クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第74話 大晦日と初詣

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心温まるクリスマスパーティーから数日。街はすっかり年末年始の装いに変わり、どこか慌ただしく、そしてどこか浮き足立った空気に包まれていた。
俺と雫の恋も彼女の家族という公認サポーターを得たことで、ますますその甘さを加速させていた。
もはや俺が月宮家にお邪魔するのは、特別なイベントではなくなっていた。
「航くん、今日ヒマ? 雫が新作のアップルパイ焼いたんだけど、食べに来ない?」
そんな潮さんからのフランクすぎるお誘いに、俺は「はい、喜んで!」と二つ返事で駆けつける。そんな日々が当たり前のように続いていた。

そして、あっという間に十二月三十一日、大晦日がやってきた。
外は凍えるように寒い。俺は自室のこたつで丸くなりながら、意味もなくテレビの特番を眺めていた。
スマホがピコンと鳴る。雫からのメッセージだ。

『今、何してる?』
『こたつでミカン食べてる』
俺がそう返信すると、すぐに『私も』という返信と共に、こたつから足だけを出している可愛らしい猫のスタンプが送られてきた。
そんな離れていても同じ時間を共有しているかのようなやり取りが、どうしようもなく幸せだった。

年越しまであと数時間。
テレビの中では、華やかなカウントダウンライブが始まろうとしている。
その時、俺の頭の中に一つの考えが浮かんだ。
ダメ元で聞いてみようか。

『なあ、雫』
俺は少しだけ震える指でメッセージを打ち込んだ。
『もしよかったら、なんだけど』
『一緒に年越ししないか?』

送信した瞬間、心臓がどきりと跳ねた。
いくらなんでも急すぎるだろうか。大晦日の夜に女の子を連れ出すなんて。
俺が一人で後悔していると、すぐに既読がついた。
そして返ってきたのは、俺の予想を遥かに超える衝撃的な一文だった。

『私も今、同じこと聞こうと思ってた』

そのメッセージを見た瞬間、俺の心臓は喜びで爆発しそうになった。
以心伝心。
俺たちは同じことを同じ瞬間に考えていたのだ。
その奇跡のような事実に、俺はどうしようもないほどの愛おしさを感じていた。

そこからの展開は早かった。
俺が雫に電話をかけ、潮さんに代わってもらう。
『もしもし航くん? あけおめー! ってまだ早いわね』
『潮さん、かくかくしかじかで……』
俺が事情を話すと、潮さんは「よろしい!」と全てを理解したように快活に笑った。
「うちの親には私から上手く言っといてあげる! あんたはうちの可愛い妹をちゃんとエスコートするのよ! 分かった!?」
「は、はい!」
こうして俺たちは未来のお姉さん(仮)の全面的なバックアップのもと、二人きりで年越しをすることが正式に決定したのだった。

年越しまであと三十分。
俺は近所の神社の少し手前にある公園で、彼女の到着を待っていた。
マフラーに顔を埋め、吐く息が白い。
やがて小さな駆け足の音が聞こえてきて、目の前にもこもこの白いコートに身を包んだ愛しい姿が現れた。
「ごめん、待った?」
手話で尋ねてくる彼女に、俺は「ううん」と首を横に振る。
そして、ごく自然にその小さな手を自分のコートのポケットの中に招き入れた。
ポケットの中で、俺たちの指が固く固く絡み合う。
彼女の少しだけ冷たい指先に、俺の体温がじわりと伝わっていくのが分かった。

俺たちはスマホの画面を見ながら、二人きりのカウントダウンを始めた。
「……10、9、8……」
俺が小さな声でカウントしていく。雫も俺の口の動きに合わせて、声にならない声で一緒に数を数えていた。
「……3、2、1、ゼロ!」

その瞬間、遠くの寺からゴーンという厳かな除夜の鐘の音が響いてきた。
街のあちこちから小さな歓声が上がる。
新しい年が始まった。

「あけまして、おめでとう」
俺が言うと、彼女も最高の笑顔で手話で返してくれた。
『あけましておめでとう、航くん』
そして付け加えるように、言葉を紡ぐ。
『今年も、よろしくね』

その当たり前のようで、とてつもなく特別な言葉。
「俺の方こそ、よろしくな」
俺は繋いだ手に、少しだけ力を込めた。

俺たちは連れ立って、すぐ近くの神社へと向かった。
深夜にも関わらず、境内は初詣に訪れた人々でごった返している。
俺たちはその人波に流されないように、繋いだ手を決して離さなかった。
長い列に並び、ようやく拝殿の前へ。
二人並んで賽銭箱にお金を投げ入れ、静かに手を合わせた。

(神様)
俺は心の中で強く強く願った。
(今年もこの子が笑顔でいられますように)
(俺たちのこの幸せな時間が一日でも長く続きますように)
(そしていつか、この子と本当の家族になれますように)

隣で同じように祈りを捧げている雫も、きっと同じことを願ってくれている。
そう確信できた。

お参りを終え、おみくじを引く。
二人同時にそれを開くと。
そこには、全く同じ二文字が書かれていた。

『大吉』

俺たちは顔を見合わせた。
そして、どちらからともなく吹き出してしまった。
新年早々の奇跡のような偶然。
神様はどうやら、俺たちのことをとことん応援してくれているらしい。

おみくじを木の枝に結び、俺たちは甘酒の湯気が立ち上る屋台で温かい甘酒を買った。
白い湯気が立ち上る紙コップを二人でふーふーと冷ましながら飲む。
その優しい甘さが冷えた体にじんわりと染み渡っていく。

新しい年の始まり。
その最初の瞬間を、俺は世界で一番好きな人と一緒に迎えることができた。
これ以上の幸せがあるだろうか。
俺は隣で幸せそうに甘酒をすする彼女の横顔を、ただ愛おしく見つめていた。
この一年も間違いなく、最高の一年になる。
俺はそう固く信じていた。
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