クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

文字の大きさ
100 / 100

第100話 君の声がする明日へ

しおりを挟む
「大好きだよ、航くん」

声と、手話。
二つの言葉で紡がれた、雫からの、完璧な愛の告白。
その甘い響きは、夕暮れの教室を満たし、そして俺の心の奥深くに、永遠に消えることのない温かい光を灯した。
俺は、腕の中で幸せそうに笑う彼女の体を、ただ強く、強く抱きしめることしかできなかった。
もう、言葉はいらなかった。
この温もりだけで、俺たちの心は、確かに一つに結ばれていたから。

どれくらい、そうしていただろうか。
教室の外から、下校を促すチャイムの音が、遠くに聞こえてきた。
俺たちは、名残惜しさを感じながら、ゆっくりと体を離す。
離れた距離は、ほんのわずか。
でも、その間に流れる空気は、今までとは比べ物にならないくらい、甘くて、穏やかで、そして満ち足りたものに変わっていた。

涙の跡が残る顔で、彼女は、まだ少しだけ照れくさそうに、でも最高に幸せそうに、はにかんでいる。
その笑顔を見て、俺も、自然と笑みがこぼれた。

「……帰ろうか」
俺が、掠れた声でそう言うと、彼女は、こくりと頷いた。
そして、ごく自然な動作で、俺の前に、そっと右手を差し出す。
俺も、当たり前のように、その小さな手を、恋人繋ぎで、固く、固く握りしめた。
この温もりを、もう二度と、離さない。
そう、心に誓って。

二人並んで、誰もいない、静かな廊下を歩く。
繋いだ手のひらから、お互いの、穏やかで、幸せな鼓動が、どくどくと伝わってくる。
それは、どんな言葉よりも雄弁に、俺たちの気持ちを語っていた。

「なあ、雫」
俺が、ふと、隣を歩く彼女に、声をかけた。
「さっきの、『大好き』、もう一回、聞かせてくれないか?」
俺の、我儘で、少しだけ意地悪な、お願い。
彼女は、驚いたように、ぱっと顔を上げた。
そして、その顔を、みるみるうちに、夕焼けのように真っ赤に染め上げる。
彼女は、抗議するように、俺の腕を、ぽかぽかと軽く叩いてきた。
でも、その瞳は、怒っているのではなく、どうしようもなく、嬉しそうに、潤んでいた。

彼女は、ぷい、とそっぽを向いてしまう。
そして、聞こえるか聞こえないかくらいの、本当に、小さな、小さな声で。
蚊の鳴くような、囁き声で、その言葉を、もう一度、俺にプレゼントしてくれた。

「……だ、いすき……」

その、あまりにも可愛すぎる響きに、俺の心臓は、完全にノックアウトされた。
俺は、たまらなくなって、その小さな体を、背後から、ぎゅっと、抱きしめたい衝動に駆られた。
もちろん、まだ学校の中なので、必死で、その衝動を抑え込んだけど。

校門を出て、夕闇に染まる、帰り道を歩く。
俺たちの、当たり前だったはずの、帰り道。
でも、今日は、全く違う景色に見えた。
街灯の光が、いつもより、ずっと温かく感じる。
吹く風が、いつもより、ずっと優しく感じる。
そして、隣で、俺の手に、自分の体重を預けるように、寄り添って歩く、君の存在が。
いつもより、ずっと、ずっと、愛おしい。

卒業まで、あと、数ヶ月。
俺たちの、高校生活は、もうすぐ終わりを告げる。
俺は、東京の大学へ。
彼女は、東京の専門学校へ。
俺たちの道は、少しだけ、分かれることになる。
新しい生活。新しい環境。
そこには、きっと、たくさんの不安が待っているだろう。

でも、もう、俺たちは、何も怖くなかった。
離れたくない、と泣いていた、あの日の俺たちは、もういない。
物理的な距離なんて、関係ない。
俺たちの心は、決して解けることのない、固い、固い絆で、結ばれているのだから。
そして、何より。
俺たちには、声と、手話という、二つの、最強の言葉がある。

これからも、俺たちは、この二つの言葉で、たくさんの愛を、伝え合っていくのだろう。
嬉しいことも。
楽しいことも。
悲しいことも。
辛いことも。
その全てを、二人で、分かち合っていく。

駅の改札口で、別れの時間が来た。
「じゃあ、また明日な」
俺が言うと、彼女は、こくりと頷いた。
そして、最後に、俺の目を、真っ直ぐに見つめて、こう言ってくれたのだ。
声と、そして美しい手話を、添えて。

「うん。また、あした」

その、当たり前のようで、奇跡のような言葉。
俺は、最高の笑顔で、頷き返した。
「ああ。また、明日」

彼女の姿が、人混みに消えていくのを、見送る。
一人になったホームで、俺は、空を見上げた。
そこには、一番星が、力強く、輝いていた。

君の声がする、明日へ。
俺たちの、甘くて、優しくて、そして最高に幸せな物語は、まだ始まったばかり。
これからも、ずっと、ずっと、続いていく。
俺は、そんな輝かしい未来を、胸いっぱいに感じながら。
幸せな、ため息を、一つ、夜空に、吐き出した。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ピモ
2025.12.19 ピモ

クラスで二番目ってマンガ読んでるけど、パクりですか?

解除

あなたにおすすめの小説

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2026.1.21)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿 心刃
恋愛
僕の幼馴染で姉的な存在である西田香奈は、眉目秀麗・品行方正・成績優秀と三拍子揃った女の子だ。彼女は、この辺りじゃ有名な女子校に通っている。僕とは何の接点もないように思える香奈姉ちゃんが、ある日、急に僕に急接近してきた。 僕の名は、周防楓。 女子校とは反対側にある男子校に通う、ごく普通の男子だ。

不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく

桜乃マヒロ
恋愛
 姉の柊和(ひより)は美人で聡明な完璧万能超人、弟の護(まもる)は優しく献身的な天然男子。高校生ながら二人暮らしの柊和と護は、お互いを支え合って日々を生きてきた。  ある日、友人である生徒会長から呼び出された柊和は、自分を次の生徒会の会長に推薦したいと打診を受ける。 「私はただ、私の後なら柊和ちゃんがいいなって、そんな風に思っただけだからね」  二人だけの閉鎖的だった日常は、生徒会をきっかけに急激な変化を迎える。新しい出会いと日常の中で、今まで眠っていた二人の過去と、片や必死に封じ込み、片や無自覚だった特別な想いに、光が射し込むことになり──? 「あくっ……護には負けない!」 「なんの話か知らないけど、宣言されたら負かせたくなるね?」  顔と心に傷として刻まれた過去に囚われ、自分よりお互いを大切にしすぎてすれ違い続ける不器用な姉弟。そんな二人の両片思いのお話。 —————————————————————————————————  面白いと思っていただけた時は、お気に入りにしていただけると、凄く励みになります!  一日一話を目標に更新中!(現在火曜・木曜・土曜お休み中) 「小説家になろう」 「カクヨム」様でも同時に投稿しています。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。