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第54話 恋人、始めました
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夕闇に一番星が輝く丘の上で、俺たちは恋人になった。
その事実がまだどこか夢のようにふわふわとしていて、現実味がない。隣に立つ雫の顔を盗み見ると、彼女も同じ気持ちなのか、ぽうっとした表情で時々自分の頬をぺちんと軽く叩いている。その仕草が可愛すぎて、俺はまた胸が高鳴るのを感じた。
「……帰ろうか」
俺が少しだけ照れくささを隠しながら言うと、彼女はこくりと頷いた。
丘を下る緩やかな坂道。
さっき来た時とは全く違う道に見える。世界がキラキラと輝いているようだった。
二人並んで歩く。
その距離はさっきよりも、ほんの少しだけ近い。
時折、お互いの手が触れ合う。そのたびにびくりと肩を震わせ、そして顔を見合わせてはにかむ。その初々しいやり取りが、たまらなくくすぐったい。
もっと触れたい。
もっと近くにいたい。
そんな衝動が俺の心の中で渦巻いていた。
そして、それはきっと彼女も同じはずだ。
俺は意を決した。
今までの俺なら絶対にできなかったこと。
でも、今の俺はもうただのクラスメイトじゃない。
彼女の「恋人」なのだから。
俺は歩きながら、そっと自分の右手を彼女の方へと伸ばした。
そして、彼女の小さな左手に触れるか触れないかのギリギリの距離で寄り添わせる。
俺の突然の行動に雫の肩がぴくりと震えた。
彼女は驚いたように俺の顔を見上げる。その瞳には戸惑いと、そして期待の色がきらきらと揺らめいていた。
俺は彼女の目を真っ直ぐに見つめ返す。
そして、勇気を振り絞って。
その小さな手を、そっと優しく包み込むように握った。
「!」
俺の手に伝わる彼女の指先の震え。
驚くほど柔らかくて温かい。
俺の心臓が大きく力強く脈打った。
彼女は驚きに目を見開いたまま固まっていた。
でも、俺の手を振り払うことはしなかった。
俺は、その反応に勇気をもらいさらに一歩踏み出すことにした。
ただ握るだけじゃない。
俺は自分の指を彼女の指の間に、そっと滑り込ませた。
そして、絡ませる。
指と指がぴったりと隙間なく重なり合う。
恋人繋ぎ。
漫画やドラマでしか見たことのなかったその特別な繋がりが、今、俺と彼女の間に生まれた。
その瞬間、雫の顔がぼんと音を立てるように真っ赤に染まった。
彼女は耐えきれなくなったように、ぷいっと顔を背けてしまう。
でも、繋がれた手は離さない。
むしろ、さっきよりも少しだけ強く俺の指をきゅっと握り返してくれた。
その小さな、小さな力強さ。
それが彼女からの最高の「イエス」の返事だった。
俺の心は幸福感ではち切れそうだった。
繋いだ手から伝わる彼女の温もりと、ドキドキと速い鼓動。
それがどうしようもなく愛おしくて。
俺は、このままどこまでも歩いていけるような気がした。
駅までの帰り道。
俺たちはほとんど言葉を交わさなかった。
いや、言葉なんて必要なかった。
繋いだ手のひらから全ての気持ちが伝わってくる。
好きだ、という気持ち。
嬉しい、という気持ち。
幸せだ、という気持ち。
その全てが指先を通して、俺たちの心を温かく満たしていく。
駅の改札口で別れの時間が来た。
名残惜しくて、なかなか手を離すことができない。
「じゃあ、また月曜日に」
俺がなんとかそれだけ声を絞り出す。
彼女もこくりと寂しそうに頷いた。
俺たちはゆっくりと繋いでいた手を離す。
離れた手のひらが少しだけ寂しかった。
彼女は改札を通り抜け、一度だけこちらを振り返った。
そして、今日一番の最高に幸せそうな笑顔で。
小さく手を振ってくれた。
俺も少しだけぎこちなく手を振り返す。
その姿が人混みに消えていくのを、俺はいつまでも見送っていた。
一人になった帰り道。
俺はまだ彼女の温もりが残る自分の右手を見つめた。
恋人、始めました。
その言葉が頭の中で何度もこだまする。
これからどんな毎日が待っているんだろう。
どんな甘い時間が俺たちを包んでくれるんだろう。
想像するだけで自然と笑みがこぼれてきた。
家に帰り着き、自室のベッドに倒れ込む。
スマホを取り出すと、彼女からのメッセージが一件届いていた。
トーク画面を開くと、そこには短い一文と一つのスタンプが。
『今日は、ありがとうございました。夢みたいです』
そのメッセージの隣には、幸せそうな顔で雲の上をふわふわと漂っている可愛らしいヒヨコのスタンプが添えられていた。
俺は、その画面を胸に抱きしめ声にならない叫びを上げた。
夢じゃない。
これは紛れもない現実なんだ。
俺と君の、甘くて優しい恋の物語の本当の始まりなんだ。
月曜日に学校で君に会うのが、今から楽しみで仕方がない。
