいで激しく揺れていた。
夕暮れの光が、彼女の赤い頬を照らし出す。

長い、長い沈黙。
周りの喧騒が、嘘のように遠くに聞こえる。
俺は、ただ彼女の返事を待つことしかできなかった。
もし、断られたら。
そう考えただけで、心臓が冷たくなる。

だが、彼女は、ゆっくりと。
本当に、ゆっくりとした動作で自分の右手を持ち上げた。
その手は浴衣の袖に隠れて、指先だけが少しだけ見えている。
そして、その白い指先が、ためらいがちに、しかし確かに俺の手のひらへと近づいてくる。

ふわり、と。
羽のように軽い感触が、俺の掌に触れた。
彼女の小さな手が、俺の手の中にそっと収まる。
驚くほど柔らかくて、少しだけひんやりとしていて、そして驚くほどぴったりと俺の手にフィットした。

その瞬間、俺の全身を今まで感じたことのない、甘くて痺れるような感覚が駆け巡った。
俺は、その小さな手を壊れ物を扱うように、優しく、しかし離さないようにぎゅっと握りしめた。
指と指が絡み合う。
俺たちの間にあった、最後の見えない壁が取り払われたような気がした。

雫は、顔を真っ赤にして俯いてしまい、もう俺の顔を見ることができないようだった。
でも、俺の手を握り返してくる彼女の指先から、その喜びと緊張、そして俺と同じくらいの幸福感が痛いほど伝わってきた。

「……行こう」

俺は、なんとかそれだけ声を絞り出す。
そして、繋いだ手を引かれるように再び歩き出した。
さっきまで、あれほど大きく感じられた人混みが、今はもう気にならない。
繋がれた手の温もりだけが、俺の世界の全てだった。

指先から伝わる、彼女の確かな存在。
俺たちはもうただのクラスメイトじゃない。
ただ秘密を共有しているだけの関係でもない。
この繋がれた手が、それを証明してくれていた。

夏の夜。
賑やかな祭りの喧騒。
色とりどりの提灯の明かり。
そして、隣で顔を真っ赤にしながら、でもしっかりと俺の手を握り返してくれる浴衣姿の君。

これ以上の幸せが、この世にあるのだろうか。
俺は、繋いだ手の温かさを噛み締めながら心の中で、この瞬間が永遠に続けばいいと本気で願っていた。
言葉はいらなかった。
ただ、触れ合う手のひらから伝わる温もりだけで、俺たちの心は確かに一つに結ばれていたのだから。
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