クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第86話 二度目の誕生日

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  秋が深まり、木々の葉が赤や黄色に色づき始めた頃。
  俺は二度目の誕生日を迎えた。
  去年とは全く違う。世界で一番愛しい恋人が隣にいる、初めての誕生日だ。
  その事実だけで、俺の心は朝からずっと浮き足立っていた。

  朝、教室で交わした「おはよう」の手話は、いつもより少しだけ特別だった。
  雫は俺に挨拶を返した後、少しだけ恥ずかしそうに、でも嬉しそうにこう付け加えてくれたのだ。
  『お誕生日、おめでとう』
  そのキラキラとした笑顔と言葉だけで、俺にとっては最高のプレゼントだった。

  放課後。俺たちは特に約束をしていたわけではなかったが、自然と二人きりで教室に残っていた。
  健太や天野さんたちが「主役は二人だけにしてやるよ!」と気を利かせて早々に帰ってくれたおかげだ。
  夕日が差し込む静かな教室。
  俺たちが初めて手話で言葉を交わした思い出の場所。

  「雫、これ……」
  彼女は少しだけ緊張した面持ちで、可愛らしいラッピングが施された少し大きめのプレゼントを俺の前にそっと差し出した。
  「え、いいのか?」
  俺が驚くと、彼女はこくりと力強く頷いた。
  俺はドキドキしながら、丁寧にラッピングを解いていく。
  中から出てきたのは、一冊の真新しいスケッチブックだった。

  「スケッチブック?」
  俺が不思議そうに首を傾げると、彼女は「開いてみて」というかのように、潤んだ瞳で俺を見つめていた。
  俺は、その表紙をゆっくりと開いた。

  その瞬間、俺は息をのんだ。

  最初のページに描かれていたのは、教室の窓際で一人本を読む、少しだけ寂しそうな女の子の姿だった。紛れもない、俺が初めて意識した頃の彼女の姿。
  ページをめくる。
  そこには、俺が初めて手話で『こんにちは』と話しかけた時の、驚きに見開かれた彼女の瞳が、繊細なタッチで描かれていた。
  次のページには、図書室で二人並んで勉強する様子。
  雨の日の相合傘。
  夏祭りの夜、花火を見上げる二人の後ろ姿。
  海で、砂浜に名前を書いたこと。
  そして、観覧車で俺の肩に寄りかかって眠る彼女の、幸せそうな寝顔。

  それは、俺と彼女が出会ってから今日までの、かけがえのない思い出を綴った、世界でたった一冊の物語だった。
  一枚一枚の絵から、その時の彼女の気持ちが、温かい色が、匂いまでもが、鮮やかに蘇ってくる。
  言葉はない。
  でも、どんな言葉よりも雄弁に、彼女の想いが俺の心に流れ込んできた。

  俺は、震える手で最後のページをめくった。
  そこに描かれていたのは、夕暮れの丘の上で、泣きながら微笑む彼女と、それを優しく抱きしめる俺の姿。
  そして、その下には、彼女の少しだけ震えた、けれど丁寧で美しい文字が並んでいた。

  『航くん、お誕生日おめでとう。
  航くんが生まれてきてくれたことに、心から感謝します。
  航くんが、私の世界に色をくれました。
  これからも、このスケッチブックがたくさんの幸せな思い出でいっぱいになりますように。
  私の、一番大切な人へ』

  そのメッセージを読んだ瞬間、俺の胸の奥から熱いものが込み上げてきた。
  ダメだ。泣きそうだ。
  こんなに心が震えるプレゼントをもらったのは、生まれて初めてだった。

  「……ありがとう」
  俺は掠れた声でなんとかそれだけを絞り出す。
  そして、スケッチブックをそっと机の上に置き、目の前で不安そうに俺の反応を待っている彼女の元へ駆け寄った。
  俺は、その小さな体を力いっぱい抱きしめていた。
  「ありがとう、雫……!」
  「今までで一番嬉しい誕生日プレゼントだよ……! 一生、大切にする……!」

  俺の腕の中で彼女の体からすっと力が抜けていくのが分かった。
  そして俺の胸に顔を埋めたまま安心したように、こくりと小さく頷いた。
  夕暮れの静かな教室。
  この温もりを、この感動を、俺はきっと一生忘れることはないだろう。
  二度目の誕生日は、俺たちの恋の物語にまた一つ、忘れられない輝かしい記憶を刻みつけてくれたのだった。
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