クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第57話 初めての〝恋人〟デート

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親友と未来のお姉さん(仮)という名の二人の強力なサポーターを得た俺たちは、いよいよ初めての「恋人としてのデート」の日を迎えることになった。
週末の土曜日。行き先は俺がずっと前から考えていた水族館だ。薄暗くて静かで、幻想的な空間。手話で話す俺たちにとって、これ以上ない最高のデートスポットのはずだ。

待ち合わせ場所の駅前で、俺はそわそわしながら彼女の到着を待っていた。
もう告白の日のような、心臓が口から飛び出しそうなほどの緊張はない。代わりにそこにあるのは、恋人に会えるという純粋な喜びと心地よい高揚感だった。

やがて人混みの中から、見慣れた、しかし今日は世界で一番愛おしい姿が現れた。
雫だった。
白いブラウスに淡い花柄のスカート。髪は緩くサイドで編み込まれている。
その姿は相変わらず天使のように可愛らしくて、俺の心臓は一瞬で鷲掴みにされた。

「ごめん、待った?」
彼女が声にならない口の動きと、少しだけ申し訳なさそうな手話で問いかけてくる。
「ううん、俺も今来たとこ」
俺はもはやお決まりとなった嘘をつきながら、彼女に笑いかけた。
そして、ごく自然な動作で彼女の前にそっと右手を差し出す。

俺の行動に彼女は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにその意味を理解したのだろう。
彼女の頬がぽっと可愛らしいピンク色に染まった。
そして、はにかむように、しかし躊躇うことなくその小さな手を俺の手にそっと重ねてくれた。
指と指を絡ませる恋人繋ぎ。
もうこの温もりがないと、俺は一日も生きていけないかもしれない。

電車に揺られ、水族館に到着する。
一歩足を踏み入れると、ひんやりとした空気と幻想的な青い光が俺たちを包み込んだ。
頭上を優雅に泳ぐエイの影が通り過ぎていく。壁一面の巨大な水槽の中では、色とりどりの魚たちがきらきらと光の粒を撒き散らしながら乱舞していた。

「わあ……」
雫が声にならない感嘆の息を漏らした。
その瞳は子供のように純粋な輝きに満ちて、水槽の中の世界に完全に心を奪われている。
俺はそんな彼女の横顔を、ただ愛おしく見つめていた。

俺たちは繋いだ手をそのままに、ゆっくりと館内を歩き始めた。
ペンギンのコーナーでは、よちよちと歩くその姿に雫がくすくすと笑う。
クラゲのコーナーでは、光を受けてゆらゆらと漂うその幻想的な姿に二人して言葉を失った。
「綺麗だね」
俺が手話でそう伝えると、彼女はこくりと頷き、俺の肩にその小さな頭をこてんと優しく預けてきたのだ。

「!」

俺の肩に伝わる彼女の髪の柔らかさと温もり。
ふわりと香る甘いシャンプーの匂い。
突然のあまりにも可愛すぎる不意打ちに、俺の心臓は大きく跳ねた。
周りにいる他のカップルたちが、俺たちのことを微笑ましそうに見ているのが視界の端に入る。
恥ずかしい。でも、それ以上にどうしようもなく嬉しい。
俺は彼女の頭を預けられた方の肩を、少しだけ誇らしげに、しかし動かさないように必死で固まらせていた。

一番の見どころである巨大なメイン水槽の前に来た時だった。
ジンベエザメが悠然と目の前を横切っていく。その圧倒的なスケールに、周りからは感嘆の声が上がっていた。
薄暗い青い光に照らされた空間。
俺たちはただ黙って、その壮大な光景を眺めていた。
雫はまだ俺の肩に頭を預けたままだ。
その穏やかで幸せそうな寝息にも似た呼吸が、俺の首筋をくすぐる。

この時間が永遠に続けばいいのに。
俺は心の底からそう願った。
この静かで穏やかで、そして最高に幸せな時間が。

しばらくして、彼女がゆっくりと顔を上げた。
そして、俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。
その潤んだ瞳には水槽の青い光が反射して、星のようにきらめいていた。
彼女は繋いでいない方の手で、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

『航くん』
彼女が俺の名前を呼ぶ。
『今日、すごく楽しい』
そして、少しだけ間を置いて。
『ありがとう』
そう言って彼女は、今まで見た中で一番幸せそうな、とろけるような笑顔でふわりと微笑んだ。

その笑顔に俺の心は完全に溶かされた。
もう、ダメだ。
込み上げてくる愛おしさを抑えることができない。

俺は彼女の手をそっと引き寄せた。
そして、周りの視線も何もかも忘れて。
その小さな体を優しく、しかし力強く抱きしめていた。
「……っ!」
俺の腕の中で彼女の体がびくりと小さく震える。
でも、すぐにその温もりを確かめるように、俺の背中にその小さな手を回してくれた。

「俺の方こそ、ありがとう」
俺は彼女の耳元で囁くように言った。
「雫が隣にいてくれるだけで、俺は世界で一番幸せだよ」

俺の言葉に彼女は、俺の胸に顔を埋めたままこくりと小さく頷いた。
巨大な水槽の青い光が、抱き合う俺たち二人を優しく、優しく包み込んでいた。
まるで俺たちの恋を祝福してくれるかように。

初めての恋人としてのデート。
それは言葉にしなくても伝わる、たくさんの「好き」で満たされた最高に甘くて幸せな一日になった。
俺たちの物語はまだ始まったばかり。
これから二人でどんな景色を一緒に見ていくことになるのだろう。
そんな輝かしい未来への期待に、俺の胸はどうしようもなく高鳴っていた。
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