クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

文字の大きさ
73 / 100

第73話 君の家でクリスマスパーティー

しおりを挟む
ホワイトクリスマスとなった、最高のイヴ。
あの夢のような夜から一夜明け、十二月二十五日、クリスマス当日。
俺は、昨日の余韻に浸りながら、自室でゴロゴロと過ごしていた。首には、もちろん雫が編んでくれた紺色のマフラーが巻かれている。家の中にいるというのに、外す気にはなれなかった。

そんな、穏やかな昼下がり。
俺のスマホが、軽快な着信音を鳴らした。
画面に表示された名前は、「潮さん」。
俺は、思わずベッドから飛び起きた。ラスボスからの、突然の電話。心臓が、嫌な予感を告げていた。
俺は、覚悟を決めて、通話ボタンをタップした。

「もしもし?」
「よお、航くん! メリークリスマス!」
耳元で、潮さんの太陽みたいに明るい声が爆発した。
「あ、メリークリスマス、です……」
「なあに、歯切れが悪いわねえ。さては、昨日のイヴで、うちの可愛い妹とイチャつきすぎて、まだ夢見心地ってわけ?」
その、全てを見透かしたような言葉に、俺は「そ、そんなことは……」と、しどろもどろになるしかない。

潮さんは、そんな俺の反応を楽しむように、からからと笑った。
そして、本題を切り出す。
「でね、航くん。今日の夜、予定ある?」
「え? いや、特には……」
「よろしい!」
俺の返事を聞くや否や、潮さんは有無を言わさぬ口調で、とんでもない爆弾を投下した。
「じゃあ決定! 今日の夜、うちでクリスマスパーティーするから! あんたも強制参加ね!」

「…………は?」
俺は、完全に思考が停止した。
クリスマスパーティー?
月宮家で?
俺も?
「いや、でも、俺なんかがお邪魔しちゃ悪いですし……」
「いいからいいから! うちの両親も、雫をいつも助けてくれてるっていう『航くん』に、一目会ってみたいって言ってるし!」

ご両親。
その単語を聞いた瞬間、俺の背筋を、経験したことのない悪寒が駆け抜けた。
ついに、ラスボスのさらにその奥に控える、真のラスボスたちと、エンカウントしてしまうというのか。
俺の顔から、さーっと血の気が引いていくのが分かった。

「だ、大丈夫よ! うちの親、ちょー優しいから! それに、今日のメインディッシュは、雫の手料理よ? 食べたくないなんて、言わないわよね?」
その、悪魔の囁き。
雫の、手料理。
その言葉は、俺の恐怖心を、一瞬で吹き飛ばすほどの、絶大な威力を持っていた。
俺は、ごくりと唾を飲み込み、震える声で、なんとか一言だけ絞り出した。
「……お伺い、させていただきます」

その日の夜。
俺は、デパ地下で買った、一番高そうなローストチキンを片手に、人生で最も重い足取りで、月宮家の玄関の前に立っていた。
心臓が、口から飛び出しそうだ。
インターホンを押す指が、小刻みに震えている。

ピンポーン。
軽快なチャイムの音と共に、ガチャリとドアが開いた。
「いらっしゃーい、航くん! よく来たわね!」
サンタ帽をかぶった潮さんが、満面の笑みで出迎えてくれた。
その背後から、ひょこりと、雫が顔を出す。
彼女も、小さなトナカイのカチューシャをつけていた。その、あまりの可愛さに、俺の心臓は一瞬だけ、その動きを止めた。

「ささ、入って入って!」
潮さんに促され、俺は「お、おじゃまします……」と、蚊の鳴くような声で家の中へと足を踏み入れた。
リビングに通されると、そこには、優しそうな雰囲気のご夫婦が、にこやかに立っていた。
雫のお父さんと、お母さん。
その顔立ちは、確かに、雫や潮さんとよく似ていた。

「はじめまして、航くん。いつも、娘がお世話になっています」
お父さんが、柔らかな物腰で頭を下げてくる。
「こ、こちらこそ! いつも、雫さんには、お世話になって……ます!」
俺は、ロボットのようにぎこちなく、しかし全力で頭を下げた。
「まあ、航くん、素敵な子ねえ。雫、本当に幸せそうなんですもの。ありがとうね」
お母さんが、慈愛に満ちた瞳で、俺に微笑みかける。
その、あまりにも温かい歓迎ムードに、俺が抱いていた恐怖心は、少しずつ、溶けていくのを感じた。

