外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第39話:嫉妒する第二王子

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同じ頃、王宮の一室では、第二王子エドワードが苛立ちを隠せずに、部屋の中をいらついた様子で歩き回っていた。
床に敷かれた高級な絨毯も、壁に飾られた高名な画家の絵画も、今の彼にとっては、自らの不満を増幅させるだけの鬱陶しい背景でしかなかった。
「忌々しい……! なぜ私が、こんな目に!」
父である国王から、当分の間の謹慎を言い渡されて数日。エドワードは、自室に閉じこもり、屈辱と怒りに満ちた時間を過ごしていた。
彼にとって、それは耐え難い苦痛だった。常に人々の注目と賞賛を浴びて生きてきた彼が、まるで罪人のように部屋に閉じ込められる。その原因が、自分がかつて捨てた、取るに足らないはずの女、リナリアにあるという事実が、彼のプライドをずたずたに引き裂いていた。
そこへ、侍従が控えめに扉をノックし、一人の客人の来訪を告げた。
「エドワード様、イザベラ様がお見えでございます」
「……通せ」
エドワードは、不機嫌な声を隠そうともせずに答えた。
部屋に入ってきた婚約者のイザベラは、エドワードの荒れた様子を見て、心配そうに眉を寄せた。しかし、その瞳の奥には、彼と同じ種類の、どす黒い嫉妬の炎が燃え盛っている。
「エドワード様、おいたわしい……。全て、あのリナリアのせいですわ」
彼女は、エドワードの腕に甘えるように寄り添い、猫なで声で囁いた。
「あの女が、アシュレイ公爵を誑かしたばかりに……」
「分かっている!」
エドワードは、その腕を苛立たしげに振り払った。
「あの女のことなど、聞きたくもない! それに、アシュレイ……! あの男、父上に一体何を吹き込んだのだ!」
アシュレイ・フォン・アイゼンベルク。
その名は、エドワードにとって、常に劣等感を刺激される、最も忌むべき存在だった。
同じ貴族の頂点に立つ者でありながら、アシュレイは常にエドワードの一歩先を行っていた。剣技も、魔力も、そして民衆からの人気も。エドワードがどれほど努力しても、アシュレイの持つ、あの絶対的なカリスマ性と実力には、どうしても敵わない。
そのアシュレイが、今や、王都の話題の中心となっているリナリアを、完全に自分のものにしている。その事実が、エドワードの嫉妬心を、狂おしいほどにかき立てていた。
「それに、信じられるか!? あの女が、本当に聖剣を修復したというのだ!」
エドワードは、苦々しげに吐き捨てた。
聖剣復活の報せは、謹慎中の彼の耳にも、もちろん届いていた。最初は、アシュレイが仕組んだ虚報だろうと高を括っていた。だが、王宮内の騒ぎようを見るに、それが紛れもない事実であることを、認めざるを得なかった。
「一体、どんな妖術を使ったのか……。あんな出来損ないに、そのような力があるはずがない!」
「ええ、左様ですわ。きっと、何か汚い企みがあったに違いありません」
イザベラも、扇子で口元を隠しながら、同意の言葉を口にする。
「ですが、エドワード様。嘆いてばかりもいられませんわ。本日、午後には、あの女とアシュレイ公爵が、国王陛下に謁見するとか」
その言葉に、エドワードははっと顔を上げた。
「謁見だと? 謹慎中の私を差し置いてか!」
「ええ。国王陛下は、リナリアのその力を、ご自身の目でお確かめになりたいのでしょう。もし、その力が本物だと認められれば……あの女は、もはや私達の手の届かない存在になってしまいますわ」
イザベラの言葉は、エドワードの心に、さらなる焦燥感を植え付けた。
このままでは、自分が捨てた石ころが、自分の頭上できらきらと輝く宝石になってしまう。それだけは、断じて許すことができない。
「……何か、手はないのか」
エドワードは、すがるような目でイザベラを見た。この狡猾な婚約者なら、何か起死回生の策を持っているかもしれない、と。
イザベラは、待ってましたとばかりに、その唇に蠱惑的な笑みを浮かべた。
「もちろん、ございますわ、エドワード様」
彼女は、エドワードの耳元に唇を寄せ、毒のように甘い声で、その計画を囁き始めた。
「謁見の場で、あの女に恥をかかせてやればいいのです。聖剣を修復したなどと、思い上がっているあの女の鼻を、へし折ってやるのですわ」
「だが、どうやって? 父上の御前だぞ」
「ご心配なく。陛下も、リナリアの力を完全に信じ切っているわけではございません。むしろ、疑っておられるはず。私達は、その疑いを、確信に変えて差し上げるお手伝いをするだけでございますの」
イザベラの瞳が、蛇のように冷たく、そして計算高く光った。
「私には、考えがございます。私のスキル【祝福】を使えば、あることができるのです。そして、エドワード様にも、少しだけお手伝いいただきたいことが……」

彼女が語った計画は、あまりにも悪辣で、そして卑劣なものだった。
それは、リナリアの功績を、そして彼女の存在そのものを、公衆の面前で完全に貶めるための、巧妙に仕組まれた罠。
その計画を聞き終えたエドワードの顔には、先ほどまでの苛立ちは消え、歪んだ愉悦の笑みが浮かんでいた。
「……ははっ。ははははっ! さすがは私のイザベラだ! それは面白い!」
彼は、イザベラの細い腰を抱き寄せ、その唇を乱暴に奪った。
「それでこそ、私の妃に相応しい! やってやろうではないか! あの忌々しい二人を、絶望の淵に叩き落としてやるのだ!」
部屋の中に、二人の歪んだ笑い声が響き渡る。
彼らは、自分たちの計画が完璧だと信じて疑わなかった。
彼らがこれから貶めようとしている少女が、もはや自分たちの知っている、無力で泣き寝入りするだけの少女ではないということに、全く気づかないまま。
そして、その少女の背後には、いかなる卑劣な罠も、その圧倒的な力と知略で打ち破る、王国最強の守護者がいるということを、完全に忘れて。
嫉妬に狂った二人が仕掛ける罠は、静かに、しかし確実に、その時を待ち構えていた。
それは、彼ら自身の破滅への、カウントダウンの始まりでもあった。
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