外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第12話:癒やしの力

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アシュレイ公爵の告白は、あまりにも衝撃的だった。
心を凍らせる呪い。いずれ失われる感情。そして、私の【修復】スキルが、その呪いを解く唯一の希望であるという事実。
全てが信じられないような話だったけれど、彼の紫の瞳に宿る真摯な光が、それが紛れもない真実であることを物語っていた。
ガゼボの中を、夜風が静かに吹き抜けていく。花の甘い香りが、今はどこか切なく感じられた。
「……私に、本当にそのようなことができるのでしょうか」
私は不安げに呟いた。私のスキルは、これまで壊れたカップやオルゴールといった、命のないがらくたにしか使ったことがない。人の身体にかかった呪いという、形のないものにまで効果があるのか、全く見当もつかなかった。
「出来る出来ないではない。君だけが、私の最後の望みなのだ、リナ-リア」
アシュレイ公爵の声は、静かだったが、その奥には神に祈るような切実さが込められていた。
彼のその言葉に、私は腹を括った。
たとえ出来なかったとしても、試す価値はある。この人が、私を必要としてくれている。それだけで、私には十分だった。
「……わかりました。やってみます」
私がそう言うと、彼の瞳に、安堵と期待の色が浮かんだ。
「では、どうすれば……? 呪いにかかっている場所に、触れればいいのでしょうか」
私はおずおずと尋ねた。これまでの経験から、スキルを発動させるには対象に直接触れる必要があった。
アシュレイ公爵は少し考え込むように黙った後、静かに言った。
「呪いの核は、私の心臓にある。……だが、いきなりそこは難しいだろうな」
彼はそう言うと、自らの左手を私の方へ差し出した。月明かりの下で、その手は彫刻のように白く、美しかった。
「まずは、ここから試してみてくれないか。呪いは私の全身を巡っている。末端であるこの手でも、何らかの変化が分かるかもしれん」
「……はい」
私は頷くと、深呼吸を一つした。そして、震える両手で、彼のかざした左手をそっと包み込むように握った。
彼の手に触れた瞬間、ひやりとした冷たさが私の手のひらに伝わってきた。それは、ただ気温が低いというだけではない。まるで、生命の温もりが欠落しているかのような、無機質な冷たさだった。これが、呪いの影響なのだろうか。
私はぎゅっと目を閉じ、意識を集中させた。
スキル【修復】。
お願い、発動して。彼の苦しみを、少しでも和らげて。
心の中で強く念じる。私の内に宿る力が、ゆっくりと目覚めていくのを感じた。それはいつもと同じ、淡く、温かくも冷たくもない、無機質な光の感覚。
その力が、私の手のひらから、アシュレイ公爵の冷たい手へと流れ込んでいく。
壊れたものを、あるべき姿に戻す力。
呪いに蝕まれた彼の身体を、蝕まれる前の、健康な状態に。
そのイメージだけを、ひたすらに思い描いた。
すると、いつもとは違う奇妙な感覚が私を襲った。
私の力は、彼の手に流れ込むと同時に、何か黒く、冷たい靄のようなものにぶつかったのだ。それはまるで、彼の身体の内側に張り付いた、粘つく泥のようだった。それが呪いの正体なのだと、直感的に理解した。
私の【修-復】の力は、その黒い靄を、少しずつ、本当に少しずつだが、溶かし、浄化していくようだった。じゅわ、と氷が溶けるような、微かな手応え。
「……これは」
不意に、アシュレイ公爵が息をのむ声がした。
私ははっと目を開ける。すると、彼は信じられないものでも見るかのように、私と繋がれた自分自身の左手を見つめていた。
「温かい……」
彼が、呆然と呟いた。
「君の手から、温かい何かが流れ込んでくる。そして、この左腕を苛んでいた鈍い痛みが……和らいでいる……?」
その言葉に、私は自分の手のひらを見た。
私たちが繋いだ手と手の間から、淡い、本当にごくごく淡い光が溢れ出しているのが見えた。それはまるで、闇夜に灯る蛍の光のように、儚く、しかし確かにそこにあった。
「すごい……」
思わず声が漏れた。
私の力は、確かに彼の呪いに干渉できている。完全に解呪するには至らないかもしれない。けれど、彼の苦痛を和らげることはできる。
それが分かった瞬間、私の胸は、これまで感じたことのないほどの喜びに打ち震えた。
初めてだった。
自分の力が、誰かの役に立った。
「出来損ない」と蔑まれ続けたこの力が、今、目の前の人を救う希望の光になっている。
「リナリア……」
アシュレイ公爵が、私の名前を呼んだ。その声は、感動と驚きで微かに震えていた。彼は私の手を、さらに強く握り返す。
「君は、本当に……私の女神だ」
彼の紫の瞳が、熱を帯びて私を見つめている。そのあまりにも真っ直ぐな視線に、私の顔はカッと熱くなった。
心臓が、早鐘のように鳴り響く。
それは、自分の力が認められたことへの喜びだけではなかった。
彼に必要とされていること。彼に触れていること。彼に見つめられていること。
その全てが、私の心を甘く、そして激しく揺さぶっていた。
この感情が何なのか、まだ私にははっきりと分からなかった。けれど、ただ一つだけ確信できることがあった。
私は、この人のために、この力を使いたい。
この人の笑顔を、取り戻したい。
月明かりが照らすガゼボの中で、私たちはしばらくの間、ただ手を繋いだまま、互いを見つめ合っていた。
それは、二人の運命が、確かな希望の光によって結ばれた瞬間だった。
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