テーブルの上には、雫が腕を振るったであろう、豪華な料理が並んでいた。
ローストビーフ、グラタン、彩り豊かなサラダ。そして、中央には、ブッシュドノエル。
その全てが、キラキラと輝いて見えた。

「さあ、航くんも座って! メリークリスマス!」
潮さんの音頭で、俺たちはグラスを合わせた。
雫の手料理は、想像を遥かに超える、絶品だった。
一口食べるたびに、俺は「美味しいです……」と、感動の言葉を漏らすことしかできない。
そのたびに、雫は、キッチンとテーブルを行き来しながら、嬉しそうに、はにかんでいた。

食事中、ご両親から、色々なことを聞かれた。
学校のこと、部活のこと、将来の夢のこと。
それは、尋問というよりは、温かい、家族の会話だった。
俺が、雫と出会ったきっかけや、手話を覚えた経緯を話すと、お母さんは、目頭をハンカチで押さえながら、「本当に、ありがとう……」と、何度も言ってくれた。
その言葉に、俺の胸も、熱くなった。

食事が終わり、デザートのケーキを食べている時だった。
潮さんが、悪戯っぽく笑いながら、言った。
「そういえば、航くん。あんた、うちの雫の、どこが好きなわけ?」
その、ド直球な質問。
リビングの空気が、一瞬だけ、静まり返る。
全員の視線が、俺に集中した。
雫は、顔を真っ赤にして、フォークを握りしめたまま、固まっている。

俺は、少しだけ照れくさかったが、もう、隠す必要なんて何もなかった。
俺は、隣に座る雫の顔を、真っ直-ぐに見つめる。
そして、ご両親と、潮さんの前で、はっきりと、宣言した。

「全部、です」

俺の、迷いのない言葉。
「雫さんの、優しいところも、頑張り屋なところも、少しだけ頑固なところも。俺は、雫さんの全部が、大好きです」

その言葉を聞いた瞬間、雫の瞳から、また、ぽろりと、温かい涙がこぼれ落ちた。
お母さんも、もらい泣きしている。
お父さんは、黙って、しかし満足そうに、何度も頷いていた。
そして、潮さんは。
「……やるじゃない、航くん」
そう言って、今までで一番、優しい顔で、笑ってくれた。

君の家で過ごす、クリスマスパーティー。
それは、少しだけ緊張したけれど、今までで一番、温かくて、幸せなクリスマスになった。
この、温かい家族の一員に、いつか本当になれたら。
そんな、少しだけ先の未来を、俺は、本気で、夢見ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2026.1.21)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく

桜乃マヒロ
恋愛
 姉の柊和(ひより)は美人で聡明な完璧万能超人、弟の護(まもる)は優しく献身的な天然男子。高校生ながら二人暮らしの柊和と護は、お互いを支え合って日々を生きてきた。  ある日、友人である生徒会長から呼び出された柊和は、自分を次の生徒会の会長に推薦したいと打診を受ける。 「私はただ、私の後なら柊和ちゃんがいいなって、そんな風に思っただけだからね」  二人だけの閉鎖的だった日常は、生徒会をきっかけに急激な変化を迎える。新しい出会いと日常の中で、今まで眠っていた二人の過去と、片や必死に封じ込み、片や無自覚だった特別な想いに、光が射し込むことになり──? 「あくっ……護には負けない!」 「なんの話か知らないけど、宣言されたら負かせたくなるね?」  顔と心に傷として刻まれた過去に囚われ、自分よりお互いを大切にしすぎてすれ違い続ける不器用な姉弟。そんな二人の両片思いのお話。 —————————————————————————————————  面白いと思っていただけた時は、お気に入りにしていただけると、凄く励みになります!  一日一話を目標に更新中!(現在火曜・木曜・土曜お休み中) 「小説家になろう」 「カクヨム」様でも同時に投稿しています。

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
平凡な俺、相葉祐樹が手にしたのは、ありえないはずの超名門男子校『獅子王院学園』からの合格通知。期待を胸に入学した先は、王子様みたいなイケメンだらけの夢の空間だった! ……はずが、ある夜、同室のクールな完璧王子・橘玲が女の子であるという、学園最大の秘密を知ってしまう。 なんとこの学園、俺以外、全員が“訳アリ”の男装女子だったのだ! 秘密の「共犯者」となった俺は、慣れない男装に悩む彼女たちの唯一の相談相手に。 「祐樹の前でだけは、女の子でいられる……」 クールなイケメンたちの、俺だけに見せる甘々な素顔と猛アプローチにドキドキが止まらない! 秘密だらけで糖度120%の学園ラブコメ、開幕!

処理中です...