恋人になった君に、俺はなんて言って「おはよう」を伝えればいいのだろう。
そんな幸せな悩みに、俺はいつまでも身をよじらせていた。
その事実がまだどこか夢のようにふわふわとしていて、現実味がない。隣に立つ雫の顔を盗み見ると、彼女も同じ気持ちなのか、ぽうっとした表情で時々自分の頬をぺちんと軽く叩いている。その仕草が可愛すぎて、俺はまた胸が高鳴るのを感じた。
「……帰ろうか」
俺が少しだけ照れくささを隠しながら言うと、彼女はこくりと頷いた。
丘を下る緩やかな坂道。
さっき来た時とは全く違う道に見える。世界がキラキラと輝いているようだった。
二人並んで歩く。
その距離はさっきよりも、ほんの少しだけ近い。
時折、お互いの手が触れ合う。そのたびにびくりと肩を震わせ、そして顔を見合わせてはにかむ。その初々しいやり取りが、たまらなくくすぐったい。
もっと触れたい。
もっと近くにいたい。
そんな衝動が俺の心の中で渦巻いていた。
そして、それはきっと彼女も同じはずだ。
俺は意を決した。
今までの俺なら絶対にできなかったこと。
でも、今の俺はもうただのクラスメイトじゃない。
彼女の「恋人」なのだから。
俺は歩きながら、そっと自分の右手を彼女の方へと伸ばした。
そして、彼女の小さな左手に触れるか触れないかのギリギリの距離で寄り添わせる。
俺の突然の行動に雫の肩がぴくりと震えた。
彼女は驚いたように俺の顔を見上げる。その瞳には戸惑いと、そして期待の色がきらきらと揺らめいていた。
俺は彼女の目を真っ直ぐに見つめ返す。
そして、勇気を振り絞って。
その小さな手を、そっと優しく包み込むように握った。
「!」
俺の手に伝わる彼女の指先の震え。
驚くほど柔らかくて温かい。
俺の心臓が大きく力強く脈打った。
彼女は驚きに目を見開いたまま固まっていた。
でも、俺の手を振り払うことはしなかった。
俺は、その反応に勇気をもらいさらに一歩踏み出すことにした。
ただ握るだけじゃない。
俺は自分の指を彼女の指の間に、そっと滑り込ませた。
そして、絡ませる。
指と指がぴったりと隙間なく重なり合う。
恋人繋ぎ。
漫画やドラマでしか見たことのなかったその特別な繋がりが、今、俺と彼女の間に生まれた。
その瞬間、雫の顔がぼんと音を立てるように真っ赤に染まった。
彼女は耐えきれなくなったように、ぷいっと顔を背けてしまう。
でも、繋がれた手は離さない。
むしろ、さっきよりも少しだけ強く俺の指をきゅっと握り返してくれた。
その小さな、小さな力強さ。
それが彼女からの最高の「イエス」の返事だった。
俺の心は幸福感ではち切れそうだった。
繋いだ手から伝わる彼女の温もりと、ドキドキと速い鼓動。
それがどうしようもなく愛おしくて。
俺は、このままどこまでも歩いていけるような気がした。
駅までの帰り道。
俺たちはほとんど言葉を交わさなかった。
いや、言葉なんて必要なかった。
繋いだ手のひらから全ての気持ちが伝わってくる。
好きだ、という気持ち。
嬉しい、という気持ち。
幸せだ、という気持ち。
その全てが指先を通して、俺たちの心を温かく満たしていく。
駅の改札口で別れの時間が来た。
名残惜しくて、なかなか手を離すことができない。
「じゃあ、また月曜日に」
俺がなんとかそれだけ声を絞り出す。
彼女もこくりと寂しそうに頷いた。
俺たちはゆっくりと繋いでいた手を離す。
離れた手のひらが少しだけ寂しかった。
彼女は改札を通り抜け、一度だけこちらを振り返った。
そして、今日一番の最高に幸せそうな笑顔で。
小さく手を振ってくれた。
俺も少しだけぎこちなく手を振り返す。
その姿が人混みに消えていくのを、俺はいつまでも見送っていた。
一人になった帰り道。
俺はまだ彼女の温もりが残る自分の右手を見つめた。
恋人、始めました。
その言葉が頭の中で何度もこだまする。
これからどんな毎日が待っているんだろう。
どんな甘い時間が俺たちを包んでくれるんだろう。
想像するだけで自然と笑みがこぼれてきた。
家に帰り着き、自室のベッドに倒れ込む。
スマホを取り出すと、彼女からのメッセージが一件届いていた。
トーク画面を開くと、そこには短い一文と一つのスタンプが。
『今日は、ありがとうございました。夢みたいです』
そのメッセージの隣には、幸せそうな顔で雲の上をふわふわと漂っている可愛らしいヒヨコのスタンプが添えられていた。
俺は、その画面を胸に抱きしめ声にならない叫びを上げた。
夢じゃない。
これは紛れもない現実なんだ。
俺と君の、甘くて優しい恋の物語の本当の始まりなんだ。
月曜日に学校で君に会うのが、今から楽しみで仕方がない。
恋人になった君に、俺はなんて言って「おはよう」を伝えればいいのだろう。
そんな幸せな悩みに、俺はいつまでも身をよじらせていた。
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