クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第53話 涙と頷き

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夕闇が迫る丘の上。
俺の告白の言葉は、静かな風に溶けて消えた。
目の前の雫の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。その透明な雫が彼女の白い頬を伝っていく光景を、俺はただ息をのんで見つめていた。

終わった。
ダメだったんだ。
俺の独りよがりな想いが、彼女を困らせて泣かせてしまったんだ。
絶望が冷たい水のように、俺の心臓を浸していく。喉がカラカラに乾き、言葉が出てこない。ごめん、と謝らなければ。そう思うのに、体が石になったように動かなかった。

だが、次の瞬間。
俺の絶望は驚きへと変わった。

雫は溢れ出してくる涙を拭おうともしなかった。
その代わりに彼女は、泣きながらふわりと微笑んだのだ。
それは今まで見たどの笑顔よりも、儚くて美しくて、そしてどうしようもなく幸せそうな笑顔だった。
悲しみの涙じゃない。
これは喜びの涙なんだ。

その事実に気づいた瞬間、俺の全身から力が抜けていくのを感じた。
安堵でその場に崩れ落ちてしまいそうになるのを、必死で堪える。

雫は、俺の目を真っ直ぐに見つめ返したまま。
ゆっくりと、しかし力強く。
こくん、と一度頷いた。

そして、もう一度。
こくん、と。
まるで俺の不安を一つ一つ丁寧に取り除いてくれるかのように。
彼女は何度も頷き続けた。
声にならない「はい」という返事が、その動きから痛いほど伝わってくる。

それだけでもう俺の心は満たされていた。
十分すぎるほどの答えだった。
でも、彼女はそれだけでは足りないというかのように。
自分の気持ちを、自分の言葉でちゃんと伝えたいというかのように。
震える両手をゆっくりと胸の前に持ち上げた。

夕闇に浮かび上がる彼女の白い指先。
その指が、俺の告白に対する彼女からのアンサーを、ゆっくりと丁寧に紡ぎ始めた。

まず、自分の胸をそっと指差す。『私も』
次に、人差し指で目の前の俺を指す。『航くんのことが』
そして、最後の、一番大切な言葉。
彼女は自分の右手のひらで、涙で濡れた自分の頬を慈しむように優しく撫でた。

『好きです』

その手話は涙で震えていた。
でも、それは俺が今まで見た中で一番心のこもった、世界で一番美しい言葉だった。
俺の心に彼女の温かい想いが、洪水のように流れ込んでくる。

ああ、もう。
ダメだ。
込み上げてくる感情を、もう抑えることなんてできそうにない。

「……ありがとう」

俺は掠れた声で、なんとかそれだけを絞り出した。
そして、一歩彼女に近づく。
目の前の愛しくてたまらない、この小さな体を。
壊さないように、そっと優しく抱きしめた。

俺の腕の中で彼女の体がびくりと小さく震えた。
でも、彼女は抵抗しなかった。
代わりに、おずおずと、しかし確かに俺の背中にその小さな手を回してくれた。
そして、ぎゅっと俺のシャツを握りしめる。
俺の胸に彼女の顔が埋められ、その温かい涙が俺のシャツを濡らしていくのが分かった。

俺は彼女の髪に顔を埋めた。
シャンプーの甘い香りと彼女自身の優しい匂い。
それが俺の心をどうしようもなく安心させてくれる。

夕日が完全に地平線の向こうへと沈んだ。
空には一番星がダイヤモンドのように、きらりと輝き始めている。
世界で一番静かで、世界で一番幸せな時間が俺たち二人を優しく包み込んでいた。

どれくらいそうしていただろうか。
俺たちはどちらからともなく、ゆっくりと体を離す。
名残惜しさを感じながらも、その間にはもう何の不安もなかった。
涙の跡が残る顔で彼女は、最高に幸せそうにはにかんでいる。
その笑顔を見て俺も自然と笑みがこぼれた。

俺たちの長いようで短かった片想いは、今この瞬間、終わりを告げた。
そして、ここから始まるのだ。
世界で一番甘くて優しい恋の物語が。
俺は、目の前の俺だけの彼女の顔を心に焼き付けるように、ただじっと見つめていた。
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