クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第58話 写真の中の二人

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水族館の青い光に包まれた甘い抱擁。
あの瞬間、俺たちの心は確かに一つになったのだと確信できた。
名残惜しさを感じながらも水族館を後にした俺たちは、繋いだ手の温もりを噛み締めながら出口へと向かっていた。

その途中、お土産物屋さんの隣に小さな写真撮影コーナーがあるのが目に入った。
背景には先ほど見たばかりの巨大な水槽のパネルが設置され、「旅の思い出に一枚いかがですか?」という可愛らしいポップが添えられている。
家族連れやカップルが、楽しそうにポーズを取って写真を撮っていた。

「……撮ってみる?」
俺がほとんど無意識のうちにそう呟いていた。
その言葉に雫がぴくりと反応する。彼女は写真コーナーを興味深そうに見つめていたが、俺の提案には少しだけ戸惑っているようだった。
人前で写真を撮られるのは、少し恥ずかしいのかもしれない。
「あ、いや、無理にしなくていいんだけど」
俺が慌てて付け加えると、彼女はふるふると首を横に振った。
そして、少しだけ迷った後、意を決したようにこくりと小さく頷いたのだ。
その瞳には恥じらいと、それから隠しきれない喜びの色がきらきらと揺めरकんでいた。

撮影ブースに入り、係員のお姉さんにスマホを渡す。
「はい、じゃあ撮りますよー! もっとくっついてくださーい!」
お姉さんの明るい声に促され、俺たちはぎこちなく肩を寄せ合った。
触れ合った肩から伝わる彼女の体温。
ふわりと香る甘いシャンプーの匂い。
心臓がまたうるさいくらいに鳴り響く。

「はい、チーズ!」

カシャッ、という軽快なシャッター音。
その瞬間、俺たちの「初めて」が一枚の写真として切り取られた。

撮影が終わり、お姉さんからスマホを受け取る。
俺たちは少しだけドキドキしながら、その画面を二人で覗き込んだ。
そこに映っていたのは、少しだけ緊張して顔が引きつっている俺と。
その隣で顔を真っ赤にしながらも、最高に幸せそうにはにかんでいる雫の姿だった。
背景の青い水槽の光が、まるで俺たちを祝福しているかのようにキラキラと輝いている。

「……なんか、俺、顔ひきつってんな」
俺が照れ隠しにそう言うと、雫はくすくすと声にならない笑い声を漏らした。
そして、スマホの画面を愛おしそうに何度も指でなぞっている。
その姿を見て、撮ってよかったと心の底から思った。

水族館を出て駅へと向かう帰り道。
俺たちは撮ったばかりの写真を何度も見返していた。
「この写真、送ってくれる?」
雫が手話でそうお願いしてくる。
「もちろん」
俺は頷き、すぐにメッセージアプリで彼女にその写真を送信した。
ピコン、と彼女のスマホが軽快な音を立てる。
彼女は送られてきた写真をすぐに保存すると、何かを思いついたようにスマホの画面を操作し始めた。

「何してるの?」
俺が尋ねると、彼女は「ううん、なんでもない」というかのように、いたずらっぽく微笑んでスマホをさっと隠してしまった。
その秘密めいた態度に、俺は少しだけ胸がざわつくのを感じた。

その日の夜。
俺は自室のベッドの上で今日のデートの余韻に浸っていた。
水族館の青い光。彼女の笑顔。繋いだ手の温もり。そして、写真の中の幸せそうな二人の姿。
その全てが宝物だった。

ふとスマホが鳴った。雫からのメッセージだ。
『今日は、本当にありがとうございました。すごく、すごく楽しかったです』
そのメッセージに俺の心は温かくなる。
『俺もだよ。また、どこか行こうな』
俺がそう返信すると、すぐに次のメッセージが届いた。

『あのね、ちょっと、見てほしいものがあるの』

そのメッセージに俺は首を傾げた。見てほしいもの?
『なに?』
俺がそう返すと、彼女から一枚の画像が送られてきた。
それはスクリーンショットの画像だった。
何の画面だろう、と目を凝らしたその瞬間。
俺は全身の血が沸騰するのを感じた。

そこに映っていたのは雫のスマホの待ち受け画面だった。
そして、その待ち受け画面に設定されていたのは。
今日、水族館で撮ったばかりの俺と彼女のツーショット写真。

「…………っ!」

俺は声にならない叫びを上げ、ベッドの上で悶えた。
なんだこれは。
可愛すぎる。
反則だ。こんなの聞いてない。
彼女が俺との写真を待ち受けにしてくれている。
それは彼女がスマホを開くたびに、一番最初に俺の顔を見るということだ。
その事実がどうしようもなく嬉しくて、そして猛烈に恥ずかしくて。
俺は枕に顔を埋めて、足をバタバタとさせた。

しばらくして、なんとか平静を取り戻した俺は震える指で返信する。
『お前、いつの間に……』
『ふふ。ダメだった?』
そのメッセージには、舌をぺろりと出したお茶目な猫のスタンプが添えられていた。
ダメなわけがない。
嬉しすぎて心臓が爆発しそうだ。

俺は少しだけ悩んだ後。
自分もスマホの待ち受け画面を、今日撮ったあの写真に変更した。
そして、そのスクリーンショットを彼女に送り返す。
『俺も、お揃いにしちゃった』

メッセージはすぐに既読になった。
そして、返ってきたのは言葉ではなかった。
ただ一つ。
幸せそうな顔で涙を流しながら、画面の中でくるくると嬉しそうに踊っているウサギのスタンプ。
そのスタンプが彼女の気持ちの全てを物語ってくれていた。

写真の中の幸せそうな二人。
それは俺たちが恋人になった確かな証。
スマホを開くたびに俺たちは、お互いの存在を、そしてこのどうしようもない幸福感を何度でも思い出すのだろう。
俺たちの恋はまた一つ、甘くてかけがえのない宝物を手に入れたのだった。
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